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月と太陽の黙示録《アポカリプス》  作者: Lim
第二章 最終審判《ラグナロク》、開幕(激闘編)
16/22

6

「うう……っ、うあああああああぁぁぁ――ッ!!」


 叫んだのは……不思議なことに、俺ではなかった。

 その張り裂けそうな悲鳴に思わず見開くと……、ルナが両手で身を抱えながら膝から崩れ落ちたところだった。握られていたはずの槍は砂上に放り出され、苦痛に満ち足りた様子でぎゅっとまぶたを閉じ、呻きながら身をよじらせているが……。彼女のLPゲージが減っているわけでもないし……、ましてや、俺が何かしたわけでもない。

「……う、あぁぁ……、ふあ……っ、ん、ぐぅ…………」

 彼女が胸元を押さえ必死にもだえ苦しむのと連なるようにして、辺りに散らばった紅い水溜まりの磁場が次々と消滅していき……、俺を縛り上げていた術も例に漏れず、その効力をなくして蒸発した。

 何が何だが……、わけがわからずに傍観していた俺に、リリーのげきが飛ぶ。

【考えている時間はなさそうですよ! これはチャンスです、アルテミスを構えて下さい!】

「あ、ああ……!!」リリーの言う通りだ。考えるのはあとでもできる。絶体絶命のピンチが一転して絶好のチャンスになったこの時を逃す手はない。

「――あうッ」俺が放った矢はルナの左肩に直撃し、彼女はその衝撃で後方へ吹き飛ばされて地面を転がった。うつ伏せに倒れた彼女のLPゲージが一割弱にまで減少して赤く点滅し始める。

【あと一撃ですよ! 止めを刺して下さい!】

 弓を構え、儚げな火の粉を発する彼女の背に狙いを定める。――これで最後だ。この矢が当れば敗色濃厚だった絶体絶命の局面から抜け出して見事な劇的勝利を収めることができる。敗者確定枠と言われてきた下馬評を覆し、ミズガルド存続への第一歩を踏み出すことができる……!

 ふと……、狙いを定める視線が、地面に這いつくばったルナの視線と交わった。

 その透徹した紅玉の瞳は、暗い洞穴で孤独に光り輝く原石のようなわびしさを募らせていて……、一目見たときから彼女の瞳の残像がずっと脳裏にちらつき、それを見る度に俺の胸にちくりとした痛みの棘が芽を咲かせる。

 それは……俺の決意を惑わせるには十分過ぎる理由だった。

 ……迷っちゃだめだ。背負ってるものは俺も同じなんだ。世界を救うには彼女を射抜くしかない。――決めたんだろ、ヒーローになるって。子供の頃に想い描いたような――、子供の頃に……、…………。

 俺は、構えた弓を……、アルテミスを……、そっと降ろした。

【何をしているんですか春海!? 早く止めを――】

「いや……、思い出した。――やっと、思い出せたんだ」

【……何の話です? それは今、重要なことですか?】リリーの声に苛立ちが籠もる。

「あいつの……、あの眼は……昔の俺と同じなんだよ」

【え……?】

 ――そうだ。あれは……。

 俺が子供の頃。両親を事故で失い、その両親の親族からも煙たがられて『もうどこにも居場所がない』と幼いながらに悟った俺の心境と同じなんだ。あのとき、居た堪れなくて葬儀場のトイレに逃げ込んだ俺を出迎えたのは、鏡に映る絶望的なまでの眼差しをした自分の姿だった。彼女の眼が、ずっと昔の自分と重なって映っていたんだ。

 あいつも……きっと、そうなんだ。考えればすぐにわかりそうなことだった。

 あいつは、あの霧は生まれつきだ、と言った。そして、誰にも触れられることなく生きてきた、と……。必然的に物心ついた頃から家族や世間から忌み嫌われ、冷遇され続ける宿命を背負って、ずっと一人で生きてきたんだろう。

