第06話「人形と盗賊」
この話には少しだけ残酷な表現があります。
個人的にはたいしたことないと思っていますが、苦手な人はご注意ください。
第06話「人形と盗賊」
ちょっ、何これ!? 急にどうしたの!?
「ぎゃあぁあぁぁっ!」
「うわぁっ、痛い、痛いいぃぃぃっ!!」
馬車の外にいた冒険者の人達から悲鳴がいくつも上がっていた。
それにアスレイアちゃんの言うとおり、とっさに伏せなかった人も……!
うわっ、こっちにも矢が飛んで来た!?
「レイオン、お願い!」
そこでなんで俺!? って、そうか! アスレイアちゃんの魔法を逸らしたみたいに!
ぐぬぬぬ、えい!
アスレイアちゃんに当たりそうな矢は、ぐにっと明後日へ方向転換。
もちろんレモンちゃんやカシスさんも守るよ!
それにしても、どうして急にこんな……。
「多分盗賊。噂ではもっと北の方に出没していたはずなんだけど……」
盗賊ですと!?
そう言えば、アスレイアちゃんが冒険者協会で情報収集していたっけ。
俺には関係無いなーって聞き流してたけど、それが、このタイミングで? もう少しでアリッサちゃんのところに帰れるのに!?
「……来た」
アスレイアちゃんの言うとおり、馬車を囲むようにたくさんの気配が現れる。
護衛の人達の断末魔が、あちらこちらから聞こえてきた。
ちなみに馬車を引いていた馬は矢でハリネズミみたいになっているね。
「護衛は全員始末したな? よし、てめぇら、金目の物をかき集めろ!」
「お頭、乗客はどうしやす?」
「とりあえず生きている奴は全員捕まえろ。奴隷として売れば多少は金になるだろ」
「へい、了解でさ!!」
盗賊達が、ぞろぞろと連絡馬車の中に入ってきた!
どうしよう、アスレイアちゃん?
「護衛をあっさり倒したくらいだし、多勢に無勢だから下手に動かない方が良いわ」
そ、そっか、アスレイアちゃんがすごい魔法使いでも、囲まれちゃうとヤバイもんね。
変に暴れて、周りの乗客を人質に取られちゃっても困るし……。
でも、こいつら奴隷にするって……そんなのはさすがに見過ごせないよ!
だけどすでに、盗賊は目の前にまで来ていた。
「へっへっへ、女もいるじゃねぇか。おら、こっちに来い!」
「きゃぁぁっ、は、離してぇぇっ」
「お母さぁん!!」
ああっ、カシスさんが連れて行かれちゃう! レモンちゃんも無理矢理引っ張られて……。
「おっ、こっちの嬢ちゃんも高く売れそうじゃねぇか。まぁ、胸が残念──」
「誰が貧乳だ、このクソ男!!!」
「ぴぎゃぁぁあぁぁぁっ!!」
って、アスレイアちゃぁぁぁぁん!!
盗賊の一言であっさり切れたアスレイアちゃんが、持っていた杖で男の大事なところを一撃。
見事なクリーンヒットだけど、下手に動かない方が良いって前言はどこへ行ったのぉぉ!?
「こ、このガキィィィっ!」
「きゃっ!?」
あわわわわ、別の盗賊がアスレイアちゃんの顔を目掛けて思いっきり拳を振り回してきた……!
くっ……させるか!
ってことで、念力を使ってアスレイアちゃんの身体を後に引っ張ってみる。
「あぐっ……!」
「……お? なんだ、今の手応え……まぁ良いか。おらぁっ、周りにいる奴も歯向かえばこうなる、黙って従いやがれ!!」
床に転がったアスレイアちゃんを踏みつけて盗賊が叫ぶ。それを見て他の乗客はすっかり萎縮しちゃったみたいだ。
大人しく縄で縛られて、1人1人連行されてしまう。
ちなみにアスレイアちゃんは、上手く拳が直撃しないようポイントをずらせたみたいで、殴られたダメージはほとんどないはずだ。
ふぅ、良かった。でも可愛い顔が赤くなっちゃってる。しかも踏みつけて……!
