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人形 go home  作者: 森平
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番外編03「アスレイアの旅立ち・後編」

番外編03「アスレイアの旅立ち・後編」




「──で、なんであなた達がここにいるのか聞いても良い?」


 密かにお金を貯めて買っておいた真っ黒なローブに身を包み、これまた年に数度来る行商の人に頼んで仕入れてもらった魔法の杖を持って、村を出た場所に立っている2人を睨む。


「いや、俺達も一緒に村を出ようかと思ってな」


「ダメかな~? アスレイアちゃんの足手まといにならないよう、頑張るから、ね~?」


 ロックはどこか照れ臭そうに。ミュイはニコニコしながらそんなことを言う。


「はぁ、もう何を考えているのよ……」


 わたしはいつか出ていく日に備えて少しずつ準備をしていた。

 でもこの2人は、昼間にわたしの言葉を聞いてから準備をしたのだろうに……。


「いくつか聞きたいことはあるけど……1つだけ。おじさんやおばさんが泣くわよ?」


「大丈夫だよ~。お母さんにもお父さんにもちゃんと許可は取ってあるもん」


「つーかさ、俺はお前らよりも1つ歳上だからもう成人しているだろ? 騎士団への入団試験は18歳からだけど、そろそろ外の世界のことを知る必要があると思って準備だけはしていたんだ」


