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それは誰にも知られてない本音。




翌朝、今日も尊の迎えはなかった。

あたしも次の日には戻ったし…大丈夫だよね…?

少し不安になってメッセージ送ってから家を出る。



下駄箱につき、靴を履き替えていると羅美ちゃんも登校してきた。


「昨日一緒に行けなくてごめん〜、川向どうだった〜?」

羅美ちゃんは教室まで歩きながら、昨日の尊の様子を聞いてくる。だけど羅美ちゃんの言葉に全く感情がこもってない。

建前で聞いてるだけで心配していない事がよく分かる。

クールな羅美ちゃんらしくて思わず、くすっとしてしまった。


そんなに興味もなさそうだし、今日は尊に戻ってるかもしれないしと色々考えた結果、適当に返事をしておいた。


お昼になっても尊から返事は来てない。

今日も休みなのかな…。


ガタッと立ち上がり、羅美ちゃんに

「尊の様子見てくる!ごめん!お昼ちょっと待ってて!」と声をかけ、

足早に尊のクラスを覗きに行くと…


膝の上で拳を握り、背中に棒でも入ってるのかと疑うほど真っ直ぐとした姿勢で席に座っているふわふわな髪が見えた。


え゛?

普段との違いが大きすぎてクラスを間違えたかと思った……。けど、あの髪は間違いない…。

いっそ気持ち悪く感じるほど、綺麗に座っているあの人は尊だ。

驚きすぎて固まってしまっていると、

視線に気づいたようで、

すくっと立ち上がりこちらに向かってくる。

椅子を引いた音すら立てず、歩き姿もムダがなく揺れもない。まるで機械のようで少し怖い。


………もしかしなくても、彼は…


「おはよう。紗菜嬢。」


声をかけてきた尊は、案の定アレク様だった。

でも、冷たい視線や声ではなく

優しい声色と表情…あたしが推してきたアレク様だ。

それはそれで昨日との違いにゾワッとして目を逸らす。


 なんでまだアレク様のままなの?

 入れ替わりって一日だけなんじゃないの?


普通に話しかけてくるアレク様にドン引きしながら、スザンナに問いかける。


『私は自分の意志で紗菜に体を返したのですよ。』


 そうだったの…?

 確かに夢の中でそんな感じのこと言ってたけど…


『えぇ。体がなくても、紗菜とこうしてお話が出来るだけで私は十分ですから。』


そう言ったスザンナはきっと優しく微笑んでいるんだろうと胸の暖かさで感じた。


 ということは、アレク様に返す意思がないと尊には戻らないの…?


『はっきりとは私もわかりませんが、その可能性も大いにあると思いますわ。』


そんな…。てっきり次の日には戻ってるんだと思ってたよ…。

記憶を共有した一日限りのことなんだと……。


尊に戻っていない、戻らないかもしれないという事実

になんでか、かなりショックを受けていた。


「昼食を一緒にいかがだろうか。」


アレク様は返事もしていないのにまた話しかけてくる…。

どうして普通に話しかけてくるんだろう。

昨日思いっきり啖呵切ったよね…

処刑だ、と言われたほうが納得できるんだけど…。


スザンナに向けていた、あの目も声も嘘だったのかと思うほど今は王子様のお手本のようなアレク様。

そして大好きな推し。そんな人にお昼に誘われてるのに、全く嬉しくなかった。


「私と同席は嫌だろうか……?」


目も合わせていないからか、表情に出てしまっていたのかアレク様はまた言葉を発する。


このまま何も言わないままでは良くないと思い、とりあえず視線をアレク様に向けると……


………あたしの目はおかしくなったんだろうか。

アレク様に犬の耳と尻尾がついて見える…。

なぜか、耳も尻尾も垂れ下がってる。

これは…落ち込んでるってこと…?

表情はさっきまでと変わってないけど……。


はぁ…と大きくため息をついてから返事をする。


「わかりました、いいですよ。いつもあたしたちが食べてるところあるんでそこ行ってみましょうか。」


そう伝えると、垂れていた耳と尻尾はピーンとする。


 「あぁ。頼む。」


声色も表情もそのままだけど…

感情を表してるってこと…?

ていうかさっきまでなかったよね耳と尻尾。

なんで………?

