第8話 ケモ耳モフキュンライフ!②
――夜の城下町、めっちゃ賑やか!
露店からスパイスの効いたシチューの香り、馬車のガタゴト音、冒険者の笑い声。
結構見慣れたけどテンプレ異世界、最高!
アルヴィンは先に宿屋へ、バルクは酒場でもう一回飲み直すために一旦別れる。
ニャルと二人並んで歩くけど、彼女の首輪が微妙に目立ってる。
町民がチラ見してくる。
うーん、ニャルの奴隷っぽさが問題か?
よし、俺の優しさでカバーだ。
奴隷じゃないことを周りにアピールしなきゃな。
「ニャル、なんか食べる? 俺、何でも奢るから遠慮しないで」
「……ほんと? タケル、優しい……!」
露店の魚串を見るニャル。
猫耳ピクピクさせて目をキラキラ。
「ニャル、魚、好き……!」
「よっしゃ、任せとけ!」
魚串二本ゲットして、町の広場で夜景見ながらモグモグ。
ニャル、魚食いながら尻尾ゆらゆら。
「おいしい、ね。ニャル、幸せ」
ぐはっ、マジ天使! デート感ハンパない!
俺、ふと、気になって聞いてみる。
「そういやさ、俺が……ニャルを奴隷市場で買ったって話、詳しく聞かせてくれない? バルクの酒のせいで記憶が曖昧でさ……」
ニャル、魚串を止めて、ちょっと恥ずかしそうに目を伏せる。
「……うん。タケルが来る前、ニャル、檻の中……暗くて、怖くて……誰も助けてくれないって思ってた」
――マジか。
想像しただけで胸が痛ぇ。
「そしたら……タケルが、檻の前で立って……」
ニャル、両手で大きく広げて真似する。
猫耳ピクッ。
「『こんなモフキュンな子を奴隷にするなんて、帝国許さねえ!』って叫んで……お金、全部出して、ニャルを買ってくれたの」
――おお、覚醒前の俺、グッジョブ!
で、でもちょっとバカっぽいぞ!
モフキュンって何だよ! 俺の口から出たのか!?
ニャル、頬を赤くして続ける。
「タケル、ニャルのこと『大事にする』って……約束してくれた。だから、ニャル……タケル、信じてる」
……くそ、覚えてねえけど、最高の約束じゃねえか。
「教えてくれてありがとな、ニャル。……俺、約束、守るから」
ニャル、満面の笑みで頷く。
「うん! ニャル、幸せ……!」
――魚串にカプつくニャルの猫耳、ふわっふわで触ってみたい……。
でも、いきなりはさすがに失礼だよな。
「な、ニャル、耳って……そ、その、触ってもいい……かな?」
ニャル、顔真っ赤にしてモジモジ。
「……え、う、うん……タケルなら、いい、よ」
マ、マジ!?
やった、許可キター!
俺、そっとニャルの猫耳モフモフ。
ふわっ――
極上!
ニャル、くすぐったそうに小さく笑う。
「えへへ、くすぐったいよ……」
――俺は死んだ。
くっ、はぁ、はぁ……あぶねぇ……!
キュン死寸前、何とか踏みとどまったぜ……!
これがモフキュン!
俺、ニャルのこと絶対大事にする!
――その瞬間、背後でガチャガチャと物騒な音。
黒い甲冑の騎士団が広場にドカドカ登場。
リーダーっぽい怪しげな魔術師が、杖をニャルに突きつけて叫ぶ。
「そこの者! その奴隷――ルナティアの娘を『赤き月』の生贄として帝国に差し出せ!」
なんだ!? 帝国の闇の騎士団!?
ベタベタの敵キター!
バルクとアルヴィンが駆けつける。
「タケル、ヤツらだ! ニャルを狙ってる!」
アルヴィン、杖構えて援護魔法展開。
「帝国魔術師『ヴェルザドール』……! タケル、ニャルを守りなさい! 奴の暗黒魔法は厄介だぞ!」
ニャルの首輪が赤く光り始め、苦しそうに膝をつく。
「うう……!」
「おい魔術師、てめえ! ニャルに何してんだぁッ!?」
俺、ブチ切れて剣振り上げ、シルバーフレイム全開!
「シルバーフレイム・バーニングストーム!」
銀の炎が騎士団にドカーン!
数人吹っ飛ばす!
