表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Aki's Works BEST '13 ~ '15

“こわい”ってなんだろう

作者: 木下秋

この作品は、ハンフィクションです。


ハン分、ノンフィクションで、半分、フィクション。


……つまり、『実話を元にしたフィクションです』ってやつです。


どっからどこまでかは、言いませんけど。

 2014年 4月 13日 (土) 晴れ


 八時起床。昨日の夜はあまりよく、眠れなかった。

 多分、昨日は十時に起きたからだろう。やはり、午前中特に用事がないからと言っても、生活リズムを乱してしまうのはよくない! 反省。

 でも今日はちゃんと七時間寝て、八時に起きれたから。きっと今日はぐっすり眠れるだろう。

 ところで今日の夢は不思議な夢だった。

 俺は本屋(バイト先の本屋ではない)のレジにいて、隣には何故か、店のエプロンを付けた親父がいたのだ。

 親父は「喉渇いたな」とか言って、コップを差し出してきた。その中身はなんとビール!

 俺は何故か、それをすんなり受け取ると、一気飲み。案の定店長に見つかって、こっぴどく叱られる。……というところで目を覚ました。

 なんだ、これ……。夢診断したら、どんな結果になるのだろうか。

 それでも、最近よく見る悪夢でなくってよかったと思い、ホッとした。

 どんな悪夢だったかは……全然覚えてないけど。


 俺は最近思うんだ。『“こわい”ってなんだろう』って。

 先々月、俺は初めてホラー短編を書いてみて“小説家になろう”ってサイトに投稿してみたのだけれど、あまりいい反応は得られなかった。

 中には、「こわい!」と言ってくれる人もいた。でも、「こわくなかった」と言う人もいた。

 何がいけなかったのだろう? と考えてみた。でも、よく分からない。

 なぜなら、自分で書いたホラー小説ってのは、俺が読んでも全然怖くないのだ! そりゃそうだ。俺が考えてるんだから。

 これは本当に“こわい”のだろうか……? “こわい”ってなんだろう。そんな思いが、先々月からずっと俺の頭の中でモヤモヤしてた。“こわい”って文字が頭の中をぐるぐる回って、ゲシュタルト崩壊するほどに。

 そりゃあ小さかった頃は、心霊番組や、ホラー映画なんかはこわかったさ。でも今じゃ、そんなのは平気で見れるし。

 人は、どんなものを“こわい”と思うのだろうか。う~ん……わからない。

 そんな悩んでる折、昨日バイト先でいい本を見つけた。「Jホラー研究」って本だ。

 ちらっと中身を見ると、これまでの日本のホラー映画に関わった人達のインタビューや、作品の紹介が載っているらしかった。

 これだ! と俺は思った。実際にホラー作品を作っているクリエイター達のインタビューは、いい勉強になるかもしれない。夏に向けてホラー小説を書き溜めたいなぁ、と思っていた俺は、その本を買うことに決めた。

 しかし、その本を見つけたのは閉店間際(ちゃんと店の見回りしろやっ! とセルフツッコミ)。明日、つまり今日。なんの予定もない日だったし、買いにこよう。と思った。


 午前中は録画してたテレビ見てた。アニメと、バラエティ番組。

 正午十二時。家を出る。外は晴れ晴れ。暑いくらい!

 バイト先の本屋に寄って、昨日見つけた「Jホラー研究」を買う。表紙は、某有名Jホラー映画のあの人。S子。ホラー小説も一冊、適当に買って行こうと思ってたんだけど、何買っていいのかもわからず、店を出た。

 銀行に向かって、お金を引き下ろす。財布に、二百円しか入ってなかったんだ。

 そんで、次はレンタルビデオ屋。借りてたDVD五本を返して、三本借りる。今月はもうお金が無い……。ちょっとだけ、節約。

 昨日のうちに連絡を取っておいた、まっちゃん家に向かう。思えばもう、知り合って十年近くになるか。そう考えると、感慨深いな、なんて。途中でアイスを買ってった。

 まっちゃん、抹茶味好きだったよなぁと思ったら、やっぱそうだった。よかったぁ。

 まっちゃんはずっとゲームやってた。FPS。自分で言いながら、FPSって何の略だっけ? って思った。ファーストパーソンシューティングの略らしい。なるほど。

 俺は最初、そのゲームやってんの見てたんだけど、さすがに飽きて途中から、買ってきた「Jホラー研究」を読み始めた。

 読みながら、ホラー小説書く上でヒントになるかもと思って、出てきたキーワードをメモすることにした。

 心霊写真、金縛り、病院、旅館、モキュメンタリー形式、etc……。

 その本の中に、“伝説的な傑作”って言われてる映像作品があった。「霊の住む家」ってタイトルの、短い作品らしかった。

 当時はビデオだし、「もう見れないのかなぁ……」と思ったんだけど、ググったら……あった! 某有名動画サイトにあがってた!