 もしかすると……、あいつは自分の居場所をつくるために闘っているのか……? ヴァナ界を救って自分の存在を世界に認めさせるために……。

 王女と呼ばれることを名前だけの飾り物だと毛嫌いしたのも闘う理由をはぐらかしたのも――そういうことなら一致しなくもない。

 …………重い……。俺よりも遥かに重い……。

 ――射抜くことができるのか? 俺に、あいつを……。昔の俺と同じでどこにも居場所のないあいつを…………。

「………………」

 腕を持ち上げようとするが、頑なに拒否される。脳と体が激しくいがみ合い、どちらも退く気配がなくて、両者は分離し膠着こうちゃくした。

【……春海が何を想っているのかはわかりませんが……、とても悲しい気持ちだけは私にも伝わってきます。……ですが、今ここで彼女に勝たなければより辛い現実があなたを苦しめることになるんですよ。あなたは……それでも良いのですか?】

 …………わからない。どちらを優先すべきかは一目瞭然のはずなのに……、何故だか、ここで彼女を射貫いぬいてしまっては俺の人生の全てが否定されてしまうのではないかと、自分で自分を根絶する恐怖心に駆られて……、俺は瞬き一つすらできなくなる。

 射貫かねば後悔するのは眼に見えているはずなのに……。

 最終的に――、この迷いが命取りとなった。

「――――っ、――――――――ッ!!」叫びにならない叫びを張り上げて、ルナは覚醒した。

「……ッ!?」

 ――悪魔の住む世界とは、こういうところなのだろうか。

 ルナの身体から大量の霧が噴出し、瞬く間に闘技場内は闇に侵食され薄暗く染まっていく。さらにそこへ。主人の絶叫を聞きつけて彼女の全方位を、墨染めされたような暗黒色の荊が続々と砂上を突き抜けて伸びていき、平坦だったフィールドの約半分ほどの領土が、一気に……黒い霧と荊の包囲網の侵食により占領された。

 荊のどれもが俺のウエストより一回り以上の太さはある。その表面には無数の剣山が生え揃い、俺を威嚇しながら地表から十メートルはくだらない高さにまで達すると……、空は暗澹あんたんたる深い霧、地表は砂上を覆い尽くした刺々しい樹林に呑み込まれ――、もはやそこに、ルナの影も形も見ることはできない。

 眠れる混沌の荊姫――。その名を体で表した戦慄の光景に俺が尻込むや否や、本性をさらけ出した黒荊の樹林は、その手を触手のようにくねらせては侵略を再開し攻撃してくる。

 脳天から振りかざされた一撃を左方へ飛んで回避すると、荊は豪快な音を立てて地面にめり込み、その衝撃で砂塵を巻き上げた。あんなものをくらったら……、俺のLPは余すところなく削り取られて確実にオーバーキルされるだろう。

 攻撃の手は緩まることなく、黒荊の大群は触手を伸ばし波状攻撃を仕掛けてくる。バックステップで追随してくる荊を避けることに防戦一方な俺に、

【春海。このまま逃げているだけでは負けるのは明白ですよ。どんな事情であれ、あなたが彼女へ勝利を譲る理由にはなり得ません。あなたは……、あなた自身のために闘って下さい】

 リリーの正論が、俺の心を射貫く。

 ……そんなことは言われなくてもわかっている。この真剣勝負に情けなんて必要ない。負ければ自分の世界が一歩死に近づくんだ。そこに、情が入り込む余地なんて一欠片もない。

 何をやってるんだ、俺は……。迫り来る黒荊を軒並み撃墜したところで、自分への腹立たしさを脚に込め地面を踏みしめる。

「……すまなかった、リリー。さっきのことは忘れてくれ」

【春海……】

「今度こそ、あいつを倒すから……力を貸して欲しい」

 リリーは、返答するのに考える間を置いてから、わざとらしく怒った素振りで返す。

【今度、弓を引くことを躊躇ったら――承知しませんよ?】

「イエス、マイバディ」

 とは言っても……。辺り一面に鬱蒼うっそうと茂る黒荊に身を潜めたルナに対して一撃を加えるのは容易いことじゃない。ここは……、ついに奥の手を使うときがきたか……。

【こちらの準備は整ってますよ】俺の思考を先回りしたリリーは回答を示し、俺は視界端のEAエクストラアビリティゲージを確認する。ゲージは、さっきの一撃で超必殺技が発動可能になったことを青々と発色して知らせていた。――この一手に全てを懸けてみるか。