ぐぬぬぬぬ、許すまじ、盗賊!
でも完全に多勢に無勢。護衛は血を流して地面に転がっていて、ピクリとも動かない。
ちゃんとした冒険者のはずなのにちょっと情けないね。生きて誰かに助けられると良いけど。
そして乗客である俺達は、盗賊に連れられてそのアジトにご招待されることになった。
で、そのアジトに到着したよ。
俺はアスレイアちゃんや乗客達とは別のところに連れて来られちゃったみたい。
ただの人形としか思われていないらしく、回収した金目の物と一緒に倉庫へ押し込められちゃった。
今回はたんまり稼げたみたいで、盗賊達はどんちゃんと大騒ぎ中な様子。ここにまで声が聞こえてくるってことは相当だよね。
まぁ国が運営している連絡馬車を襲っちゃうくらいだし、ハイリスクハイリターンって奴なのかな。
でも絶対に国から目につけられるはずだけど、どうするんだろう。逃げられる算段とかあるのかな?
ま、そんなことはどうでもいいや。アスレイアちゃん達はどこにいるのかな……乱暴とかされてないと良いけど。
今は思いっきり油断しているみたいだし、そろそろアスレイアちゃん達を探しに行動しても大丈夫っぽい?
……うん、行動開始! 好き勝手した盗賊どもめ、アスレイアちゃんを殴ったり踏んだりした報いを受けるがいい!
あと、俺がアリッサちゃんのところに帰る邪魔をしたのも許さん!
しかし、どうやって動いたもんかね。
……火でもつけてみる?
このアジトはどこかの洞窟を利用しているっぽいし、きっと煙と火ですごいことになるよ! でも連れてこられたみんなが巻き込まれちゃうから却下だよね。
おっ、切れ味の良さそうな短剣を発見! 俺でも操れる重量みたいだし、一応持って行こう。
あんまり隠れる場所もなさそうだし、見張りの盗賊に見つかったらグサリ、ってね。
あとは……乗客達の荷物とか、お高そうな物が転がっているけど、使えそうなのはないなぁ。
一応投げつけても大丈夫そうな物もいくつか持って……と。
さぁ、まずはアスレイアちゃんとの合流を目指してみようか!
ドアの前へ移動して……見張りがいませんように、南無三! と、ゆっくり開けてみる。
うん、誰もいない。ちょっと油断しすぎじゃない? 俺としては助かるけど。
「……ぐぅ」
って、誰かいたぁああぁぁぁっ!!
ビビった! でも、居眠りしてた!
……ん? あれ、こいつ、アスレイアちゃんを殴った奴じゃないかな? しかも踏みつけて得意そうな顔していた……。
それにこの盗賊達のせいで、護衛の冒険者の人とか同乗していた人ら数人が大怪我したり死んじゃったりしているんだよね。
ぐぬぬぬ……許すまじ! ちょうど良いね。とりあえず騒がないように喉に短剣をグサリ。
「~~~~~っ!?」
ふははは、人形の怒りを思い知るが良い!
あ、声は出さないでね? お仲間に駆けつけられると厄介だから。あれだけ騒いでいれば、ちょっとやそっとの声は聞こえないと思うけど。
そしてそのまま永遠におやすみ、グンナイ。
しばらく血を噴き出しながらバタバタ動いていたけど、すぐに力尽きてグッタリした様子。
殺された人達の仇討ちと邪魔者の排除は完了っと。南無南無。
あーでも、俺ってば前世でも今世でも初めて人を殺しちゃったんだなぁ。
でも不思議とそれほど罪悪感がない。前世の倫理観も残っているから、いけないことをしているって意識はあるんだけど。
どうしてだろう。やっぱり人形だからかね?