 ああ、なるほど。だからここまで用意が良いのね。


「それに、ミュイのご両親にも、お嬢さんをください……と挨拶は済ませてあるしな。だから、2人で村を出ても問題はない」


「へ? ちょ、いつの間に挨拶なんてしていたのよ、初耳よ!?」


「したのは今日だし。それに俺達のことはバレていたっぽいからなぁ……」


「そりゃあ、ミュイの部屋で声が外に漏れるくらい盛っていたら当たり前でしょう……」


 頬を赤らめているロックとミュイを見て、わたしは深々と溜息をつく。

 何とも準備万端なことね。わたしが今夜出て行くと聞いて、いろいろ前倒しにしたんだろうけども。


 ちなみに、わたしは親には何も言わずに出て来た。言えば当然のように反対されるし。

 部屋に書き置きくらいは残してきたけどね。

 とまぁそういうことなので、村の前であまり長居をするのはちょっと避けたい。


「まぁ良いわ。ここにいると誰かに気付かれるかもしれないから、さっさと移動するわよ」


「アスレイア、目的地はどこなんだ?」


「カタロッサの街。そこでとりあえず冒険者として登録しようと思ってる」


「冒険者? なんで~?」


 歩き出すわたしに付いてきながら、ミュイが可愛らしく小首をかしげた。

 ただ、ロックはなんとなくその理由に気付いているみたい。


「1番の目的はお金を稼ぐためね。冒険者として依頼を受けて、それを達成することで食い扶持をなんとかするの」


 もちろんしばらくは暮らしていけるだけのお金は貯めてある。

 でも宿に食糧に消耗品にと使っていたら、あっという間になくなるのは目に見えているもの。

 実家を離れたのだから、まずは生活基盤を手に入れないとどうしようもない。

 6年前の師匠のように旅の道中で行き倒れるのなんてもってのほかね。


「それに、冒険者として登録しておけば、未成年でもある程度の身分を保障してもらえるはずよ」


 とはいえ、これはそれほど当てにしていなかったりする。

 登録自体は12歳くらいからできるので問題はないけど、やっぱり成人していないと……ね。


「あとは……これはロックも考えていたと思うけれども、モンスターと戦うことが多くなると思うわ。それで自分の腕を磨くことができる……というのが大きな理由ね」


「そっかぁ~、アスレイアちゃんもいろいろ考えているんだね~。ねぇ、ロック君、私達もアスレイアちゃんと同じように冒険者になろうか?」


「そうだな。まだ数年は騎士団の試験を受けられないし、冒険者をやってお金を稼ぎながら、戦いの腕を磨かないと」


「じゃあ、私とロック君もカタロッサで冒険者登録だね~」


「……随分場当たり的に決めるわね」


 何も考えずにロックに付いてきたっぽいミュイのことが心配になってきた。

 この子、目を離したらいつの間にか奴隷として売られていそうなんだけど……。


「ロック、ちゃんとミュイのこと見ていなさいよ。心配だから」


「おう、任せておけ!」


「アスレイアちゃん、大丈夫だよ~。私だってしっかりしているんだからね?」


「どうだか……」


 と、そこでわたしは言葉を切って顔を上げる。


「どうかしたのか?」


 わたしの反応を見て、ロックは腰に吊した剣に手をかけた。

 ミュイを見ておけと言ったばかりだからだろうけど、ちゃんと危機管理意識を持っているようでそこは少しだけ安心する。


「モンスターが近付いて来たみたい。やっぱり夜だと動きが活発になるわね」


「えっ、も、モンスター……?」


「大丈夫だ、ミュイ。俺が絶対に守るから」


「ロック君……うん、信じてる~」


 と思ったら、すぐそこでイチャイチャし始めた。何なのこのバカップル……。

 ま、わたしがいればこの程度は何の問題にもならないんだけど。


「アスレイア、来たぞ!」


地縛(アースバインド)


「って、え~?」


 どうやら、やって来たのは狼型のモンスターであるグラスウルフのようだった。

 ということでサクッと魔法を使って地面に絡め取る。


「えっと……これで終わりか?」


「どうやらはぐれのようだし、他にはいないみたいね」


 グラスウルフは束縛から逃れようとジタバタ暴れているけど、その程度では逃げられない。

 ふふふ、どうやって料理してやろうかしら。


「そういえば、ロック、ミュイ、あなた達はモンスターと戦ったことってあったっけ?」


「わ、私はないよ~」


「俺は村の大人達に連れられて、2,3回は戦ったことがあるが……」


「じゃあ、ちょうど良いわね。ミュイ、あなたがとどめを刺して」


「えぇっ!? わ、私、そんなことできないよ~」


 わたしの言葉にミュイが大げさに後ずさる。

 まぁこの子の性格的に、今まで殺傷はしたことないだろうし、気持ちはわかる。

 でもこれからはそうはいかない。


「冒険者になればモンスターと戦うことが多くなるわ。そのときに相手を殺せないとただの足手まといよ」


「で、でも……」


「それと、殺したあとは綺麗に皮を剥いでね。皮は売ることができるから。肉は筋張ってあまり美味しくないけど、予備の食糧として一応持って行くこと」


 厳しいようだけど、これくらいのことができないとミュイの為にならない。


「ああ、剥ぎ取りとかはロックも手伝って良いよ。あなたもどうせやったことないでしょ?」


「わ、わかった。やろう、ミュイ」


「……うん。えっと……ごめんね~……えい!」


 謝りながら、グラスウルフにとどめを刺すミュイ。思ったよりも思い切りが良い。

 そのあとロックと2人で協力して皮を剥ぎ取り始める。

 その間は、わたしは周囲の警戒だ。


「暗いと手元が危険ね。火柱(ファイアピラー)


 暗いままだと2人がケガをしそうなため、魔法で目の前に火の柱を生み出し、辺りを明るく照らし出させる。

 火に連れられてモンスターが来るかもしれないけど、そのときはわたしがサクッと仕留めれば良い。


「きゃっ……び、びっくりした~……。アスレイアちゃん、ここまで大きな魔法を使う意味があったのかな~……?」


「明かりだけを灯す魔法がないのよ。しかもここは草原沿いの道だから薪になるようなものもないし、しかたないの」


 さすがに薪までは旅立ち前に用意できなかったからね。

 一応この魔法は時間が経てばどんどん火勢は弱くなるけど、それでも他のよりは長持ちするし。


「そういや、アスレイアはモンスターを倒したりするのに慣れているのか?」


 危なっかしい手つきで皮を剥ぎながら、ロックがそんなことを聞いてきた。

 慣れているかどうかで言えば……まぁ、慣れていると言っても良いかな?