 息を軽く整えてから……、

「いくぞリリー! ――EAエクストラアビリティ発動!」俺と、

【了解! 〔規範領域パラダイムドメイン〕展開します!】リリーの、

 ――二つの魂が、呼応する。

 その変化は、視界中央に――円の内側で十字線を切った――ターゲットスコープとして映し出される。……だが、これ自体は飽くまで微調整するための飾りの機能でしかない。

 俺たちの超必殺技〔規範領域パラダイムドメイン〕は、効果時間は十五秒と短いが、この十五秒間に放った遠隔射撃はシステムの命中率補正を受け、相手をホーミングし続ける性能を得る。止めを刺すには打って付けの技だ。

 LPゲージの上にアイコンが付加され、十五秒のカウントダウンが始まると、一秒たりとも無駄にできない俺は颯爽さっそうと弓を引いて構える。幸い時間内に矢を放てれば、効果時間が過ぎたとしても相手へと誘導する効果は持続するので、十五秒間をフルに有効活用するには時間ぎりぎりまで矢を溜めて放つしかない。

 だが……、相手がそれを黙って見逃してくれるわけもなく……。前線を守っていた六本の黒荊が俺を打ちのめそうと荒々しくラッシュをかけ、波打つその身でむちを放ってくる。

「俺はこいつの相手をするので手一杯だッ。タイミングはリリーに任せるッ」

 リリーが無言で頷く気配を感じたので彼女の采配に下駄を預けることにし、俺は暴れ狂う触手が畳み掛けてくる死線を紙一重で潜り抜けていく。一度死線を越える度に、オレンジに発光した光の矢は着実に数を増やし、引いた矢を中心点に時計に並んだ数字のように円環に配置されていく――その数が二十を超えた辺りで、俺は数える気が失せた。

 そして、差し迫ったタイミングに、リリーが秒読み段階に入った。

【……五、四、三、二……、一――、今ですッ!!】

「これで――終わらせるッ!!」枠に捉えたターゲットスコープが消失するのとほぼ同時の、最高のタイミングで解き放たれた光は四方へ拡散し、魔霧を切り裂いて黒荊の樹林に湾曲線の道を穿うがっていく。交わる先に待っているであろう眠れる荊姫を目指して輻湊ふくそうする。

 ばたばたと、その身を引き千切られた黒荊が地面に散乱していく――が……。

 放たれた矢群の快進撃もそこまでで……、敢えなくも、俺の想いは届きはしなかった。

 起死回生の技は数多の黒荊を打ち払ったものの……、その過程で力を出し尽くしたのか、『僅かにあと壁一枚』と言ったところで貫通力を失い、最後は荊に突き立った状態のまま無情にも泡となって霧散した。

 結論から先に言わせてもらうと……、俺は負けたらしい。

 視界は急激なブラックアウトを起こし、舞台が暗転して切り替わると、握っていたアルテミスはどこかへ吹き飛び、俺の身体は天と地を引っ繰り返した体勢で上空を飛んでいた(その落下していく刹那に、拓けた闇と荊の間から地面に横たわった彼女の姿が微かに垣間見えた)。背中から着地した俺の身体は二回ほど跳ね、土をまぶして地面を転がった。

 理解が追いつかない頭で緩慢と起き上がった俺の前にヴァーチャルディスプレイが出現する。そこには――青字のシステムメッセージで『YOU LOSE』と……、ご丁寧なことに、俺にもわかる言語で表示されていた。すぐには信じられずに視界の端を確認すると……、空っぽになったLPゲージが虚しく試合が終了したことを告げていた。

 つまりは、死角から豪速球で飛んできたレッキングボール張りの黒荊の一振りが、EAの効果終了後に強いられる硬直時間で動けない俺の身体を紙屑同然に跳ね飛ばしたのだ、と理解に至るまでに俺は数秒の時間を要した。

