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ふるさと振興課(仮)  作者: 堺大和
12/20

0012秋の夜風

金曜日の夜

旧小学校跡地の建物には 久しぶりに灯りが入っていた

教室だった場所に並べられた折りたたみ椅子

壁には当時のまま残る掲示板の跡

集まったのは 村の大人たちだった

道の駅誘致に賛成の人

反対の人

何方でもない人

そして 後ろの方に 数人の高校生の姿があった

「本日は お忙しい中ありがとうございます」

私は 立って頭を下げる

声は大きくないが よく通る

「今日は 結論を出す場ではありません

どう決めるか を確認する為の会です」


最初に簡易直売所と休憩所の実施結果が共有される

数字は控えめだ

良い点も 課題も そのまま出す

「人が増えるのは ええことや」

賛成派の男性は言う


「若い人も来る

村に金も落ちる」

直ぐに反対派が続く

「せやけど 静かさは戻らん

車も増える 夜も騒がしくなる」

声は荒げない

だが どちらも本音だ

「キャンプ場と一緒にやるなら 管理は誰がする?」

「人出は?」

「失敗したら どうする?」

質問が重なり 空気が少し張る

そのとき  後ろの方から 遠慮がちな声が上がった

「いいですか」

高校生だった

「自分らここで育ったんですけど」

一瞬 視線が集まる

「正直 今は 出るしかないって思ってます

でも 戻ってくる場所が 何も変わってなかったら

それも 寂しいです」

静まり返る室内

「道の駅が正しいかは分からないです

でも 何もしない って決めるのも

ちゃんと考えた結果であってほしいです」

誰も 直ぐには言葉を継がなかった


私は少し間を置いてから 口を開く

「この村には住民投票条例があります」

ゆっくりと確認するように 

「義務教育を終え 社会人として働ける方に

投票資格があります

村の将来を左右する重要な事案について

出来る限り多くの人の意見を取り入れる為の制度です」

資料を閉じる

「道の駅誘致を 

やるか やらないか 何処までやるか

それを 最終的には 

この制度で決めたいと考えています」

ざわつきは起きない

むしろ空気が落ち着いた

「話し合って

それでも意見が割れたら

決め方を村に委ねる」

誰かが小さく頷いた

「それならええ」

反対派の一人が言う

「決まったら 文句はいわん」

賛成派も続く

「納得できる形や」

会は それ以上荒れる事はなく終わった

外に出ると 夜風が涼しい

校庭だった場所に 虫の声が広がった

菫がぽつりと言った

「決めない って決断じゃなかったですね」

「はい」

私は答える

「決める方法を 先に決めただけです」

旧小学校跡地の灯りが消える

だが村の中では 何かが確かに動き始めていた


旧小学校跡地を出ると 夜はもうすっかり涼しくなっていた

街灯は等間隔にあるが 道の先は暗い 虫の声だけがやけに大きい

「なんかさ」

最初に口を開いたのは 最後列を歩いていた男子だった

「思ってた会議と 違った」

「分かる」

自転車を押しながら歩いていた女子が答える

「もっと大人が怒鳴り合うかと思っていた」

「それな テレビのやつみたいに」

前を歩いていたもう一人が 振り返らずに言う

「でも ちゃんと聞かれたやろ」

少し間が開く

「うん…聞かれた」

女子は自分でも意外そうな声で言った

「若い人はどう思う ってさ

あれ 形式だけやと思っていた」

「オレも」

男子は夜道を見ながら言う

「適当に はいはい って流されるやつ」

砂利を踏む音が続く

「でもさ」

別の男子がぽつりと続ける

「結局 決まらんかったやん」

「住民投票やろ」

「それってさ…」

言葉を探して 少し黙る

「逃げ ちゃうん?」

女子が足を止めた

「逃げかな」

「だって大人が決める場やったんやろ?」

「でも」

女子は首をかしげる

「今日は あたしたちもおったやん」

誰も直ぐに答えない

「決めるのを 皆に戻したいって感じやった」

前の男子がゆっくり言った

「逃げるんやったら 最初から聞かんと思う」

「それは そうかも」

男子は小さく笑う

「オレ 初めてやわ」

「何が?」

「この村のことで 意見言ったの」

自転車のスタンドを上げる音がして また歩き出す

「卒業したら出るん?」

誰かが聞いた

「分からん」

「分からんよな」

「でもさ」

女子が少しだけ声を強める

「今日の会議 無かったことにはならんと思う」

「うん」

「少なくとも あたしたちは聞いた」

夜道の向こう 家の灯りが一つ見える

「この村 住めるかどうかはわからんけど」

男子が言った

「決める場におった ってのは…ちょっと覚えとくかも」

「それなんかわかる」

「なあ」

「ん?」

「大人になっても 今日の事は覚えてたらさ」

少し照れたように続ける

「戻ってくる理由にはなるんかな」

誰も答えない

でも 否定もしなかった

夜風が 田んぼの匂いを運んできた

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