騎士団の甲冑がバキバキ割れ、中からギョロッとした化け物の顔がのぞく!
なんだこの不気味なヤツら!?
アルヴィンが鋭い目で叫ぶ。
「暗黒魔法の傀儡だ! 人間じゃない、気をつけろ!」
「マジか、キモッ!」
「銀色の炎……まさかあの古代魔法が? まさかな……だが目障りだ」
魔術師が呟くとニャルに手を向け、首輪の光がさらに強くなる。
ニャル、涙目でつぶやく。
「タケル……首輪が……命、吸ってる……!」
「ニャル!!」
くそ! 首輪がニャルを殺す!?
すぐ外さなきゃヤバい!
でも、アルヴィンの忠告が頭に響く!
『それを外すと、呪いが外した者に移って体が崩壊する』
――おい! どうすりゃいい!?
バルクがハンマーで傀儡騎士をぶっ飛ばしながら叫ぶ。
「タケル! 妙なこと考えるなよ! 外すと……お前が……!」
ニャル、声を震わせ涙を流す。
「タケル……いいよ、もう。ニャル、こうなる運命……。でも、タケルに優しくしてもらって……幸せだった……ありがと……」
「ニャル……! ダメだ!」
くそっ……
前回、ミオから「仲間の忠告を守れ」って言われてる。
アルヴィンやバルクの忠告が正しいのはわかってる……!
このままニャルを見殺しにすれば、俺は助かるかも知れない……!
これが「正しい選択」……?
――あ、そうか!
これ、アレじゃね?
序盤ヒロインの犠牲イベント的なやつ!
そうだよ、よくあるじゃん、そういう展開!
んで、この悲しみ乗り越えて、旅を続けて、いろんな仲間やヒロインと出会って、そしたらその先に――
夢のハーレム王国!!
――ぽろっ。
脳裏に、ニャルの笑顔が落ちてきた。
『おいしい、ね。ニャル、幸せ』
――魚串を両手で大事そうに持って、満面の笑みで言ったあの顔。
『えへへ、くすぐったいよ……』
――耳をモフらせてくれた時、恥ずかしそうに目を細めて笑ったあの顔。
『タケル、優しいね……かなうなら、嬉しい……』
――俺が「自由にする」って言った時、眠そうな瞳で、でも確かに信じてくれたあの顔……。
純粋で、あどけなくて、少し臆病な、あの天使みたいな笑顔。
全部、消えちゃうのか?
あの呪いの首輪のせいで?
俺の「正しい選択」のせいで?
え、マジ?
は?
はあッ!?
ッざっけんなあああああ!
バカか、俺は!?
本当のバカなのか!?
キモい現実逃避してんじゃねえ!
見殺し!?
そんなの主人公のすることじゃねえ!
そうだろ!? レオン=アークブレイド!
俺はニャルに約束したんだ!
――ニャルのことを守りたい!
――絶対に助けたい!
――自由にしたい!
――幸せにしたい!
この想いを無視したまま生き残ったとしても、もう「ありのまま」の俺じゃ生きてけねえ!
呪い? 知るか!
そんなもんは――
俺の“主人公補正”で弾き返す!!
「諦めるなニャル! 俺を信じろ! こんなふざけた首輪、今すぐぶっ壊して自由にしてやるッ!」
「タケル! よしなさい!」
俺、アルヴィンの制止を無視し、シルバーフレイムを剣先に集中。
「シルバーフレイム・カースブレイカー!」
剣から銀の炎がほとばしり、ニャルの首輪を直撃!
ガキィィン!
首輪が砕け散る!
――瞬間、黒い霧が俺の体に流れ込む。
「うっ、ヤバい、なんか体が……重い……!」
視界がグラグラ、肌が黒い塵みたいに崩れ始める。
呪い、ガチでキてる……!
ぜ、全然弾き返せてねえ!
