0010夏の終わり
夏の終わり
村営キャンプ場の一角に 簡易な直販所と休憩所が設けられた
元は小学校の倉庫だった建物を 最低限だけ整えたものだった
木の机
ベンチ
日よけの簡単な屋根
並ぶのは 朝にとれた野菜と 手作りの加工品
苺のジャム 名水わらび餅 三笠漬け
シャインマスカットは量を絞り 値札も控えめだ
「道の駅って名前は まだ使いません」
開設前の打ち合わせで 私はそう言った
「まずはここで人が立ち止まるかを見たいです」
菫は頷いた
売れるかどうかより 使われ方を見る
それが今回の目的だった
午前中 キャンプ場を利用していた家族連れが
ふらりと立ち寄る
「トイレ ここで使えますか?」
「はい、どうぞ」
「この辺 ちょっと座れるところがあって助かる」
菫はメモ帳に 何も言わず書き留めた
買わない人の言葉も ここでは大切だ
昼過ぎ サイクリングの途中らしい二人組が水を飲みに来る
「地図ありますか?」
「簡単なものなら」
私は即席で用意した周辺案内を差し出した
滝 古道 温泉
派手な説明はない
「意外といろいろあるんですね」
その一言に 菫は小さく息を吸った
夕方売り上げは決して多くなかった
だが ベンチは一日中 誰かが座っていた
「今日はどうでしたか?」
菫は聞く
「数字だけなら厳しいですね」
私は正直に答えた
「でも 通り過ぎなかった人 は思ったより多い」
休憩所に残る 飲み終えたペットボトル
折りたたまれた地図
誰ヵが忘れていった帽子
「道の駅って 売る場所でなく
村に入る前に 息をつく場所 かもしれませんね」
菫が言うと 私は少しだけ笑った
「だったら まだ可能性はあります」
夜 直売所の灯りを落とす
キャンプ場には虫の声だけが残る
大きな看板も 立派な駐車場もない
それでもこの場所は 確かに 使われた のだ
二人はそれを今日の成果として受け止めていたのだ




