0013故郷
会議が終わった後 旧小学校の跡地の外はすっかり暗くなっていた
虫の声だけが校庭だった場所に広がっている
菫が片づけを手伝っていると
後ろの方にいた二人が近づいてきた
「姉ちゃん」
振り返ると葵と 友達の…さくらちゃん
制服ではなく 私服少しだけ大人びて見える
「わざわざ 帰って来たんやね」
「うん 少し様子見たくて 週末だしね」
二人は県庁近くの女子高の寮に入っている
「ちょっと待っててね もうすぐ終わるから」
二人とも 会議中は一言も発さなかったが
目はよく動いていた
校舎を出て 少し歩く
街灯の下で 葵が口を開いた
「ねえ 姉ちゃん」
「なに」
「道の駅の話…本気なん?」
菫は直ぐには答えなかった
「本気かどうかで言えば
考えないといけない って感じかな」
「ふーん」
葵は納得したような してないような顔だ
「今日の会議さ」
今度はさくらちゃんが言った
「大人の人は みんな言ってる事は正しいんやけど
誰も やる側 の話 あんまりしてなかった」
菫は少し驚いて さくらちゃんの顔を見る
「どういう意味?」
「食品衛生とか 誰が管理するかとか
道の駅になったら 絶対そこ出てくるやん」
葵も続ける
「看護的にもさ
人が集まるなら 救護とか 熱中症とか」
二人はもう 子供 の視点ではなかった
菫は息を吐く
「そこまで今日の会議では出てなかったね」
「そやろ?」
葵は少しだけ得意そうに笑った
「だからさ
姉ちゃんたちが決めるなら
ちゃんと考えてるって信じたい」
その言い方に菫の胸が少し締め付けられる
「決めるのは村だよ」
「でも姉ちゃんは 中におるやん」
葵はまっすぐに見た
「村の人としても 役場の人としても」
一瞬言葉が出ない
さくらが少し照れたように言う
「今日は後ろで見てて思ったんです
この村 ちゃんと悩んでいるなって」
「うん」
葵もうなずく
「だから 直ぐに答え出さんでもええと思う」
菫は二人を見て ようやく笑った
「ありがとう 正直 ちょっと救われた」
「なにそれ」
葵は笑う
「姉ちゃんが悩む側とは思ってなかった」
「悩むよ」
菫は夜空を見ながら言った
「でも 悩める場所におれるのは
悪くないって思ってる」
校舎の灯りが背中で消えた
夜の村は静かで足音だけが道に残る
途中 さくらちゃんとは分かれた
葵は 菫の横を歩く
久し振りに並ぶその距離が少しだけ懐かしいかった
家の灯りが見えてくるまで
二人は多くを話さなかった
でも 同じ会議をみて 同じ夜道を歩いたことだけは
確かに二人のなかに残っていた
日曜日
県庁近くの女子高
学生寮の部屋に戻ると もう消灯前だった
二段ベットの下段に葵は腰を下ろす
さくらは机の椅子を引く
「金曜日は一寸疲れたな」
葵は言いながら カーディガンを脱ぐ
「会議 静かやったけど」
さくらは かばんを足元に置いて答える
「頭めっちゃ使ったわ」
暫く 空調の音だけが流れる
「道の駅の話さ」
葵が先に切り出した
「正直 どう思った?」
さくらは 少し考えてから言った
「夢みたいな話じゃないと思った」
「うん」
「ちゃんと 大人が 怖がっている 感じがした」
葵は少し笑う
「分かる
反対の人も 別に意地悪じゃなかったし」
「むしろ 守ろうとしている」
さくらは机に肘をつく
「食品衛生的にはさ
やるなら 中途半端は無理やと思う」
「うん?」
「表示 温度管理 誰が責任持つか
直販所レベルなら曖昧でも
道の駅って名前ついた瞬間 逃げ場無くなる」
葵は黙って聞いてる
「でも」
さくらは続けた
「今の村 そういうの出来る人 育てるチャンスでもある」
「それ 姉ちゃん聞いたら喜びそう」
「喜ぶ前に 悩むやろうな」
二人は小さく笑った
葵が天井を見上げる
「看護的にはさ 人が集まるなら
何かあった時どうするかを
最初から考えなあかんと思った」
「うん」
「救護場所とか 連絡先とか
それがあるだけで
来る人も 働く人も安心できる」
さくらは静かに頷く
「会議はさ」
「うん」
「大人だけで決めないのが 良かった」
葵は少しだけ声を落とす
「私ら まだ投票出来へんけど
あの会議を 見ていた って事は大事」
消灯の予告チャイムが鳴る
「この村 どうなるんやろうな」
葵が言う
さくらは 少し間を置いて答えた
「分からん でも
何も考えてない村よりは ええと思う」
部屋の灯りが落ちる
二人はそれ以上話さなかった
けれど同じ天井を見ながら
同じ村の未来を考えていた