「夜中に村の外まで出て、魔法の練習がてらモンスターを狩っていたからね。それなりには慣れていると思う」


 ちなみに昼間にミュイに言った「魔法の練習で家の前を通りかかった」というのは、モンスターを狩に行くときのことだったりする。

 そのときに一緒に剥ぎ取りもしているので、そっちもお手の物だ。

 そうやって素材を集めて、行商人に売って一生懸命お金を貯めたんだし。


「あと、わたしは人も殺したことがあるしね。いまさら命のやり取りで足がすくむようなことはないわ」


「って、ちょっと待て、なんだその人を殺したって、初耳だぞ!?」


「あ、アスレイアちゃん、犯罪はいけないと思うの!」


「別に犯罪じゃないわよ。それにもう4年前のことだし」


「4年前……?」


「騎士団が盗賊達を捕縛したでしょ? そのときに、偶然逃れていた奴らがいたのよ」


 騎士団から逃れて、でも仲間は全員捕まって。その逃げ延びた盗賊達は、腹いせにもう1度わたし達の村を襲おうとしたのだ。


 ちょうどあれは、サレナお姉さんが死んだ次の日の夜だった。

 なかなか眠れなかったわたしは、魔法の練習をしようと夜中に家を出ていた。

 そこに奴らが現れたのだ。

 ま、それでどうなったかはお察しの通りね。サレナお姉さんのこともあって、魔法で奴らを殺すことに何のためらいも覚えなかった。


「当時のわたしが使える最大の魔法で焼き尽くしたから、骨すらも残らずに蒸発したわ」


「そ、そんなことがあったのか……」


「ま、そんなことは今はどうでも良い。それが終わったら、村からもそこそこ離れたからここで一休みしましょう」


 1番近いとは言え、カタロッサの街までは歩くと3日かかる。

 ちゃんと休憩や睡眠をとらないと、行き倒れかねないから……ね。




 そして3日後。わたし達はなんとか街にたどり着いていた。


「や、やっとついたよ~……遠かった……」


「あ、ああ、さすがにキツかった……」


 よろよろと歩きながら、ミュイとロックの2人が喜びの声を上げる。


「たった3日の旅でだらしないわね。しかもわたしの魔法で相当楽をしているのに」


 特に飲み水なんかは魔法で出していたため、水を持ち歩く必要がなかったのだ。

 荷物がかなり減らせるし、これだけでかなり楽になる。


「そうは言ってもよ、野宿なんて初めてだったからさ……」


「それはわたしも同じ。そこは慣れてとしか言いようがないわ」


「ね、ねぇ、アスレイアちゃん、ロック君、今度からはテントも持ち歩かないかな~……? 地面にそのままだと、寝た気がしないの……」


「贅沢ね……荷物になるから、わたしは反対だわ」


「い、いや、俺もミュイに賛成する。テントは俺が持てば良いんだしな」


「……まぁロックが持つなら別に良いけど」


 正直に言って、冒険者でテントを持ち歩く人ってそんなにいないと思う。

 とはいえ、あって困る物でもないので、持ってくれるなら別に文句はない。


「さぁ、そんなところでへばっていないで、まずは宿を確保するわよ。その後は冒険者協会ね」


「はぁい」


「俺、そろそろ普通の食事をしたいよ……」


 その後、わたし達は冒険者協会からは少し離れているものの、そこそこの値段で設備の良い宿を確保する。

 お金の都合で、2人部屋1つと1人部屋を1つだ。当然、わたしは1人部屋。

 ロックとミュイは恋人同士だし、一緒の部屋の方が良いだろうしね。夜になればギシギシアンアンと盛りまくるんだろうし。


 そして、その後に向かった冒険者協会でも登録はすんなりと終了した。

 未成年だから少しは揉めるかなと思っていたけど、登録自体は来る者を拒まずって感じみたい。

