表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふるさと振興課(仮)  作者: 堺大和
16/18

0016紅葉の頃

村は 紅葉の季節を迎えていた

山の斜面が 緑から赤や黄色へ ゆっくりと色を変えていく


週末になると 車が少しづつ増える

春の桜ほどではないが

「知っている人だけが来る」静かな賑わいだ

キャンプ場の一角に 臨時の直販所が設けられた

木の台に並ぶのは 地元で採れたみかん

大小さまざまだが どれも皮が張っている

「今年の出来は 悪くない」

農家の一人が言う

菫は値札を並べながら頷いた


「甘いですよ って言っていいですか?」

「ええ 嘘にはならん」

観光客が立ち止まる

「この辺で採れたんですか?」

「はい

朝にもってきてもらいました」

試食は出さない

説明も多くない

それでも みかんは一袋ずつ 静かに減っていく


ベンチには紅葉を見に来た人たちが腰を下ろす

地図を広げる人

温泉の場所を聞く人

「派手なことは 何もないですね」

通りがかりに 誰かが言った

「そうですね」

菫は 少し笑って答える

「その代わり 長く居る人は多いです」


午後 私は様子を見に行った

売上表ではなく

人の動きを眺めている

「秋はちょうどいいですね」

「はい」

「来過ぎない

でも 来なさすぎない」

私は みかん箱を一つ持ち上げて戻した

「このぐらいが

この村の背丈かもしれません」


夕方 山の影が伸びる

紅葉は昼よりも深い色になる


直販所を片付けながら 菫は思う

この景色も

この静けさも

売り物ではない


ただ ここにあるだけだ

観光客の車が ゆっくりと村を離れていく

夜が来る前に

村はまた いつもの顔に戻っていった


紅葉が終わり 山の色が一段落した頃

集会所の畳の部屋に 丸椅子がゆっくり並べられた

参加者は ほとんどが高齢者だった

顔見知り同士が多く 声は小さいが 視線は厳しい

「本日はありがとうございます」

菫が まず頭を下げる

マイクは使わない 前の方まで 声が届く距離だ

「今日は 道の駅をやるかどうか を決める場ではありません

何が変わるか 変わらないか をお話しする場です」


最初に出された資料はA4一枚

文字は大きく 色も少ない

「ここに出来るのは にぎわい施設ではありません」

私は続ける

「駐車場とトイレ 休憩所

それに村の情報を伝える場所です」

「店は?」

前の列から 直ぐに声が出る

「小さいです

今の直販所より 少し整う程度です」

「夜は?」

「夜は基本的に閉めます」

誰かがほっと息を吐いた

「車が増えるんちゃうか?」

「増えます」

私は否定しなかった

「ただし 

増える時間と 増える場所は決めます」

地図を広げ 指をなぞる

「この道だけ この時間帯だけ」

菫が補足する

「静かな時間を 全部無くすことはしません」

「失敗したら どうする」

少し低い声が 後ろからでた

「やめます」

私ははっきり言った

「条件を決めて

それを守れなければ 続けません」

ざわつきは起きなかった

むしろ 静かになった

「昔な」

一人の男性がゆっくり話し始める

「スーパーが出来た時もこんな説明会やった…

直ぐに撤退したな 同じことになるんじゃないか」

誰かが頷く

「なくなった時も 誰も止められなかった

今 週に二回来てくれてる移動スーパーは

その時の系列会社の車や

関係は継続してくれてるが」

菫は その言葉を受け止めてから言った

「だから今回は

決め方を 先に決めました」

住民投票条例の説明を 短く添える

「年齢ではなく

この村で生きる人の意見を集めます」

説明会は 一時間ほどで終わった 拍手は無い


帰り際 何人かが立ち止まる

「全部分かったとは言わんけど」

「話は聞けた」

それだけで十分だった

外に出ると空気は冷えている

夕暮の村は いつも通り静かだ

菫は 小さく息を吐いた

「伝わりましたかね」

「はい」

私は答える

「分からないまま

反対されるよりは」

二人は集会所の灯りを消した

村はゆっくりと冬へ向かっていた


若者向けの説明会は平日の夕方に開かれた

場所は 旧小学校跡地の一室

仕事終わりの人 学校帰りの高校生

数は多くないが年齢の幅は広い


椅子は円に近い形で並べられていた

前と後ろを分けない配置だ


「今日は

賛成か反対か を聞く場ではありません」

菫が最初に切り出した

「判断する為の材料を

ちゃんと共有したいと思ってます」


スクリーンに写されたのは 写真が数枚

春 夏 秋の臨時の直販所の様子を写したもの

そして 立ち止まった人の数字

「まず これが 今 です」

私は続ける

「道の駅になると

出来ることが増える半面

出来なくなることもあります」

直ぐに手が上がった

「仕事増えますよね?」

率直な質問だった

「増えます」

私は即答する

「だから 誰がやるか を決めない限り

進めません」

「雇用は?」

「常勤は少人数です

多くは パートや委託になります」

「じゃあ

若い人が戻ってくる理由になるんですか?」

一瞬 間が空く

菫が答えた

「理由の一つには なりえます

でも 万能ではありません」

「正直ですね」

「正直でないと あとで困るので」

別の高校生が 遠慮がちに言う

「投票できるって 本当ですか?」

「はい」

菫は頷く

「高校生も対象です」

会場が少しざわつく

「じゃあ 私らの一票で決まるかもしれない?」

「そうです」

今度は私が言葉を足す

「だから わからないまま投票してほしくない」

質問が続く

「失敗したら どうする?」

「やめます」

「本当に?」

「条件を決めて 守れなければやめます」

その言葉に 空気が少し変わった

期待より 現実を測る目に変わる


最後に菫が言った

「この村で生きる時間は

人によって長さは違います」

「でも

決める瞬間だけは 同じです」


説明会は拍手もなく終わった

代りに 残って話す人がいた

「もう一回 資料を見せてください」

「親にも説明したい」

外は すっかり暗くなっていた

私は 片付けながら言った

「今日の方が 厳しかったですね」

「はい」

菫は頷く

「でも 前を向いてました」

夜の校舎に 若い声が少しだけ残ってた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