おっと、考え込んでいる場合じゃなかった。アスレイアちゃんはどこかな~。
さまようこと数分。それっぽい場所を発見しましたよ!
入り口に見張りが2人。ドアの向こうから人がなんか叫んだり泣いたりしている声がする。
きっと乗客達をあそこに押し込めているんだと思うんだけど、どうだろ。
倉庫の見張りみたく居眠りしてないし、排除するのは難しいかなぁ……。
うーん……ま、案ずるよりは産むがやすし。ここは持ってきた物を有効活用しよう。
使うのはぶつけやすそうな物。ただの何かの塊なんだけどね。石じゃないけど……なんだろこれ。ま、材質なんてどうでもいいや。
そして、俺の念力の有効範囲の限界に挑戦するよ!
今までは自分を中心として少しの距離しか試したことがなかったんだよね。必要もなかったし。
でも森でのぼや騒ぎのとき、アスレイアちゃんが降らした水を広範囲から集めることができたんだよ。だから、有効範囲は結構広いのかもしれない。
まぁ何事もチャレンジだよね。
ってことで、塊をゆっくり、気付かれないように俺のいる場所とは逆側へ移動させて……。
む……ぐぐ、こ、これは、結構キツいかも……?
距離が離れれば離れるほど塊が重く感じて……これってあれかね、俺からの距離と持てる重さが反比例してる感じ。
1メートル内だと5kg持てるけど、5メートル離れると1kgしか持てない的な。
本当ならもっと距離を稼ぎたかったけど……これで良いや。てぇぇぃ!
「いてっ!?」
放物線を描いた塊は、見張りの1人の頭に見事ストライク。
おっ、塊の飛んで来た方を警戒しているよ!
「誰だ、これを投げた奴は!」
「浮かれて騒いでる奴の誰かじゃねぇの?」
「ふざけんじゃねぇ! こっちはご馳走も酒もお預けをくってるってのによぉ! せめて女の1人もヤらせろやっ!」
「おいおい、女は売り物にするから手を出さないってことにお頭が決めただろ」
ふむふむ。どうやら女性達は乱暴されていないらしい。
子供のレモンちゃんはともかく、カシスさんはかなり心配だったんだよね。アスレイアちゃんも、胸のサイズさえ気にされなければかなりやばかっただろうし。
「おい、ぶつけたのは誰だって聞いてんだろ! 隠れてねぇで出て来い!!」
あの盗賊は相当短気な様子。持ち場を離れて、塊が飛んで来た方向へ行っちゃった。
チャンス到来!
俺はこっそり、もう1人の男へ忍び寄る。あ、人形だから気配なんてしないと思うよ。
で、背後から喉を短剣でグサリ。
「~~~~~~~っ!?」
できれば遠くからやりたかったけど、離れれば離れるほど力が入らないみたいだからなぁ。
でも人形の身体って便利。こうやって忍び寄れるのってすごいアドバンテージだよね。
「んぁ? おい、いきなり変な声を出してどう──」
「ん……ぐっ、ぐはぁっ!!」
「て、てめぇ、なんで喉から血を噴き出して……!?」
慌ててこっちに駆け寄ってくるもう1人の盗賊。相当驚いているのか、周りがまったく見えていない。
ってことで、血を噴き出す男の背に隠れていた俺は、近づいて来るなりもう1人に短剣をズブリ。
「ひぎやぁぁあぁぁぁぁっ!!!」
あ、隠れたままだから狙いがそれちゃった。喉を裂くつもりが頸動脈をスッパリ切っちゃったみたい。
まぁこのまま死んじゃうだろうけど、この声で他の盗賊が駆けつけて来たら嫌だなぁ。
「な、あ、なんで、人ぎょ……う、が……」
あ、しゃべんなくていいです。あでゅー!
「ぴぎゃぁぁぁぁっ!!」
もう1度短剣を動かして、今度はちゃんととどめを刺す。
さて、ドアには鍵がかかっているっぽいから、この見張り達から奪わないとね。
どこにあるかなー。って、発見!
