転生TS公爵令嬢の俺は許嫁とか言われても困るだけなので婚約破棄どんとこいなんですけど。
我が名はレナーテ・シャルロッテ・フォン・グロート。
グロート公爵家の長女である。
前世は男だった俺には相手が男との恋愛、これがわからない。
なので王子との婚約は破棄させる方向で進めようと思う。
行くぞ!
「レナーテ・シャルロッテ公爵令嬢との婚約は破棄させてもらう」
「ほう……」
望むところなんすけど。
だって俺、男なんですけど。
いや、まあ、別にこの身体は女なんですけど。
精神的には男っつーか。
そこんところ説明するとややこしくなるっつーか。
どう考えても気狂いの類にしか思われなくなるから、誰にも言わなかっただけっつーか。
前世って言えば良いんですかね?
生まれ付き、前の人生の記憶がある状態で産まれてきた感じで。
しかも今は女でも前世は男だったわけで。
なんとか女の生活に馴染もうと頑張ってはいるんですよ?
それでも記憶にこびりついた男の生活が邪魔をしてですね?
私生活は流石に慣れましたよ、もう女としてウン十年生きてりゃそりゃあね。
でも、ほら、やっぱり、ねえ?
恋愛対象までは、ねえ?
男同士の恋愛を悪というつもりはないですけど。
自分がそれに適応できるかって言われるとまあ難しいものがあるわけで。
じゃあ最初から相手を女性に絞ればいいじゃないかって?
いやまぁ、そうも問屋が降ろさないわけでして。
生まれついての身分ってものがあるわけなんですわ。
何の因果か、今世は公爵家のご令嬢に生まれてしまいましてね。
公爵ですよ?
公爵。
貴族の身分で一番エラいの。
王族にも幅が聞くレベルで口出しできる大貴族なんすよ。
まあそこんとこの長女に生まれちまったからには、政略結婚っていうんですかねえ。
王子の許嫁みたいな感じで育てられるわけですわ。
たまったもんじゃねえって話なんですわ。
マジで。
幼い頃から親父(と言うと父上と言えといつも怒られる)からこの方の妻になるんだぞと言い含められて育てられてきて、もう十何年よ。
しかも向こうは面食いなのか、一目惚れなのか知らないけど、乗り気なんですわ。
こっちは全く乗り気じゃないっていうのにですよ。
申し訳ないとは思うんですよ?
そりゃね、親父がセッティングしてくれた相手だし。
向こうも乗り気だし。
なにぶん相手は王子様だし。
いや、本当に申し訳ないとは思うんですよ、マジで。
でも塩対応なんですよ、残念ながら。
まだケツに毛も生えてねえようなボウズからどんだけアプローチされようと恋愛感情に発展するわけないじゃないすか。
前世オッサンだったのが。
まあ容姿端麗な王子様だから、可愛らしいとは思ったけど、それ止まりですわ。
可愛いって言っても近所の子供を見守るような感情以上のものはないわけですわ。
ましてやそれがキスなんて迫られた日にゃ、おもわずアイアンクローも出ますわ。
……あの時は申し訳なかったって反省もしてますけども。
で、まあ。
そんな日々が続いていけば、待っているのはそう。
当然のように婚約破棄ですね、はい。
誰が悪いって、俺が悪いよ。
それはいいんだ、計画通りだから。
王子様に嫌ってもらう事こそが俺本来の計画なのだからな。
「フッ」
「……? 何が可笑しい」
「やっと脳天気なお前でも飲み込めたようだな」
「何ッ」
驚愕する王子様の眼の前で、俺はドレスを翻して声高々に演説を始める。
「全てはオレの親父の言うとおりだ。こぉんな最低の婚約にはなんの未練もない。フッ……婚約破棄されれば勘当されると分かっていたからこそ、この婚約を利用したのだ」
そうだ、公爵家の長女として産まれた俺にはこう言っちゃ何だが、縁談を円滑に進める以外の利用価値はない。
要するに政治の駒である。
政略結婚だけを考え育てられてきた者が、それがオシャカになったらどうなるか。
諸君は、オモチャが壊れたらどうするね?
大事に取っておく?
直す?
そういう人もいるかも知れない。
だが、もう取っておくだけ損が発生するし、直すことも出来ないとしたら?