【春海……、お怪我はありませんか?】どこかぎこちなくリリーは言う。

「あ、ああ……」体中の痛みのせいか、それとも『俺は負けたんだ』と言う実感がようやくじわじわと登り詰めてきたせいか――、どちらともわからない意識で俺は呆然となった。

「…………っ。――すまない。負けちまって……」

【そんな……。謝らないで下さい。あなたはミズガルド人とは思えぬ勇姿であの悪魔と畏れられている魔族を相手に闘い合ったんですよ? 惜しくも負けてしまいましたが……、ほら、ここからでも彼らの熱気が伝わってきませんか?】

 リリーに言われて、闘技場の向こう側ではまだ薄らと霧が残っている会場を見渡す。

 徐々に〔ヴァーチャリアル〕のノイズキャンセル効果が薄れてきたのか、その盛況振りが聞こえ始め――皆が皆、総立ちの拍手で俺たちの健闘をたたえてくれていた。

【私たちにだって互角に闘えるんだってことをあなたはこの試合で証明したんですよ? そんなあなたを責める権利なんて誰にもありませんよ】

「……リリーは優しいよな。そう言ってくれると少しは報われるよ」

【優しいだなんて……、私は別に――!? 春海、危ない!!】

「うおッ!?」

 観客席に気を取られていた俺が慌てて身をひるがえす――と、正面から突っ込んできた黒荊の一本が猛スピードで通り抜けていき、背後にあった石壁を瓦礫がれきの山へと変貌へんぼうさせて沈黙した。

 試合は終わったって言うのに、見れば黒荊の樹林は端から理性の欠片も持ち合わせていないように、闘技場の壁や地面にその身を叩きつけ、怒り狂ったビートを刻んでいた。

「どうなってんだよこれ……。試合は終わったんじゃないのかよ」

 確か試合中以外での攻撃はシステムによって制限されるんじゃなかったのか。

 俺にそう言っていた本人も……心中で首を傾げていた。

【おかしいですね……。システムの硬直を無視して敵対行動を取れるとは思えませんが……】

 なら目の前で起こっているこの惨状をどう説明するんだ、と抗議しようとしたが、すぐそこで沈黙していた黒荊が起き上がり、再び暴れ出したために距離を置くことを優先しなければならなくなった。

「向こうが攻撃可能ならこっちの攻撃も可能ってことだよな? ――とりあえず、こいつを黙らせとくか」

【いえ、これ以上の闘いは無益です。それにこちらだけ硬直するリスクもなくはありません。何らかの理由であの荊にシステムが干渉できないのでしたら、ほどなくして我々に強制転送が実行されるでしょうから、ここはシステムに任せて安全な場所へ避難するのが得策です】

「ってことは――あっちか」

 俺は唯一の出口である選手入場口へ向かって駆け出す――が、そのゴールを目前にしたときに……、入場口前の地面がボコボコと激しくめくれ上がり、

「……おいおいおい」大地を突き破って現れた新たな黒荊たちの壁が俺たちの行く手を阻ぶ。

「やっぱりやるしかねえか……! ――アルテミスッ!!」

 見失ったアルテミスを再召喚――したつもりだったのだが……、はたして、俺の手元に現れたのは無残にも半分に折れた長弓の片側だけを残した残骸だった。

【あのときの攻撃で……。う、うぅ……、私の弓が…………】

「いや、その……、すまん……。――ってそれどころじゃねえって!」

 どうすんだ、どうすんだこれ。肝心の弓がこれじゃ逃げれもしないし闘ねえ。昔から賭け事とかの勝負運は良い方じゃないとは思ってたけれど……どこまでついてないんだ俺は……。

 しかも、大概こういう場合って……と嫌な予感がずばり的中してしまい、立て続けに災難が引き起こる。

 本来なら観客席と闘技場の境目にあるプロテクトが不可視の壁となり、観客を守る盾の役割を担っているのだが……。獲物を求めて暴走し出した黒荊の群れの一本が、観客席の方へその手を伸ばし……、〔ヴァーチャリアル〕システムが主導権を握っているこの会場の堅牢な防護幕を、飴ガラスを割るが如く粉々に砕いて侵入を許してしまう。

