表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

I

「うわあああああっ〜〜〜!」

男は真っ白い空間で目覚めた。しばらく呆然としていると、反射的に彼は頭を押さえた。数秒前に交通道路で車に衝突し頭から着地したからだ。

体を起こし、振り返ると純白の布を一枚纏った女神が神々しく佇んでいた。男の数倍はあるであろう背丈。その背中には桜色の長い髪の毛が垂れ下がり尾を引いていた。男が混乱と驚嘆で青ざめ、腰を抜かし、口をぱくぱくさせた。そうしてどうにか言葉を絞り出した。

「なっ…なんなんだここ!?おっおおお俺……しっしっしし死んだのか!」

すると怯える男に対して女神はそっと口を開いた。

「よくここに来ましたね選ばれし少年(ボン)。私はこの世界の神ハリベル、少年が言うようにアナタは不幸にも死んでしまいました。ですが幸運にもあなたこうしては私の目の前に現れた。なので………」

「元の世界に戻してくれるのか!」

女神は残念そうに首を振った

「アナタを元の世界に送ることはできません。ですが私はアナタにもう一度、私の世界で、生きるチャンスを与えることができます。少年がそれを望むのであれば……」

「ほ……本当ですか!生きたい!生きたいです!!」

男は立ち上がって叫んだ。宙に浮くような感覚で、自然と顔が明るくなっていた。その顔を見て女神はフフッと口元を緩めた。

「それでは……」

そう言った途端、どこからともなく扉が落ちてきた。神殿かなにかに付いているものを外して持ってきたかのようなその巨大な石造りの重厚な扉を女神は少し開けた。それも丁度人が一人通れるくらいに

「アナタの世界とは少し違う形をしているので気をつけて下さい。一応何かあった時ように、私の力を少しばかりですが分けて差し上げておきます。その力を使いたい時はこうお唱え下さい。「女神の息吹(ハリベル)と」

男は門の前で深く息を吸うと、一歩ずつ扉の中へ入った。背後で扉が閉まる音がすると、目の前には青空が広がっていた。気がつくと男は一般の道の上に立っていた。右手側にはどこまでも草原が続いていて男が立っている小さな一本の道がその上に線を引いている。

「すげえー……」

男が見惚れていると背後から子供の声が聞こえた。それも知っている言葉が聞こえたような気がした。

『助け………』

その声は背後にある森林の中から聞こえた。声の方へ向かってみると、一人の少年が少女に馬乗りになって両の手首を押さえつけていた。それを周りを囲う少年達が時折嘲りながら傍観していた。

「今度はパパもママも来ねえからな!」

「親が偉いからっていい気になりやがって!なんだこんな服………!」

そう言って馬乗りになっている少年は少女の綺麗な花柄のドレスをナイフで切り裂いた。一人の少年を皮切りに周囲の少年たちも少女の服を引っ張って破りはじめた。

「あ母さーーーーん!助けてーーー!!」

少女は目に涙を浮かべ叫ぶように助けを呼んだ。男は我慢の限界になり走り出した。そして馬乗りになる翔めがけて拳を放った。


男の体が宙を舞い、勢いよく大木に背中を打ちつけ倒れ込んだ。

(どうなってんだコイツら!!めっちゃ強い!もう何ヶ所骨が折れたかも分からない。奥歯ももう二本折られてる。)

「大丈夫ジョー?ほっぺ…」

「ああ全然!大人のくせにちょー弱えやコイツ」

少年たちは群がって男の腹や背中を蹴りつけた。だが男には反撃する力も気力もなかった。確実に体の出来が違う事に気づくには十分であり、ただ体を縮こまらせることしかできなかった。

(やばい……これっ……死ぬ……もう…意識が……)

薄れていく意識の中に横たわる少女が視界に入った。自分がもしここで折れたら、一生後悔する。そんな予感がした。その瞬間、男の脳内に一つの言葉が浮かんだ。あの時女神から授かった言葉だ。全身に力を入れ震える体を起こし、立ち上がって叫んだ。