捨ててしまうしかないだろう。
その捨てられることを俺は狙っていたのだからな。
「オレの狙いは、下野し安穏とした生活を送ることなのだからな。ふぁーっはっはっはっはっは!!」
思わず高笑いしてしまう。
前世では単なる一般人だった俺に公爵家での生活は窮屈でしょうがないったらなかったぜ。
既に領地を査察することで、普通の生活を送るには自給自足で事足りることは確認済みなのだ。
後は一からガッツで小屋でも建てて気ままな農家暮らしでもすればいいという訳だぁ。
まあ、いくら勘当すると言っても小間使いの一人二人くらいはよこしてくれる温情はあるかも知れないが……。
その時はなんなりと使ってやるとしようではないか。
「領地の中で一番環境が整った美しい自然に移住し、そこを本拠地としてマイホームを建設するのが、オレの本来の計画なのだよ。そのためには、あんたと結婚するわけにはいかんからなぁ。婚約破棄をするためにこぉんな塩対応まで徹底して、あんたを誘導したのだ」
「…………」
「公爵令嬢の許婚などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ」
決まった。
渾身のドヤ顔で王子様を無礼にも指差し、この上ない離縁発言。
これはもう、百年の恋も冷める事間違いないだろう。
こんな事を言われたら俺なら間違いなく離婚するか、結婚する前に別れるかの二択である。
後は呆然としている王子様にトドメを指すだけだ。
ふふ。
「オレの身分をこの婚約とともに葬り去れば、オレの敵はもはや一人もおらん! 領地のマイホームはもちろん、学業に縛られない自由時間も、にゃんことかのペットを飼い愛でる自由も訳なく獲得でき、オレの帝国は永遠に不滅になるというわけだぁ!!」
思わず帝国と言ってしまったが、この国は王政である。
国家転覆をしようとまでは思っていない。
ただ一般市民として捨てられればそれでいいだけの話である。
「やはり……」
「んん?」
王子様は俯いて振るえて何事か呟いている。
もしや、俺の計画を一端でも知り得ていたのかな?
まぁ、もはや遅いがな。
ふふ。
「やはりグロート公爵の言っていたことは本当だった……! 婚約破棄を迫れば貴女は本性を表すだろうと!」
「オゥ、イエース」
王子様に本性を明かすことで俺の計画はすべて完遂される。
今更隠し立てなどする必要はないのだ。
以前は“わたくし”とか“ですわ”とか言わされていたが、そんな束縛の日々ともおさらばだ。
サブイボが立つんだよ、そんな事言わされると。
蕁麻疹が出るわ。
だが、そんな生活ともついにお別れでございます。
失望に失望を積み重ね、完璧に婚約破棄を完成させた現状を覆す手立てはもはや無い。
俺の新しい生活が待っているぜ。
バラ色のな。
「────した」
「なんだって?」
「惚れ直したッッッッ!!」
「…………え゛ぇ!?」
な、なにを言ってるんだこの王子様は?
意味がわからない。
こんな意味不明な計画を吐露する悪女を惚れ直すなどと……。
そのようなことあろうはずがございません。
さ、宮殿にお戻りを……。
「昔から何処か何かを秘めているようなミステリアスな姿が美しいと思っていたが、それは高嶺の花にしか過ぎなかった……。どうしても君の本性が知りたかったのだよ! 手の届く範囲に降りてきて欲しかったッ!」
「しまったッ!?」
そういえばこの王子、何回も何回も塩対応で袖にしても何度も何度も迫ってくる物好きだったことをすっかり忘れていた。
その事を完璧に忘れ、これで俺の計画は完遂だなどと、その気になっていた俺の姿はお笑いだったぜ。
「公爵家の生まれでありながら、野心を持っているその姿勢も素敵だ……。牧歌的な暮らしに憧れを持つというのも愛らしい!」
「ちょ、おま、お待ちください!」
「本当の一人称はオレというのだね!? 荒々しい所もまた逆に可憐だ!」
「お助けください!!」
思わず護衛の騎士に助けを求める。
藁にも縋るとはこのことだろうか。
彼は普段はどんな悪漢からも守ってくれる、とても頼りになる無敵の騎士だが……。
「無理ー……です……」
「え゛ぇえ!!」
ものすごい平坦な顔と口調で突っぱねられてしまった。
これが本当の塩対応か。
ならば親父を……と思ったが、王子様の口調からして親父も一枚噛んでいるのは確定。
もはや誰の助けも期待できまい。
なにもかもおしまいだ。
「レナーテ……、君の本当の姿が見られて嬉しい……。さぁ、今宵は語り明かそうではないか……!」
「王家の子息と同衾するとは……、これも公爵令嬢の務めか……!」
うわぁーははははははは(泣)。
結婚生活が始まったばかりでこの始末。
はてさてこの先、どうなりますことやら。
パロディしかねえなこれ?