バルクが筋肉魔法全開で敵5体をまとめて粉砕しながら吠える。
「うらぁぁあッ! 畜生、お前ら、全員残らずぶっ潰す!」
ニャル、泣きながら俺に駆け寄る。
「タケル……! やだ、なんで……!」
俺、ニヤッと笑って親指立てる。
「へへ、ニャル……自由になれたろ? ハーレ……いや、幸せになれよ……!」
アルヴィンが杖を握りしめながら目を伏せる。
「すまないタケル……。私がもっと早く首輪の呪いの解除方法を見つけ出しておけば……」
――すると、その時。
ニャルの首輪の欠片が地面に落ち、キラキラと月の光を反射する。
彼女の金色の瞳が、突然、力強く輝き出す。
「タケル……!」
ニャルの声が響き、彼女の周りに淡い青白い光が渦を巻く。
地面に複雑な魔法陣が浮かび上がり、青く眩い光がバルクとアルヴィンを包み込む。
バルクがハンマーを握りしめ、驚いた顔でニャルを見る。
「ニャル! お前、その力……!」
アルヴィンの鋭い目が一瞬驚きに変わり、杖を構え直す。
「これは……ルナティアの転移魔法!?」
魔法陣が一気に輝きを増し、まるで星空が地面に降りたみたいに眩しい。
ニャルの小さな手が俺の方に伸びる。
でも、俺の体はもうほとんど塵になって、指先しか残ってねえ……。
「掴んで……! タケルも、一緒に……!」
ニャルの涙声と光が、俺の意識を飲み込む。
魔法陣の光がニャル、バルク、アルヴィンを完全に包み、フッと消える。
――俺は死んだ。
視界が暗転。
体が塵になって消える感覚……
初めてなのに、どこかで味わった気がする……。
くそ……ここで終わりかよ……!
俺、モフキュンデートしてただけなのに……。
――白い空間。
ミオ、腕組みで待ってる。
いつもの呆れ顔……
かと思ったら、目がちょっと赤い?
「5回目の死。呪いで塵って……新しいわね」
「うおお、ミオ! ニャル、めっちゃ可愛かったのに! 普通に呪われた! 主人公補正で跳ね返せなかった!」
ミオ、目を逸らす。
「……そうね。仲間の忠告は聞けてなかったけど、ニャルを助けるために命懸けたの……すごい、勇敢だったわね……」
おお、また褒められた!
パシャッ――
その時、俺の胸の奥で小さな水滴が落ちて、壺の底でポシャンと音を立てた。
やった! また一滴、水が溜まった!
しかも今回は確かな感覚!
ソムナン君、俺、なんか分かってきたよ!
次は壺が溢れるくらい水溜めてやるからな!
でも、ミオの声、ちょっと震えてる?
「なあ、ミオ……泣いてる?」
ミオ、バッと顔そむけて誤魔化す。
「ち、違う! 転生空間のホコリが……!」
なんだホコリか。じゃあ仕方がない。
「そうだ、ミオ。ニャル……あの後無事だったのかな? 知らないの?」
ミオ、肩すくめる。
「私が知ってるのは、キミが死ぬまで。ニャルがどうなったかは……私にも分からないの」
「そっか……ニャル……」
――まあ、ニャルにはあの頼もしい二人がついてるから大丈夫だよな……?
もしまた会えたら、今度はゆっくり魚串デート再開しような。
俺は白い空間の床に座り込んで、ぼんやり呟いた。
「なあミオ。ニャルのこと追ってた魔術師、ヴェルなんとかってヤツ……あいつ何? マジでムカつく。次会ったら、シルバーフレイムで顔面ドカンだ!」
俺、拳を握りしめて立ち上がる。
……と、ミオの様子がおかしい。
腕組みしたまま、視線を俺から逸らしてる。
「ヴェルザドール……」
唇をギュッと噛んで、肩が小刻みに震えてる。
睫毛がピクピク動いてる……
まるで、怒りと悲しみを堪えてるみたいだ。
「……ミオ?」
なんか、ヤバい空気。
この表情、見たことない。
俺、ビビりながら尋ねる。
「ミ、ミオさん……? どうしたの? なんか知ってんの?」
ミオ、バッと顔を上げた。
目が一瞬、鋭く光って……
すぐにいつもの呆れ顔に無理やり戻す。
「……べ、別に! ただの帝国魔術師でしょ? キミには関係ないんだから、忘れなさい!」
声が裏返ってる。
慌てて背を向けて、髪をいじりながら誤魔化す。
「……ほ、ほら! 残り5回よ! 次の世界、行くわよ! 死なないでよね、ほんとに……!」
ミオの背中が、ほんの少し震えてる。
俺、何か言おうとしたけど……言葉が喉に詰まった。
今日のミオ……なんか変だ。
俺は光に包まれ、次の世界へ――