神の息吹(ハリベル)!!」

少年の体はどこからか散ってきた季節外れの無数の桜の花びらに包まれ、周囲の木々を大きく揺らし、周囲の少年達を大きく吹き飛ばした。桜の花弁が地面に落ちるとそこには桜色の髪と紅葉色の鎧を身に纏う男が立っていた。手には細い木の枝の様な柄の先端から四方向に刃が垂れ下がった鎌を持っていた。

(痛みがなくなっている………それになんだこの姿と鎌は…)

男が空に鎌を振ると、視界にあった大小、全ての木々が滑るように切り倒された。薄暗い森に光が差し込み、祝福するかのように男を照らした。男は自分の与えられた力に呆然と立ち尽くし、数秒して何かを悟った。なぜ女神が自分をもう一度生かし、こんな力を与えたのか。そして理解した。男の目には闘志が宿り、この世界に根を張る悪、理不尽、全てを刈り取ると決意したのだ。少年たちは慄いて、泣きながら許しを乞うた。何度も何度も謝罪して、頭を地面に擦り付けた。だが男は何も言わず、冷徹に鎌を振り上げた。全て無駄だと気付いた少年たちは男に背を向けて勢いよく逃げ出した。

(君たちの行動はすでに一線を超えている。許してもらえると思ってないよな!!)

男はクラウチングスタートのように低い姿勢から、地面を削って弾丸のように飛び出した。

(俺がこの手でお前ら悪を刈り取る!!)

逃げる子供の背を目掛けて男は大きく鎌を振るった。すると上空から稲光が走った。そして雷の代わりに人が落ちてきた(現れた)


「シャーーンナローーー」


褐色の拳が男の顔面に強く、深くめり込んだ。そのとてつもない音と衝撃に無我夢中で逃げる少年たちも一度振り返った。そこには………

褐色の肌に目も見えないはどのヨレヨレした前髪。水色のモサついた髪の中からは円錐の角が二本顔を出している。殴られた男は地面に垂直に激突し、もう起きることはなかった。鬼のような男は、何故かイライラしているようで足に履く下駄の爪先で地面をカンカンと叩いた。

「こっちゃあ休暇中なんだぞ…チッ…舐めやがって」

鬼は爪を噛みながらブツブツ何か、文句言っているようだ。すると突然首をぎゅるんと曲げて、少年たちと、ほとんどボロ切れと化した布を体に当てがいながら立つ少女を一人ずつ順番に見つめた。一瞬見えたライオンのような琥珀色に光る瞳がその場にいる少年少女に緊張感を与えた。すると突然……

「オイッ!!お子様ども!特に男の子オオ!男がやっちゃっいけねえことぐらいわきまえやがれ!」

そう言って一人ずつビンタして回った。案外強いようで、みんな一発で伸びてしまった。そして少女の前にしゃがみ込んだ。

「ごめんな、もっと早く来てやれなくて、怖かったよな。コイツらのことは俺に任しといてくれ、もう二度とお前に手え出せねえようきつく説教しとくから」

少女はもう既に一発入れられている少年たちを見ながら少し笑った。そして小脇に抱えていた紙袋の中から、一着の、それも小さな女児ようの着物を手渡した。

「本当は姪っ子のお土産なんだが、背に腹はかえらんねえ。とりあえずこれ着て、家に帰んな。」 

そう言って少女を見送った。鬼のすぐ真横の空間に人一人倒れるくらいの、()()()が現れ、女神が顔を出した。

「いやー今回も失敗しちゃいましたねー。テヘペロ」

「何がテヘペロですか。本当いい加減にしてほしいですよ!あなた今回で4度目ですよ。仏もジャブ打ちますよ。打っていいですか?」

「いやああ!ごめんなさいごめんなさい!……今回は行けそうな気がしたんですけどねー…なんかこうビビッと!『この方なら私の世界に平和をもたらしてくださる』っていう!!」

