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ふるさと振興課(仮)  作者: 堺大和
18/20

0018雪の頃

十二月に入ると 村の朝は一段と遅くなって

山の影が長く残り 日が差すまで時間がかかる

その日 雪は音もなく降り始めた

粒は細かく 舞うというより

そっと置かれていくようだった

役場の窓から 菫は外を眺める

「今年 早いですね」

「ですね」

私はストーブのスイッチを入れながら答えた

「積もるほどじゃないですか」

「それでいいです」

誰に言うでもなく 菫はそう言った


昼前 村内放送が入る

雪への注意喚起と いつもの事務連絡

そして最後に一つだけ 少し間を置いて続いた

「住民投票の日程について お知らせします」

事務的な声が 淡々と読み上げる

「道の駅誘致に関する住民投票は

来年一月三日に実施します」

役場の中が ほんの少しだけ静かになった

「成人式の日 ですね」

菫が言う

「はい」

私は頷いた

「この辺りでは 毎年この日ですから」

都会に出た若者たちが 年末年始に帰ってくる

久し振りに顔が揃う日

村に残る人と 外に出た人が 同じ場所に立つ日

「逃げない日程ですね」

「はい」

私は 書類を揃えながら答えた

「一番 人が戻る日です」

午後 雪は止み 空が少しだけ明るくなる

道に積もって雪は 昼過ぎには消えていった


移動スーパーの軽トラックが いつも通りやって来る

荷台の横に 白い息が立つ

「投票 でるか?」

そんな声が 買い物の合間に交わされる

「正月やしな」

「帰ってくる孫に聞いてみるわ」

村は 騒がしくはならない

ただ 少しだけ 空気が変わった


夕方 菫は掲示板に一枚の紙を貼った

大きな文字で 日付だけが書かれている


一月三日 住民投票


その下には 何も書かれていない


理由も 結論も

すべてはこれからだ


帰り道 雪解けの水が靴音に感じる

菫は 白くなった山を見上げた


この冬の終わりに

村は一つ 決める

静かな雪の日は

その予告のように ただ振っていただけだった


冬休みに入ると 村の気配が戻ってきた

年末のバスから降りてくるのは

久し振りの顔ばかりだ

葵とさくらも その一人だった

大きな荷物を抱え 吐く息を白くしながら歩く

「やっぱり 寒さが違うな」

「でも この感じ 嫌いじゃない」

二人はそう言って 笑った


役場では 年内最後の仕事が静かに進んでいた

成人式の名簿確認

住民投票の投票所設営計画

配布物の部数チェック

「これで 全部ですね」

菫が言う

「はい」

私は机の上の書類を揃えた

「成人式も 投票も

年明け一気に来ますから」

慌ただしさはない

やるべきことは もう終えている


午後 仕事納めの挨拶が簡単に行われた

拍手も短く 形式ばらない

「良いお年を」

その言葉が 少し重く聞こえた


大晦日の夜

村の神社には ぽつりぽつりと人が集まり始める

焚き火の音

甘酒の湯気

遠くでなる鐘の準備の音

「久しぶりやな」

「ああ帰ってきたで」

都会に出た若者も 村に残った人も

この夜だけは同じ場所に立つ


葵とさくらは 並んで境内に立っていた

見上げると星が澄んでいる

「今年は 色々あったな」

「うん」

「来年は もっと色々あるな」

それ以上は言わない

少し離れたところで 菫と私は並んでいた

「静かですね」

菫は言う

「はい」

私は焚火の揺れを見る

「でも 逃げない静かさです」

やがて 鐘が鳴る

一つ また一つ


村は 音の中で年を越していく


願い事をする人もいれば

ただたっている人もいる


新しい年が始まる

その年には

この村が 自分たちで下す答えが待っている

雪は降っていなかった

冷たい空気だけが 静かに満ちていた

それで充分だった

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