懐から引っ張り出した鍵束を使って、早速ドアをオープン。
ここにアスレイアちゃん達がいてくれれば良いんだけど……。
「え? レイオン……?」
おっ、ビンゴ! ちわーっす、助けに来たよ、アスレイアちゃん!
目的の人物を見つけ、俺は鍵束とか短剣とか持ったままフワフワと近づいていく。
もちろんその前に、ドアを閉めて施錠するのは忘れない。盗賊の増援がなだれ込んできても嫌だしね。
こうしてちゃんとドアを閉めておけば、少なくない時間は稼げるはずだし。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ、出た、化け物だああぁぁあぁぁっ!!」
へ? 化け物? どこ? どこ?
「や、やめてくれ、許してくれぇぇっ、俺には女房も子供もいるんだ……ひぃぃぃっ!」
「モンスター……なのか? な、なんて凶悪そうな奴だ……やめろ、近づくなぁぁっ!」
乗客達が、みんなこっちを見て怯えた声を上げている。
もしそんな化け物がいたら大変だ! ってことで俺も辺りを見渡すけれど……そんなのいないよ?
「レイオンのことに決まっているでしょ。どうして血まみれになっているのよ……。それにさっきの悲鳴は何?」
うぇっ、マジだ!? あー、そっか、さっきの見張りの頸動脈をスパッとやっちゃったからか。
血が噴水みたいになっていたし、鍵を探すのにそんな相手の懐をまさぐっていたもんね。
悲鳴が上がったあと、血まみれの人形が短剣を持って近づいてくる。確かにホラーかも。
アリッサちゃんの作ってくれた可愛い身体でも、さすがにそれは怖がられるよね。
あーでも、騒ぐのはやめて欲しいかな。他の盗賊が来ちゃうかもしれないから。
「そうね……みなさん大丈夫です、彼はわたし達を助けに来た味方ですから。騒がず、静かにお願いします」
「で、でも、お嬢さん、本当に……」
「ええ。カシスさんも馬車で見たでしょう? あの人形を」
「あっ……ねぇねぇお母さん、あの子、あのときのお人形だよ!」
おっ、レモンちゃんも無事だったみたいだね! カシスさんも乱暴されていないようで何より。
とはいえ、みんなは動けないように手足をロープで縛られているみたいだ。
まずはアスレイアちゃんかな。動かないでね。
「え? レイオン何を……ひぃっ!?」
一瞬きょとんとするアスレイアちゃんのロープを、短剣でズバッと切ってしまう。
そこそこ振り回しているおかげなのか、結構細かい作業もできるようになってきた気がする。
「レ、レイオン! ロープを切るなら切ると先に言いなさい! 驚くじゃないのよっ」
おっと、それはごめんなさい。でも、マジでさっき声を聞いた盗賊が駆けつけてくるかもしれないから、サクサクやらないとマズイんだよね。
「それはわかるけど……はぁ、もう良い、短剣を貸して。わたしが他の人の拘束を解いて回るから。レイオンは、わたしのローブと杖の回収をお願い」
ラジャー! 俺だと他の人には怖がられちゃうみたいだしね。
それでローブと杖は……この部屋の隅っこにまとめて置かれていた。
俺と一緒に倉庫に置かれていなかったということは、たいした価値はないと思われたのかな。
ひょいひょいっと。目的の物を回収して、アスレイアちゃんへお届け完了。
おっ、部屋の外が騒がしくなって来たぞ。
アスレイアちゃん、やっぱり盗賊の増援が来たみたい!
ドアは施錠した上に鍵は俺が持っているから、すぐに開けられなくてドンドン叩いてるよ。
「こっちも……今、全員解放し終わったわ!」
持っていた短剣を俺に差し出しつつ、ローブを着て杖を構える。
うん、魔法少女アスレイアちゃん誕生だ。
「魔法少女言うな! わたしは未来の大魔師よ!」
そう言ってキリッとした顔をするけど、可愛さが全面に押し出されていて威厳がない。残念!
