0039学外研修
秋の深い日
葵は学校の学外研修で神戸を訪れていた
「今日は防災と命について学びます」
先生の言葉に葵は静かに頷く
施設の中に入ると
空気が少し入ると
映像シアター
1995年1月17日の記録映像
揺れる建物
止まった時計
救急車のサイレン
葵の胸が締め付けられる
この時
どれだけの人が助けを求めてたんやろ
展示室には
当時の医療記録や救護所の写真もあった
簡易ベット
不足する医療物資
限られた水
「医療従事者も被災者でした」
その説明に 葵ははっとする
守る側も 同じ人間なんや
語り部の方の講話が始まる
「当たり前に目覚める朝が どれだけ尊いか」
「生きているだけで それは奇跡なんです」
葵の目に うっすら涙が浮かぶ
看護の道を選んだ自分
命を扱う仕事を目指す自分
でも
私は 本当に 命 の重さを分かってたんだろうか
追悼の空間で目を閉じる
村の風景が浮かぶ
姉の菫
さくら
秋祭り
道の駅の工事現場
この日常も 当たり前じゃない
バスへ戻るとき
葵は小さく呟いた
「私は
命を守れる看護師になりたい」
声は小さいが
芯が通っていた
同じ日
さくらは学校の別プログラムで
JICAの施設を訪れる
「今日は 国際協力の現場を学びます」
案内された展示室には
アジアやアフリカの写真が並ぶ
水を汲む子供たち
農業支援の現場
栄養改善プログラムの紹介
職員の説明が続く
「日本は 技術 教育 医療などで 多くの国と協力しています」
「一方的な支援でなく 共に学び 共に成長する関係です」
その言葉に
彼女の心が反応する
食 って その土地の文化や誇りやもんな
ワークショップの時間
グループで「持続可能な地域づくり」について考える
「自分の地域で出来ることは?」
その問いに
さくらは自然と口を開いていた
「私の村では
道の駅を作ろうとしています
クラスメイトが驚く
「それって地域振興?」
「うん
でも災害の時の拠点にもなれるし
若い人が帰って来る理由にもなれる」
話しながら 自分でも気づく
村の取り組みって
小さいけど 世界と同じことしてるんや
国際協力も
村づくりも
根っこは同じ
「誰かと一緒に生きる」こと
帰り道夕焼けを見ながらさくらは思う
私は
食を通して人を支えたい
村で働く未来か
もっと外へ出る未来か
まだ決めきれない
でも 進みたい方向は見えてきた
命を守ること
生きる喜びを支える事
それが自分の進む道かもしれない
女子寮の廊下は静かだった
消灯時間は過ぎているが
完全な闇ではない
窓の外には遠くの街の灯り
葵はベットの上に座り
今日配られた資料を見つめていた
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター
表紙の文字が
胸の奥に重く残っている
ガチャ 都扉が開く
「ただいまー」
さくらが小声で戻って来る
「おかえり」
二人は自然に顔を見合わせる
少し沈黙
そして同時に言った
「今日さ…」
一瞬止まり どちらからともなく笑う
「今日な 震災の映像みてん」
葵はゆっくり話始める
「朝が突然なくなるって
あんなに怖いことないな」
声は落ち着いているが
目はまだ揺れている
「医療従事者も被災者やったって聞いてな
守る側も同じ人間なんやって」
菫は静かに続けて言う
「当たり前に目が覚めることが
奇跡やって言われた時…泣きそうになった」
小さな沈黙
寮の時計が コツ と鳴る
「私はな 今日JICAやってん」
さくらもベットに腰かける
「海外で 母子保健とか栄養改善とか
やってる人の話聞いて」
「すごかったで
文化も言葉も違うのに
一緒に医療作っていくんやって」
葵が顔を上げる
「なんかさ
道の駅の話してもうた」
「え?」
地域づくりも 国際協力も
やってる事は似てるって思って」
葵は静かに頷く
「命守るってさ」
葵が言う
「病院だけちゃうんやな」
「うん」
さくらが続ける
「食もそうやし
安心できる場所もそうやし」
二人の言葉が
自然に重なる
「道の駅も
災害の時
誰かの居場所になるかもしれへん」
「診療所もやな」
ふっと 二人とも笑う
「なあ葵」
「ん?」
「村にもどるん?」
問いは軽いようで重い
葵はすぐには答えない
「まだ分からん 外の世界も見たい」
「そやな」
さくらも天井を見つめる
「私もな
村で働きたい気持ちもあるけど
世界も知りたい」
少しの沈黙
でも それは気まずくない
同じ日に
別の場所で学んだ二人は
今 同じ方向を見ている
「でもさ」
葵が言う
「何処に行っても
守りたいもんは同じやと思う」
「うん」
「命とか 安心とか
生きててよかったって思える時間とか」
さくらは微笑む
「なんか今日
ちょっと大人になった気がする」
「分かる」
寮の窓の外にか
静かな夜空
二人の声は小さいが
確かに強くなっている
「なあ」
さくらが布団に潜りながら言う
「村の道の駅
ただの観光施設ちゃうよな」
葵も布団に入り
天井を見つめる
「うん 命の続きの場所や」
小さな笑い声
そして静寂
その夜
二人はそれぞれの未来を思いながら
静かに眠りについた