鬼は手で顔を覆いため息をついた、それは呆れと哀れみの混ざったため息だった。

「これが、履歴書なしの突発的魂を転生させるのを禁止してる理由です!コイツ前世、自転車専用レーンにノーヘルのバイクで侵入し、自転車と衝突して、バランス崩したところをトラックではねられて死んでんですよ。しかも衝突された登校中だった高校生もその時の事故に巻き込まれて亡くなったんですよ。ゴミクズを付け上がらせるからこうなるんです!お前もそう思うよなあ!」

「本当ッ………!ッ危険ですよ」

鬼の背後から男子高校生が顔を出して言った。日本土産の和菓子、漫画本が入った計五袋と八箱、京都の土産屋に売っている木刀数十本などなどを嫌な顔一つせず両手で抱えていた。

「もしかしてその子が……その?」

女神が目を丸くして指をさした。

「ええ、その交通事故に巻き込まれた高校生の田中君です。」

「どう…ウォット!……どうも。田中……です」

頭よりも高く積まれた箱から顔が一瞬見えた。どう見たって普通の男子高校生だ。

「コッチに転生させる代わりに連れてきました。構いませんよね?」

「ま…まあ…でもそういう事は先に言っといてッ…」

「嗚呼?」

穴の中に顔を突っ込み、鬼は恐喝でも始める勢いで女神に詰め寄った。

「いえいえなんでもございません……」

女神に転生を受諾させると、早速鬼は足元に転がる死体の中から、犯罪者の魂を抜き取り、高校生の魂を代わりに詰め込んだ。すると今までのキモおじの顔から一変し、聡明で優しそうなティーンネイジャーの顔に変化した。

「顔っていうのは内面の現れとはいいますがここまでとは……」

鬼は奇妙そうに顎を撫でて見つめた。

「なんすか?この髪といい服といい……」

「それは……」

鬼に割り込んで女神が話し出した。

「私、女神ハリベルの力によって生み出された女神の……」

「いらないんすけど?髪色も()ですし」

数秒間の沈黙の後、女神はガクッと倒れた。


「で、結局その子は普通の人間としてその世界で生きることになったの?まあ…その…いいんだけどさー…あんまり職権濫用しないでほしいなー」

数段上の玉座にドカンと座ったルシファーが苦笑いしながら言った。

「あの状況では、あれが一番いいと判断したまで」

それと……と言って鬼は懐をまさぐった。懐からは二つのものが出てきた。一つはA4サイズの紙、そしてもう一つは大玉のメロンだった。

「なにそれ……?」

「メロンです。」

「それは見ればわかるわよ」

「請求書です。」

鬼は一枚の紙を空気抵抗を物ともせずペチンッとルシファーの顔に投げつけた。数秒玉座に沈黙が走った。

「投げんなよ!てかこれ、お前の旅行代じゃねえか!経費で落とせる訳ねえだろアホ!だいたいお前は…!」

立ち上がって、ルシファーがガミガミと文句を垂れ流し始めた。毎度行われて行事のようになってきている。現在連続記録更新中で前回は四十分間ぶっとうしだった。鬼は徐にフォームを確認し、大玉のスイカを顔面にストレートでぶち当てた。メロンは砕けて、崩れるように玉座に座り込んだ。

「何でよ……私、上司よ……女よ……美人なのよ!」

「うっせえ!」

あの大女魔王ルシファーでも二玉目があるとは思ってもみなかった。

「アメリカだったら終身刑よ…いいや!私が死刑に…」

顔につく果肉を手で拭った頃には鬼は日本土産の紙袋を置いていなくなっていた。紙袋の中には何だか題名の長い、気持ちの悪い発色の髪をした人間たちが寄り集まったり、向かい合ったりする表紙の漫画本が数十冊入っていた。というかそれしか入ってなかった。その時、お土産に日本の面白い漫画を強請ったのを思い出した。

「うせやん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