「おい、お嬢ちゃん、これからどうするんだ? 外に盗賊どもが来てるんだろ?」
「ヤバイよ、このままじゃ俺達殺されるんじゃ……」
「お、お姉ちゃん」
みんなが不安そうにアスレイアちゃんを見る。
ここの盗賊達は護衛の冒険者を全滅させた上で連絡馬車を襲ってきたから、普通ならただの乗客が敵うわけがない。
歯向かったら皆殺しとか普通にして来そうだ。
「大丈夫、あのときは多勢に無勢だったから手を出さなかったけど、まとめて襲いかかられなければやりようはあるわ」
おお、なんだか良くわからないけどすごい自信だ!
で、具体的にはどうするの?
「どうするって……こうするのよ! 火弾!!」
言うが早いか、アスレイアちゃんの目の前に火の玉が現れた!
そして施錠したドアをぶち破ってその向こうにいた盗賊を巻き込み、火だるまにしてしまう。
「ぎゃあぁぁっ、熱い、熱いぃぃぃぃ!!」
「お、おい、奴らの中に魔法使いがいるぞ!」
「入り口から離れろ! 狙い撃ちにされるぞ!!」
盗賊達が慌てて部屋の出入り口から離れていく。
今の火の玉の威力を見たらそれも無理はないよね。だって、ドアごと吹き飛ばされるなんて思わなかっただろうし。
「くっくっく……その程度でわたしの魔法から逃げられると思わないことね! 炎矢!!!」
ひぃぃっ、今度は炎の矢が大量にアスレイアちゃんの目の前にぃぃぃぃ!
やだ、怖い、何この量!?
「レイオン、バラ撒くから通路の左右に散らして!」
い、いえっさー!!
「人を貧乳扱いした報いを受けなさい!!」
って、怒っているのそのことなのー!?
アスレイアちゃんの前から勢い良く炎の矢が飛び出していく。
俺は慌てて、念力でそれを通路の左右へと適当に進路をねじ曲げた。
「ぎゃぁああぁああぁぁぁぁ、な、なんで曲がって……ひぎぃぃぃっ!」
「焼けるぅぅぅぅっ、熱い、ひぃぃいぃ、た、助けてくれぇぇぇっ!」
「あばばばばばばばば!!!」
おーう……これぞ地獄絵図って奴だね……。
人が焼ける匂いがして、乗客のみなさんは気持ち悪そうにえずいてるよ……。
でも、アスレイアちゃんはなぜか満足そうに笑っている。
「くっくっく……まだまだ行くわよ! 火炎槍!!」
今度は炎の槍なの!? っていうか、アスレイアちゃん、どんだけ凶悪な魔法を使うつもりなのかな!?
あと洞窟みたいなところで火はあんまりオススメできないから! 煙で乗客の人達も全滅しちゃうし!
しかし、自分で天才とか大魔師とか言ってたけど、これはマジモンだね……。
そして10分後。通路にいた盗賊達は綺麗に灰になってしまったとさ。
「ば、化け物だ……」
「ふぇぇぇぇぇぇぇ、お、お母さん、怖いよぉぉぉ」
「ひ、ひぃぃ、人殺し人形を連れた殺戮者だ……」
あ、なんか今すごい2つ名をつけられた気がする。
人殺し人形ってなに? それは酷い……。
でもアスレイアちゃんの殺戮者ってのはあっているかも。もちろん、ルビでスレイヤーとか入れるとピッタリだね。
殺戮者アスレイア。あはは、見事に韻を踏んでいるや。
「……レイオン、何か言った?」
い、いいえ何も! というか、そろそろここから逃げない?
