0043凍える朝
一月一日
夜明け前の空は
深い群青色だった
山の稜線がうっすらと浮かび
空気は刺すように冷たい
神社の境内には
昨夜の年越しの余韻が残っている
焚火の火の炭が まだ少し赤い
村の人々は それぞれの家で
静かな朝を迎えていた
私は早く起き
村を見渡せる小高い場所へ向かう
遠くに
道の駅の建物が見える
外装が整い
冬空の下で凛としている
ここまできたな
東の空がゆっくりと明るくなる
太陽が山の端から顔を出す
その光が道の駅の屋根を最初に照らす
金色に光る鉄骨
私は深く息を吸う
「始まるな」
小さく 独り言
菫は神社へ初詣に向かう
参道には
村内で年越しをした作業員の姿もある
「おはようございます」
軽く会釈
手を合わせる
今年無事に開業できますように
願いは具体的だ
でも 欲張りではない
参拝後
振り返ると建設中の建物が見える
元旦の光に照らされている
それは
もう村の風景になっていた
一月五日
役場のふるさと振興課
正月の静けさ
仕事始めの空気が戻ってきた
机の上には
出店希望者の資料が並ぶ
現在の候補は
地元みかん農家の直売コーナー
苺 あすかルビー 古都華 の加工販売
名水わらび餅と和菓子店
軽食コーナー みそ鍋 あんバタートースト
カフェの併設スペース
小規模コンビニ型物販
そして
さくらが関心を持っている
地元食材の商品開発コーナー
「採算性だけで決めると 都会と変わらなくなる」
菫が言う
「でも理念だけでは回らない」
私が続ける
資料を見ながら
二人の慎重に選ぶ
ポイントは三つ
地元生産者との連携
災害時の物資供給機能
若者の雇用創出
議論は数時間に及ぶ 最終的に
直売+加工の複合型売場
地元軽食+カフェ
防災備蓄対応スペース
チャレンジショップ枠 若者向け
を正式決定
菫が一本目の電話をかける
「正式にお願いしたいと思います」
受話器の向こうから
少し震えた声
「本当にうちでええんですか?」
「はい 一緒にやりましょう」
電話を切った後
菫は小さく息を吐く
「決まりましたね」
私は頷く
「建物に 魂が入ったな」
窓の外には
冬の空
道の駅の建物が
静かに立っている
もう箱ではない
そこに人が入り
働き 笑い 悩む
村の未来が 少し具体的になった
一月中旬 凍える朝
朝の気温は氷点下近い
吐く息が白く広がる中
工事現場には再び活気が戻っていた
年末年始の休止期間を終え
内装工事が始まる日だ
シャッターを上げ
建物の中へ入る
外装は完成しているが
内部はまだ骨組みとコンクリート
広い空間に足音が響く
コン コン と
工具の音が反響する
「今日から配線と断熱 同時進行」
現場監督が図面を広げる
私は頷く
「売場動線はここ
非常口と備蓄スペースの位置は変えずに」
安全・防災機能は最優先
ここは観光施設であると同時に
災害時の拠点でもある
壁の下地が立ち始める
天井の配線が走る
床の区画がテープで示される
ここが直売コーナー
ここがカフェ
ここがチャレンジショップ枠
菫はそのテープの線を見つめる
ここに人が立つんや
まだ空っぽなのに
もう人の気配を感じる
「この壁 木目出します?」
「ええな 温かみでる」
「カフェは光入るから 少し明るめで」
設計業者と現場のやりとりが続く
図面だったものが
現実の空間に変わっていく
私は一歩下がって全体を見る
箱は出来た 次は空気や
菫は内部を撮影する
まだ何もない空間
でもそこにひかれた白い線
内装工事が始まりました
まだ空っぽの空間ですが
ここに人の声が響く日が近づいています
#道の駅建設中#内装スタート」
反応は早かった
「楽しみです」
「春が待ちと遠しいです」
「完成したら手伝いたい」
建物 から
場所 へと意識が変わってきている
午後
西日が窓から差し込む
内部の床に光が伸びる
その光の中に
仮設の作業台と工具が置かれている
菫は立ち止まり
その光景を目に焼き付ける
ここで 子供がアイス食べる日が来る
お年寄りが休む日も来る
未来の断片が 少しだけ見えた
夕方
職人たちが帰る
静まり返った内部に
私と菫だけが残る
「いよいよ中身ですね」
菫が言う
私は 空間を見渡す
「ここからが本番や」
箱を作るのは技術
中身を作るのは人
春まで あと数か月
外は寒い
でも 建物の中は
少しずつ温もりを持ち始めていた