 いい加減ね……まぁそれで助かっているから別に良いんだけど。ミュイみたいに見るからに弱そうな子も冒険者になれたんだし。




「ふわぁ……依頼っていろいろあるんだね~」


 依頼票が張り出された掲示板の前で、ミュイが感心したように声を上げた。


 すでに、この街に来て1日が経過している。

 昨日はまだ登録したばかりだし、街の到着したのがそこそこ遅い時間だったため、無理をせずにゆっくり休む日にしたのよね。

 実際にロックとミュイはかなり体力的に疲れていたようだったし。

 そして明けて今日、ゆっくり休んだと言うことでこれから依頼を受ける予定だ。


「なぁアスレイア、俺達はパーティを組んでいるから多少上の難易度でも受けられるんだよな?」


「そうね。とはいえ駆け出しも駆け出しなんだから、まずは簡単な依頼をお薦めするけど」


「そうだね~。モンスター討伐とか、ちょっと急には自信ないかも~」


「そこらへんは、死にたくなければちゃんとロックとミュイの装備を揃えてからの方が良いわ」


 武器は持っているけど、鎧らしい鎧は着ていない。

 2人とも、最低限の装備しかしていないような状況だから。

 わたしもローブと杖しか持っていないから、装備という意味では2人と同レベルなんだけど。


 ちなみに、わたしとミュイ、ロックの3人は同じパーティを組むと冒険者協会に申請していた。

 わたしはしばらくこの街でお金を稼ぐつもりだったし、2人のことは頼りなさ過ぎて正直放っておけない。

 それにいきなり村を出て来たってこともあって、知り合いと離れてしまうのが少しだけ寂しいというのもある。


 まぁ、わたしの方はそんなに急ぐ旅じゃないしね。

 この街でだってまだ見てはいないけれども、いろいろと学べるものなんかも多いだろうし……。


「それで、何を受けるか決めた?」


「やっぱり最初は薬草とかの採取が無難かな? 薬草なら俺でもどれか判別できるし」


「うん、私もそれで良いと思うよ~」


「了解。じゃあ、早速受付に持って行きましょうか」


 わたしも冒険者として依頼を受けるのは初めてだし、少し楽しみかも。

 ミュイとロックの2人を促して、一緒に依頼の受注を告げに受付へと向かった。




 それから毎日のように、わたしたちは採取依頼を中心として冒険者としての経験を積んでいく。

 最初は予定を大幅に繰り上げて村を出てきたのでどうなることかと思ったけど、この調子なら十分にやっていけそうな気がする。


「なぁ、俺達ももうすっかりベテランって感じじゃないか?」


「ロック君、毎日頑張ってるもんね~」


「何を言っているのよ……この程度じゃまだまだ駆け出し冒険者よ。討伐依頼なんて全然受けていないんだし」


「いやまぁ、そうなんだけどさ。それじゃあ、今日は討伐依頼を受けようぜ!」


 最近が順調だからか、ロックは妙に気が大きくなっているみたい。

 確かに、わたしがいれば簡単な討伐依頼は難なくこなせるとは思うけど……このままで良いのかな。


 少しずつロックもミュイも成長しているのはわかる。でもなぁ……。


「うーん……一応あなた達の防具も一通り揃ったけど……」


 ちなみにロックは金属製の部分鎧を着けてる。全身鎧だと重いし高いしで、腕、足、胸という急所の部分しか用意できなかったのだ。

 とはいえこれでも弱いモンスターを相手にするには十分過ぎるんだけど。

 ミュイは皮の鎧をロックと同じように部分部分につけていた。ちなみに胸はその膨らみのせいで既製品では入らなくて、弓兵が付ける様なカップだけを守るようなものを装備している。