「それもそうね。まだ盗賊を全滅させていないから、背後の心配もしないといけないけど……」
そうですか、アスレイアちゃんは皆殺し予定でしたか。
まぁ俺としても異存はないけどね! こいつらのせいでアリッサちゃんのところに帰るのが遅くなっちゃってるわけだし。
でも、今はちょっと許してあげても良いかなーなんて思っている。
「ん? どうして?」
俺ってさ、さっきまでお宝を突っ込んだ倉庫にいたんだよね。
あそこにある金目の物を持って帰れば大金になるんじゃないかなーって。
「……そうね、慰謝料くらいもらっても良いわよね」
ってことで、早速他の人達を引き連れて、倉庫経由で外へ向かうことに。
「て、てめえら、どこへ行きやがる! ってか、さっきから暴れてるのは──」
「うっさい。炎矢」
「へぼっ!!」
単発で出てくる盗賊をあっさり炎の矢で貫きつつ。
「おい、待てや! 良くも俺の盗賊団を──」
「爆炎」
「────」
あ、今の盗賊団のお頭って呼ばれていた人だ。
アスレイアちゃんの魔法で一瞬で蒸発しちゃったけど。
とまぁ、そんな感じで無事に脱出。
「た、助かったのか……?」
「あぁ……神様……」
外に出られた途端、乗客の人達は安堵のために座り込んでしまった。
そんなみんなを尻目に、アスレイアちゃんは盗賊のアジトに向かってさらに魔法を打ち込む。
「火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾! 火弾!」
派手な音を立てて崩れ落ちていく洞窟。
……うん、多分生き延びた盗賊がいても、これでもう助からないね。
「ふぅ、スッキリしたー。あ、レイオン、あとでその血を洗ってあげるわね」
う、うん、ありがとう、アスレイアちゃん。
でも、俺はちょっと君のことがわからなくなったよ……。
それは他の人も同じなのか、ガクガクブルブルしながらアスレイアちゃんを見ている。
ちなみにその視線は俺にも注がれてる気がするけど、気にしたら負けだと思う!
つーか、アスレイアちゃん。それだけ強かったら盗賊に掴まる前に殲滅出来たんじゃないかな?
「え、無理よ。火魔法以外はそこまで自信がないし、囲まれている状態で見境なく魔法をぶっ放したら他の乗客とか馬車含めて灰になっちゃうじゃない」
……うん、多分そうじゃないかと思ってた。
そしてそのときは多分真っ先に俺が焼けちゃうよね!
この子、絶対に天才じゃなくて天災とか書かれる、危険物的な何かだよ……。
でもさ、捕まっちゃうのは危険だったじゃないか。もしかしたら、盗賊にいろんなことされちゃってたかもしれないし!
「……わたしだってわかっているわよ。でもあの場合はしかたないでしょ?
囲まれている状態でわたし1人が頑張っても、絶対に誰かが人質にされていただろうし」
それは、まぁ。あの場面で暴れたりすれば、たくさん人が殺されていた可能性もあるね。
「それに、わたしは縛られたままでも魔法は使えるから。いざとなったらそれで自分の身くらいは守れるわ。
一応目の前で誰かが殺されそうにでもなれば、すぐにでも助けようと思っていたし」
そっかぁ……って、あれ? ちょっと待って!
ねぇ、アスレイアちゃん。あの部屋に連絡馬車に乗っていた人は全員揃っていたんだよね?
「そうね。一緒に連れてこられた人は全員いたと思うわ」
じゃあ、俺が行く前にさっさと逃げ出していても良かったんじゃないかな!?
「でも、レイオンがいなかったでしょ? あの状況で手当たり次第に火をつけて回っていたら、あなたが焼け死んでいたかもしれないじゃない」
そ、そっかぁ……俺のことも考えてくれていたんだね……!
嬉しいけど……火をつけて回ることが大前提にあるところは突っ込んだ方が良いのかな?
火の魔法じゃなければそんな心配もいらなかった気がするけど……まぁ別に良いか。
そして、そんなアスレイアちゃんに手を出した盗賊達。
なんというか、ご愁傷様でした。合掌。