表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふるさと振興課(仮)  作者: 堺大和
44/48

0044医療

静かな決戦

二月の朝

空気はまだ冷たい

葵は 少し早めに目を覚ましました

目覚ましが鳴る前だった

天井を見つめる

布団の中で ゆっくり深呼吸をする

震災研修で聞いた言葉がふと浮かぶ

当たり前の朝は奇跡

今日も ちゃんと朝が来た

それだけで 少し心が落ち着く


制服ではなく 落ち着いた私服

髪をまとめ

受験票と筆記用具をもう一度確認する

バックの中

付箋だらけのノート

最後に少しだけ目を通す


循環器

感染対策

新生児の特徴


沐浴実習のときの感触を思い出す

手は やさしく

それは試験だけの知識ではない

それからの自分の仕事だ


会場前には

同じように緊張した表情の受験生

静かなざわめき

葵は 空を見上げる

薄い冬の雲

村では 今頃朝の光があたってるかな

道の駅の建物を思い浮かべる

姉の菫の姿も

私は 私の場所で頑張る


「始めてください」

紙をめくる音が一斉に響く

最初の問題を読む

落ち着いて

呼吸を整える

一問ずつ

焦らず

患者の安全を最優先する対応はどれか

迷う選択肢

基本に戻る

鉛筆を動かす

時間は静かに流れる

途中 一瞬だけ不安がよぎる

これ あってる?

でも 手を止めない

実習の光景が浮かぶ

小さな赤ちゃんの模型

震える手

それでも支えた感触

私は できる


「やめてください」

鉛筆を置く

ふっと 肩の力が抜ける

手のひらに少し汗

会場を出ると

冬の光がまぶしい

同級生が声をかける

「どうやった?」

葵は少し考えてから言う

「やれることはやった」

それは本音だった


連絡

スマホにメッセージ

さくらから

「どうやった」

葵は返信する

「終わった 

あとは待つだけ」

数秒後

「お疲れ様

絶対大丈夫や」

その言葉に 少し笑う


窓の外を流れる冬景色

合格発表までは 落ち着かんな

でも 今は少しだけ軽い

試験のために年越しをして

遊びも我慢して

机に向かった日々

それはもう 終わった

窓に映る自分の顔は

少し大人びている

私も 春に向かってる

遠くで夕陽が沈む

その光は

村の方角へのびている気


内装工事中 冬の午後

空は晴れているが

風はまだ冷たい


道の駅の内装工事は順調に進んでいた


天井の配線はほぼ完了

壁の石膏ボードが貼られ

空間の区切りがはっきりしてきている

その日

一人の来訪者

「お忙しいところ すみません」

村立総合診療所の所長

白衣ではなく 厚手のコート姿

穏やかな初老の医師だ

私はヘルメットを手渡す

「こちらこそ ありがとうございます」

菫も一礼する

今日は見学という名の

非公式ヒアリングだ


まだ完成していない売場スペース

床には区画を示すテープ

「ここが直売

こちらが軽食コーナーです」

菫が説明する

所長は静かに頷きながら歩く

そして 少し足を止める

「この奥は?」

「多目的スペースです

平時はイベント利用

災害時は一時受け入れ想定」

私が答える

所長は天井を見る

「電源は確保できますか?」

「非常用発電機を入れます

最低限の照明と携帯充電は可能です」

「水は?」

「井戸水と備蓄タンク」

所長は小さく息を吐く

「それなら 診療所と連携出来ますね」


三人は

まだ何もない多目的スペースの中央に立つ

「災害時 診療所は手狭になります」

所長が言う

「発熱患者や軽症者を

こちらに誘導出来れば

動線を分けられる」

菫が目を見開く

「診療所と連絡体制を作れますか?」

「ええ 平時から訓練しておけば」

私はゆっくり頷く

ただの観光施設やない

ここは

村の もう一つの機能 になる


所長は続ける

「高齢者が買い物ついでに

血圧を測れるコーナーを作るのもいい」

菫が反応する

健康相談の日を決めて

診療所の看護師さんに来てもらうとか」

「可能です」

会話は自然に広がる

直売と健康

食と医療

村の生活が 一本の線でつながっていく


外に出ると

冬の光がまぶしい

建物の外壁は完成し

看板の設置準備が始まっている

所長が言う

「道の駅は

ただ人を呼ぶ場所ではありません」

少し間を置いて

「人が戻って来られる場所です」

その言葉に

菫は静かに頷く

私は 建物を見上げる

守る場所が また一つ増える


菫はその夜

短い投稿をする


今日は村立診療所の先生と

内覧打ち合わせ

道の駅は 買う場所 だけでなく

支える場所 にもなります

#村の未来


コメントが入る

「健康イベント楽しみ」

「災害時の拠点は安心」

「ただの観光施設じゃないんですね」

小さな反応

でも 意味は大きい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