 わたしは以前のまま、ローブと杖だけだけどね。防具なんて必要ないし、そっちにお金を回すなら貯めておきたいし。


「とはいえ、討伐依頼はまだ早いから、モンスターに襲われる可能性のある少し難易度の高い採取依頼にしておきましょう」


「どんな依頼かな?」


「このピカリゴケはどう? 森の中を少し行ったところにある岩場で採取できるみたい」


 ちなみに森の中というのは、奥へ行けば行くほどモンスターに襲われやすくなる。

 しかもこの位置的に、途中で1泊しなければこの街に戻ってこられない。


 これだけを聞くと討伐依頼よりも大変そうに思えるけど、討伐依頼は基本的に一般の人では勝てないようなモンスターが対象になる。

 森の深いところへ行きすぎなければ一般人でも倒せるレベルのモンスターしか出ないため、戦闘の経験を積むのはこちらの方が良いのだ。


「じゃあ、それを受けようぜ。泊まりがけみたいだし俺は一旦宿に戻って準備してくる」


「わかった。じゃあ、わたしが代表して受けて、それから合流するわ」


「私はロック君と一緒に行くね~」


 意気揚々と冒険者協会を出てく2人を見送り、わたしは受付へと向かう。


 そういえば、そろそろこの街で貯めようと思っていた目標金額に達成するのよね。

 それにここに来てからずっとあの2人に足並みを揃えているから、わたしがしようと思っていたことも全然できていないし……。


 ……ま、今はいいわ。とりあえず依頼を受けちゃわないと。




「で、どうしてこうなるのよ……」


 ピカリゴケという物の採取は、あっさりと済んでしまった。

 岩場に向かう途中で何度かモンスターに教われはしたものの、それはロックとミュイの2人でもなんとかなっている。


 ……というか、わたしが魔法を使おうとしたら、2人して止めようとするはやめて欲しい。

 さすがにこんな森の中で、火の魔法なんて使わないわよ。

 使ってもちゃんと周りに延焼しない威力に抑えるし。


 でも2人はわたしが火魔法を得意にしていて、しょっちゅう焼け野原になるレベルで撃っていたのを見ていたから心配んだろう。本当に失礼な。


 いや、問題はそこじゃないんだけど。


「あん、ロックくぅん……んっ、ふぁ……あ……」

「はぁ、はぁ、ミュイ……ミュイ……っ」

「そこぉ、だめぇ……アスレイアちゃんに、声……聞こえちゃう……からぁ」


 少し離れた場所にあるテントから、そんな声が漏れ聞こえていた。

 ちなみに今はわたしが焚き火の番をしながら、モンスターが来ないか警戒をしている。

 あとで交代することにはなっているんだけど……何を考えているの、あのバカ。こんな場所で盛りはじめてっ!


「はぁ……魔法で音を消してやろうかしら……」


 そうすれば、この声を聞かなくても済む。

 でもそうするとこちらの音も中に届かなくなるため、異変があったときに知らせる手段がなくなってしまう。

 テントの中に入って伝えれば良い? 嫌よ、なんで盛っている最中の現場に踏み込まないといけないのよ。


「どうしよう。これは1度ガツンと言わなきゃいけないけど……わたし、あの2人に付き合ってて良いのかなぁ」


 何だかどんどん自分が駄目になっているような気分になってしまう。

 そんなことはないはずなんだけど……。


 と、そこに突然何かが地面に激突したような音が聞こえてきた。


「……っ! な、なに!?」


 空から何かが落ちてきた……?


 慌てて杖を持ち、テントに向かって声を掛ける。


「ロック、ミュイ、何か来た!!」


 返事はない。


「うぉぉぉ、ミュイ……このまま、一緒に……!」

「や、あ、あっ、激しい……よぉ、ロック君……だめ、だめ、だめ、だめぇぇぇ……!」


 ……聞いていやがらねぇ。


「くっ……しかたない。わたし1人で対処するしかないか」


 もっとも、1人でもどうとでもできる自信はある。

 モンスターだとしても、火弾(ファイアボール)でも打ち込めば一瞬で終わるはず。


 ん? あれは……ビックバード? どうしてこんなレアなモンスターがここに?

 ううん、それ以前にどうしてビックーバードが空から落ちてくるの?


 そう思いつつ、周囲を警戒しながらゆっくり近づいていく。


 ふいに、視界にもぞりと動く物が見えた。

 それはビックバードの爪に掴まれていたのか、そこから苦心して這いだしてくる。

 しかもコミカルに、自分の汗を拭うような仕草さえもしていた。


「……モンスター?」


 なんだろう、あれ。見た目は人形のようだけど……動いている時点で、絶対にまともじゃない。

 となれば、先制攻撃あるのみ!


火弾(ファイアボール)!」


 そう判断するなり、迷わず魔法を発動させる。

 これがわたしが大魔師になるための、ある意味運命的な出会いだと知ったのはずっと後のことだった。



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