 まっちゃんにイヤホンを借りて、その場で見る。……確かにこれは超こわい。

 しかし……。話はもちろんこわいんだけど、これを小説にしたとして、こわいのかな……と思った。

 だって映像はさ。そのカメラアングルや音、不気味なBGM、俳優さんの演技があるじゃない。

 だからこれを直接小説にしたら……。どうなんだろう。こわいのかな。

 俺はその場でまたう~ん、と悩み出した。そんで隣にいた、まっちゃんに聞いて見ることにした。

 “こわい”ってなんだろう。って。

 まっちゃんはゲームをプレイしながら、「んー」と少し悩んでみて、

「このゲームが突然、現実になったら“こわい”な」

 って言った。

 ゲーム画面を見たら、ちょうどまっちゃんが操作してるキャラクターが、敵の手榴弾で死んだところだった。

 うん。確かに“こわい”な。


 まっちゃん家を十七時半に出る。別にその時間に出ることを決めていたわけではない。ただ、夕方になったからだ。

 今度給料が入ったらどっか、遊びに行こうと約束をした。別に、約束しなくたって会うだろう。

 帰りに、もう一度バイト先に寄ってった。やっぱり、なんか適当にホラー小説を買って行こうと思ったんだ。

 手に取った本は、「目釘怪談」。なんか表紙が血走ったギョロ目で、まぁそれなりにこわいんだろうと思った。読んでみなくちゃ、わからない。たとえこわくなかったとしても、それはそれで勉強になるだろうと、思った。


 十八時半、帰宅。

 十九時、両親・弟と夕食。カレーだった。

 弟にじゃんけんで負けたので、俺が食器を洗う。二十一時に風呂。

 風呂上がりになんとなく、テレビでやっていた野球ドラマを見る。……来週は見ないかな……。


 二十二時半。今日買ってきた本をひたすら読む。

 ……うーん……こわ……いのかな……。

 やっぱりわからなかった。“こわい”がわからない。

 俺どうしちゃったのかなぁ、なんて思う。まいったなぁ……。

 時計を見る。二時。

 やたらと時間を使った割にわからなかったなぁ、なんて思いながら、今、こうして日記を書いているのである。

 丑三つ時ってやつか……う~ん。

 ん、今書いててちょっと思いついたことがある。それを今からやってみよう。そうしよう。

 続きは、終わってから。



     *



 やってきた。続きを書く。今は、三時ちょっと過ぎ。

 俺がやってみようと思ったことは簡単だ。まず、部屋を出る。隣の部屋では弟が眠っているし、一階では両親が眠っているので、ゆっくりと。

 部屋を開けると、真っ暗だった。当たり前だ。幾つもの部屋に囲まれた、窓も無い廊下。

 天窓があるけど、見上げても、差す光は無かった。

 部屋のドアを閉める。いよいよ、何も見えない。

 少し進んで、俺はそこに腰を下ろした。壁を背にして。

 文字で書くとなると、どう書けばいいのかな……。

 そうだ。まず左手を握る。そして、親指と人差し指を伸ばし、L字を作る。

 このLが廊下の形。人差し指、第二関節が弟の部屋の入り口だ。そしてそのL字の交点が、俺の部屋の入り口。

 親指の先には、二階のトイレ。俺が腰を下ろしたのは、そのトイレと俺の部屋の中間。親指、第一関節辺りだ。

 そこには、階段があった。

 一階と二階を繋ぐ、階段。途中で曲がっている構造をしている。俺は、この階段が幼い時、無性にこわかった。俺にとって、幼い頃一番こわかった場所に、行ってみようと思ったのだ。