 それを機に、触手は一斉に観客席へと這いずり出した。

 途端に、ビーッビーッ、とけたたましい警報が、悲鳴と入り混じながら全域に響き渡る。

 試合後の白熱した空気は一変し、機関の人々が血相を変え一斉に逃げ惑い始めた。

「みなさ~んっ、お、おちついてぇ……、じゃなくてぇ~、速やかにお逃げくださ~いっ」

「フレイ姉さん! ここは僕に任せて姉さんも早く避難して!」

「ええー、でもぉ~……」

「警備隊、出動要請!! 民衆の避難を最優先にルートの確保と侵入した荊から民衆を守り抜きなさい! ……チッ。ついでにこのアフォな姉も邪魔だからどっかへ連行しやがれ!」

 双子がせわしく叫び合う中、気づけば俺たちは続々と地表から現れた黒荊たちの輪に囲まれてしまっていた。……四面楚歌しめんそかな上、大破した武器を握りしめた俺たちに為す術なんてない。

【この様子ですと、恐らくシステムダウンの影響で強制転送を要請するのも不可能でしょうね……。〔ヴァーチャリアル〕システムの処理が追いつかないほどの、膨大なエネルギーが一気に流れ込んだためだと思われますが……、こんなことが起こり得るとは……】

 冷静にリリーは分析したが、そんなことは視界端にあったゲージの表示が消えていた時点で見るからに明白だった。今やこの闘技場で主導権を握っているのはシステムではなく、黒荊の触手共である。

 だが……。何より一番最悪なのは……この闘技場内では自分の控え室を除き、全域で次元の鍵によるテレポートがブロックされていることだ。代表者同士の接触を防ぐための処置だろうが、今回だけはそれが裏目に出てる。

【……春海、リンクを解除して下さい。私が荊を引きつけている間に、せめてあなただけでも……】

「何言ってやがるッ。そんな真似できるかよッ」

【大丈夫ですよ。ホムンクルスはミズガルド人より頑丈に造られていますから、ちょっとやそっとじゃ死にはしませんよ】

「……だったら、俺が引きつけ役をやるからお前が逃げろ。破邪の加護がある分、俺の方が適任だろ」

【だめです。それだけは絶対に譲れません】

「何でだよ!」

【〈化身覚醒アバターリンク〉後は力を消耗して一時的に加護の効果が休止するのをお忘れですか? それに……、約束は果たすためにあるものです】

「……何のことだ?」

【あなたを無事につれて帰るとあなたの両親の墓前で誓いましたからね。――この私に嘘をつかせるおつもりですか?】

「…………」忘れていたわけじゃなかったが……、やはり、リリーを説得させるのは一筋縄ではいかないか。

「なら一緒に逃げるぞ。これ以上は俺も譲る気はない」

 リリーも……これ以上は無駄だと判断を下したのか、折れて溜め息を吐いた。

【……ふうぅー。春海って中々の頑固者ですよね】

「それはお互い様だろ」大破したアルテミスを転送して、両手にヴィヴィボムをセットする。

 だけど……、どうやってここから活路を見出すか。手持ちの爆弾だけでは心許ない。というか、この荊もあの霧が素になっているとしたら、光の矢を当てる以外に倒す手段はないんじゃないのか……? とネガティブにループする俺の思考ごと吹き飛ばすかのように――。

 突如として。衝撃波を伴う突風が辺り一帯に吹き荒れた。

 一瞬にして。黒荊たちの輪が根元から一薙ぎで斬り倒されて地面に沈み、

「何ぼさっとしてやがんだ、てめェはよ」

 遅れて上空から降ってきた――黒衣のレザーコートを羽ばたかせた――死神が俺の前にさらりと着地し、その間際に背中越しの悪態をついた。

「――バルバット」

 長身痩躯とは言えど、この男は引き締まった逆三角形の体格をしており、その広い肩幅には背丈に見合った特大クラスの漆黒の鎌――デスサイズが担がれていて、妖しげな光を跳ね返していた。



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