不思議に思いつつ、ふわふわの髪とタレ目に犬耳が似合いすぎてて考えるのを放棄した。


いつも席取りしてくれてるのは尊だからもう埋まっちゃってるかもしれないけど……

一応中庭を見に行くと、

綺麗な髪をなびかせ、あたしたちに手を振りながら声をかけてくる。


「あ、きたきた〜、おそ〜い。あと1分遅かったら食べようと思ってた。」


教室で、待っててと言っておいたはずの羅美ちゃんが席取りしてくれてた。

待たせすぎちゃってお腹が限界みたい。

「早く食べよ〜。」いそいそとお弁当を広げている羅美ちゃんは尊の様子に何も言ってこない。

気にしていないようだったし、アレク様もどうしたいのかわからないので、あとで現状を伝えることにした。



それはさておきこれは確認しておきたい…。

「あのさ…尊の頭にある、あれってやっぱり犬耳かな…?」

お弁当を味わってる羅美ちゃんにこそっと耳打ちすると、「ん〜?」と箸を咥えながら、一瞬だけ尊に目線を向ける。

すぐにお弁当に視線を戻し、口に運びながら

「確かに川向は大型犬っぽいとこあるけど、さすがに耳は生えないっしょ〜。」

と少しだけ笑ってる。


羅美ちゃんには見えてないんだ……。

てことはやっぱりあたしがおかしくなっちゃったのかな……。

あの時だけの見間違いではなく、今もはっきりと見える。


ーーーーーーーーー


なぜだろうか。

よくわからない。

昨日の彼女の言葉を聞いたあと、感じたことのないほどの強い胸の鼓動があった。


あのように物申す人物など初めてだ。

彼女の言葉は私の全てを揺るがせた。まるで頭を強く殴られたような衝撃だった。


耳に残っている彼女の感情のこもった声。

その声と言葉が頭の中をぐるぐると掛け巡る。

考えなくてはいけない、そう思う反面あの言葉に正解はあるのだろうか。

考えても答えが出ない問に頭を悩ませているようなそんな気持ちになる。


だが、不思議と彼女に対して不快感はない。

こうして近づけば何かわかるかと思ったが、何も掴めない…。


そばにいると昨日のように、鼓動が普段よりも強くなっているのがわかる。

一体なぜなのだろうか…。


ーーーーーーーーー


あたしの向かいでお弁当を食べるアレク様の犬耳はピクピクと動いている。

これってどういう感情……?

疑問に思っているとふと思い浮かぶ。

あれ…王族って……確か…。


今度はアレク様にこそっと耳打ちをする。

「もしかして毒味無しで食事できるのが嬉しいんですか?」


ピクピクしていた耳はピーンと立った。

「毒味なしの食事はたしかに初めてだが、なぜ嬉しいなどと思っていると思われたのか?」


完璧王子様スタイルを崩さないアレク様。

優しい表情は仮面のようにぴくりともしない。

まるで人形みたいじゃん…。

スザンナに対してのアレク様は冷たくて最低だけど、人間らしさを少し感じたけどな。


「いえ、なんとなく思っただけです。違ったならすみませんでした。」


耳が垂れてる。

今の返事では不満だったってこと?

……あぁ、もう!


「言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうですかっ?」


突然声を荒げたあたしに、少し驚いた表情を見せるアレク様。

気にせずお弁当を食べ続ける羅美ちゃん。

そうやって表情変えられるんだから表情で表すなり、言葉で示すなりすればいいのに。

耳で全部を判断なんて出来るかっ。


「いや…、嬉しいと思ってるなどと気づかれたことがなかったんだ。

だが、私が認めなかったことで貴方との会話が終わってしまって……

もったいなかったなと思っていたのだが、

なぜ言葉にしない気持ちがあるとわかったのだろうか…?」


そりゃわかるよ、耳でね。

なんなら尻尾も。

今はブンブンしてるよ…。

耳も全力でパタパタしてるし。

本人に見えるのかなこれ。


んー、めんどくさいから黙っとこ。

「意外とわかりやすいですよ、殿下は。」

と誤魔化した。


そういうと余計にパタパタする耳。

少し可愛くて、ふっと笑ってしまった。


お弁当も残り少しになり、お昼の時間もあと少しだったのでかき込んで食べちゃおうとしたとき、

アレク様と目があった。

表情では相変わらずなに考えてるかさっぱりだけど、耳はさっきと同じように動いていた。


まだ何か言いたいのかな…と

口を開こうとした時、遮るようにお昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。







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