0036秋祭り
秋の空気が澄み
山の色はゆっくり赤や黄色に染まり始めた頃
村には今年も 移住希望者たちが集まっていた
稲刈り体験の前日
菫はイベント準備の最終チェックをしていた
「今年は 暑さも穏やかで
体験日和になりそうですね」
私も資料を片手に言う
「そうやな
今年は水不足にもならんかったし
まあまずまずやろ」
そんな会話をしていると
遠くから声が聞こえた
「菫さん!おはようございます!」
振り返ると
稲刈り参加者の一団が笑顔で手を振っている
既に長靴を履き やる気に満ちていた
稲穂の黄金色が風に揺れる田んぼ
足を踏みいれると稲がささやくように揺れた
「うわあ これが本物の稲か!」
参加者の一人が目を輝かせる
菫は手本となる稲刈りの仕方を
丁寧に説明していく
「刈る時は 稲の根元を見て
力を入れ過ぎないようにね」
「おお なるほど!」
笑いと興奮が混じる声が
穏やかな空気と一緒に流れていった
昼休憩になると
地元の農家の方々も集まって来た
菫が軽く質問をすると そのうちの一人が言う
「田植えの時より皆慎重なんやな」
「今年は 参加者たち
全部 体験 って感じやないって思います」
別の農家の人が
稲穂を見ながら続ける
「自分の暮らし として見てる人 多い気がする」
その言葉に
参加者の誰かが顔を上げる
「そうなんです
村の一部になってみたいって思って」
菫は その場面を静かに見守っていた
稲刈りの後
稲の束を囲んで秋祭りの準備が始まる
屋台の飾り 提灯 太鼓の位置
地元の人と 一緒に手を動かす
女将さんが微笑みながら
菫の横にやって来た
「今年も賑やかになりそうやな」
菫は笑って答える
「はい 稲刈りだけじゃなくて
祭りの空気も体験してもらえるなんて…」
女将さんは小さく笑った
「村の祭りは 来る だけやなくて
関わる やからな」
夜になると
祭りは本格的に始まった
太鼓の響き
子供たちの笑い声
屋台の焼きそば いちご大福
カスタードプリン 小松菜ケーキ
夜空を見上げれば
小さな花火がぽつりぽつりと上がる
「すごい
村のお祭りって 初めてみた!」
遠くから来た移住希望者の一人が言う
葵とさくらも
笑顔で屋台を手伝っていた
「ねえ葵
このまま村に住めるかな?」
さくらが 声をひそめて言う
「うーん 分からんけど…
なんか こう
ここにいてもええ って気がする」
葵は少し照れたように
笑いながら空を見上げた
提灯を丁寧に畳んでいた菫さんと女将さん
作業の合間に ふとした会話が生まれる
「今年は 祭りも大変やったけど
こうして片付けまで無事に来れるのは嬉しいな」
女将さんが
コップに残った冷たいお茶を少し飲みながら言う
「そうですね
でも やっぱり祭りの後って
なんだか心が満たされます」
菫は秋の風に揺れる枯れ葉を見ながら答えた
その時
「菫さんー!」
さくらが駆け寄って来る
顔には 直ぐ分かるくらいの笑顔があふれていた
「どうしたん?」
菫が少し驚いて振り返る
「えっと その」
さくらは一瞬照れたように笑い
手に持っていた封筒を差し出した
「これ…」
女将さんも興味深そうに覗き込む
菫が封筒を受け取ると その表情が少し変わる
「これ もしかして?」
さくらは大きく頷いた
「あのね 試験 合格しました」
その言葉に
一瞬周りが静かになる
そして
「おおお!」
女将さんが笑顔で言った
「そら ええ知らせや!
さくらちゃん おめでとう!」
菫も にっこりと笑顔になる
「本当に良かったね 頑張ってたもんね!」
さくらは
手に汗握るような笑いをしながら
嬉しさを胸の中いっぱいにしていた
「ありがとうございます
ずっと不安やったんですけど
ちゃんと出来たみたいで!」
菫は 封筒を軽く抱えながら
さくらは見つけた
「ええ知らせを
片付けの途中に聞けるなんて
最高の秋祭りやな」
女将さんが笑いながら言う
「ほんま それ!」
さくらも笑顔で答えた
その瞬間
片付けの作業の手が
一瞬止まったように感じた
最後に
村の神社の境内でみんなが集まる
神楽が静かに舞を見せ
私は
遠くからその空気を見ていた
道の駅も
こんな風に村の一部になれるかな
そんなことを思いながら
菫は隣に立ち
静かに言う
「祭りの後も ずっと続くんですよね」
私は少し笑って頷いた
「うん
祭りみたいに
ここにも 帰れる場所 がひとつ増えると思う」
秋祭りの最後の光が
ゆっくり夜空に溶けていった




