0033内示
静かな夕方だった
もう仕事の時間は終わってるはずなのに
私は役場の席を立てずにいた
デスクの向こうには パソコンの画面
開いてるのは 補助金申請の確認メール画面
「…まだか」
誰にも聞かない言葉が
静かに部屋にこだまする
昨日も 一昨日も
何度も同じ問いを自分に投げかけていた
スマホの着信履歴は
今日も内示関係の番号だけが残っている
まだ来ないか
手元の時計を見る
夕刻の空は 山際で赤く沈もうとしている
「もうすぐ 来るはずなんやけどな」
私は
そう言って笑うように息を吐いた
庁舎内の隣室で
菫はまだ資料を整理している
クラウドファンティングの案を練った資料
パソコンの上の最終案は
まだ「下書き」のままだった
外では
風が柔らかく吹いている
ただそれだけで
少しだけ心臓が重くなる
来ないな…
私はそのまま外を見た
夕陽は 思ったより赤く美しかった
でも
その時間だけが
私の胸の緊張を消してはくれなかった
菫はメモ帳を開いていた
クラウドファンティング実施案
休憩所サポートコース
直売品お試しコース
ホタル配信参加権
見守り支援プレート
何度も書いては消し
消しては書いた
ふと
隣室から山中さんが出てきた
「どうや?そちらわ」
「内示は…まだですか?」
菫は返した
山中の肩には夕陽の光が落ちる
「…じゃあ だめだったのですね」
菫は少し息を吐く
「準備だけでも始めた方がええと思います」
「クラウドファンティング 部分的にやるって事か?」
「はい
使わない金額も含めて 計画書の一部にします」
山中は静かに頷いた
「来なくても 止まらんように やってみる!」
「ええと思います」
二人の間に
微かな前向きな空気が流れた
その瞬間
スマホのメール受信音が鳴る
山中の画面に
知らない番号からの通知
「…補助金内示です」
私は少し呆然としている間に
スクロールしていく文字
令和〇年度
地域振興施設整備補助金(○○村事業)
補助金額:満額支給が決定しました
私は 思わず目を大きくする
「菫 来たで」
菫は画面を覗き込む
二人とも 言葉がなかった
ただ
夕方の空が静かに移ろっていくだけだった