 夜、トイレに行きたくなって部屋を出ると、この階段の前を通らなくてはならなかった。

 両親が起きている間はいい。下から光が差してくるからだ。

 問題は、両親が寝静まった後。

 幼かった頃、おそらく五才くらいだったと思う。トイレに行こうと部屋を出て、ふと、この階段を見下ろしてしまったことがある。

 幼かった俺は、硬直した。今だったら、『金縛りにあった』と思ったかもしれない。それほどに、動けなくなってしまった。

 階段の下、底に、間違いなく何かが居る。そう思った。

 幼かった俺は震え、小便を漏らし、その場に崩れ、ヒッ、ヒッ、と静かに泣いた。

 そして、本当に誰かが階段を上がってきた。それは一階でトイレに行こうとしていた、祖父だった。

 祖父は「大丈夫、大丈夫」と優しく声をかけてくれて、俺の背中をさすってくれた。その後、着替えた俺は祖父と一緒に寝た。

 懐かしいなぁ。祖父は、その一年後に逝ってしまった。

 この階段は、よく幼い頃夢にも見た。

 当時大人気だった、あの某有名ホラー映画。俺はあれが苦手で。母がリビングで見ていた時、たまたまリビングに行ってしまって、ちょうどあのテレビから出てくるシーン。トラウマになった。

 この階段を、あの女が這い上がってくる夢をよく見た。もう最悪だった。

 そんな場所に、俺は座った。階段を前にして。壁を背にして。体育座りで。

 少しすると目が慣れて、うっすらと階段の姿が見えてくる。

 俺は手がじっとりと汗ばむのを感じた。

 体が暗闇に圧されているような、息苦しさを、感じていた。

 ほとんど何も見えない、真っ黒な、真っ暗闇でたった一人。一瞬、とても広い場所にいるような錯覚を覚える。それほどまでに、見えない。

 そして無音。大音量の耳鳴りが襲ってくる。

 ゆっくり、鼓動の音が聞こえてくる。それはゆっくり、早くなる。

 ひんやり冷えた廊下に、熱い身体。

 汗をかいていた。

 手が、足が震えた。

 “こわい”。

 “こわい”――“こわい”。“こわい”。

 これが、“こわい”だ。こんな近くに――こんなところにあった。

 俺は何故だか、笑っていた。多分、引きつった笑いだったと思う。

 答えを見つけたような喜び。動けなくなってしまう程の、恐怖。

 全身の皮膚が粟立っていた。――もうわかった。もうわかったから。ここを離れたい。

 ――動けなかった。全く、ピクリとも。『金縛り』だと、思った。

 目を閉じた。

 閉じたはずだった。

 見えているものは同じだった。階段があった。

 目を閉じれているのか、開けているのか、わからない。どちらにせよ、目の前に階段があった。

 俺は、やってはいけない事をしてしまったのだろうか、とふと思った。

 そう、それは真夜中に部屋で、鏡に向かって「お前は誰だ」と問い続ける、あれのように。

 肩を、誰かに押さえつけられている気がする。絶対に、立てない気がした。

 ピシッ、と乾いた音が響く。

 ラップ音……? いや、違う。あれは家の材木が気温の寒暖差で……。

 ピシッ、

 ミシッ、

 音が止まない。

 向こう側から、何かが来る。

 目の前の階段の下、踊り場。暗闇の底に、確実に何かがいる。

 気配を感じる。

 俺を、見ている。

 幼い頃に見た夢の映像が蘇り、投影される。

 何かが、ゆっくりと、這うように近づいてくる映像。現実なのか、幻なのか。わからない。

 ヒィッ、ヒィッ、と俺は必死に呼吸する。

 渾身の力を振り絞って、両手を背の壁に添わせ、立とうとする。

 力が出ない。

 目の前の闇が、一層暗くなった気がした。

 捕まる、と思った。

 俺は壁伝いに動き、俺の部屋のドアを開けた。

 室内の光が零れ差す。

 久しぶりに呼吸をした気がした。

 後ろ手にドアを閉め、正面の机に手を着き、息を飲む。

 目の前に、血走った眼があった。

 ――本の表紙だった。

 息を吐き、本を裏返す。

 前を向いた。

 鏡と化した窓ガラスに、ゆっくり開く部屋のドアが写っていた。

 俺は、ゆっくりとカーテンを閉めた。


 そして、そのまま机に座り、今日記を書いている。

 まだ、後ろは振り返ってない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