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ふるさと振興課(仮)  作者: 堺大和
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0040UPUP

朝の空気が少し冷たい

菫はふと思い立って

上司に一言声をかけて 

スマホを持って役場を出た

「今日は ちゃんと自分の目で撮ろう」

クラウドファンディングの支援が伸び悩んでいる今

伝えることの大切さを改めて感じていた


山道に入ると

落ち葉が足元で軽く音を立てる

赤や橙に染まった木々が

朝日を浴びて透けている

こんな綺麗な景色 ちゃんと伝えられてるかな


菫は立ち止まり

光の当たり方を少し変えて一枚


画面に映るのは

秋の匂いがそのまま閉じ込められたような景色

直ぐに投稿する


「村の朝

空気が冷たくなってきました

紅葉がいちばん綺麗な時間です

#村の秋#紅葉」


投稿してから

しばらく画面をみつめる

いいねが少しずつ増える

「綺麗ですね」

「行ってみたい」

その言葉に 胸が少し軽くなる


次は滝

水の音が近づくと

心がすっと落ち着く

しぶきが細かく光り

白い流れが岩を打つ

ここは 何度来ても好きやな

この風景も

続いていること自体尊い

ること

「水の音は心を整えてくれます

忙しい日々の中でも

深呼吸出来る場所があることに感謝

#滝#深呼吸」


コメントが増えていく

「ここ何処ですか?」

「ホタルの川ですよね?」

村の名前も知らない人も

少しずつ興味をもってくれている


最後に

旧小学校跡地の工事現場に向かう

クレーンが静かに動き

基礎部分がハッキリ見えるようになっている

土の匂いと

新しいコンクリートの匂い

私が現場監督と話している

菫は

少し離れた位置から全体を撮る


まだ建物はない

けれど 始まっている ことが分かる

もう一枚

基礎部分のアップ


道の駅 少しずつ形になっています

秋の工事シーズンが始まりました

来春 この場所に新しい居場所ができます

#道の駅建設中#村の未来


投稿して数分後

通知が鳴る

「クラファン 応援しています」

「写真を見て支援しました」

「進捗が見えて安心しました」

菫は思わず立止まる

見える って大事なんや


夕方役場に戻ると

私は声をかける

「今日の投稿 見たで」

「え?」

「現場の写真 分かりやすい」

菫は少し照れる

「ちゃんと伝えないと

応援してもらえないって思って」

私は頷く

「ええ広報や

作ってる途中 を見せるのは大事や」

菫の窓の外を見る

紅葉の向こうに

重機のアームが静かに動いている


村の日常

自然の美しさ

そして未来へ向かう工事

全部がひとつの物語だ


この村の空気をちゃんと届けたい


スマホを握り直す

それはただの写真ではなく

村の今を伝える小さな窓だった

秋の空は高く

澄み渡っていた


ある日

秋の夜は早い

役場の一室で

菫はパソコン画面を見つめていた

クラウドファンディングのページ

支援率はまだ目標の半分にも届いていない

でも

昨日の投稿から

アクセス数が明らかに増えていた

「…あ」

数字が ひとつ動く

支援総額が 少しだけ上がる


ピロン と通知


「紅葉の写真を見て支援しました

こんな場所が続いてほしいです」

菫はゆっくり息を吐く

届いてる

また通知


「工事の進捗が見えて安心しました

完成を楽しみにしています」


そのコメントの下に

支援金額が表示される

大きな金額ではない

でも確かに 前より増えている


翌朝直売所

農家の一人が言う

「昨日の写真 ええな」

「娘がこの村ってこんな綺麗やったん?言うてたわ」

菫は少し驚く

「え 本当ですか?」

「SNSで回っとるらしいで」

大袈裟な バズ ではない

けれど 確実に広がっている


昼休み 工事現場

私はスマホを見ながら言う

「昨日から 支援ちょっと戻って来るな」

菫は小さく頷く

「写真 見てくれた人が多かったみたいです」

私は現場を見渡す

「やっぱり

今どうなっているか が分かると違うんやな」

基礎のコンクリートは乾き始め

排水溝の形も見えてきている

未来はまだ輪郭だけ

でも それを見せることが

人の背中を押す


その日の夜

支援率は

数%だけ上がっていた

目標達成にはまだ遠い

でも

下げ止まった 感覚がある

菫は画面を見つめながら

静かに微笑む


急がなくていい ちゃんと 伝え続けよう


通知がまた鳴る

「滝の写真に癒されていました

完成したら家族で行きますね」


菫は返信を書く


「ありがとうございます

村でお待ちしています」


送信

窓の外では

紅葉の葉が夜風に揺れている


黒板に書かれた数字

「支援率 +3%」

誰かが小さく拍手する

大歓声はない

でも

空気が少し軽い

女将さんが笑う

「写真続けたらええやん」

菫は頷く

「はい

村の今を ちゃんと届けます」

私は静かに言う

「派手やなくてええ 積み重ねや」

重機の音が

また静かに響く


道の駅も

支援も

村の未来も

少しずつ

確かに前へ進んでいた





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