第6話 スタイリッシュ勇者、見参!②
焚き火の残り火がポツポツと音を立てる。
三人分の足音が遠ざかって、森は急に静かになった。
俺は薪を一本くべて、ぼんやり炎を見つめる。
……温泉か。
混浴の夢は儚く散ったけど、それでもこの世界は最高だ。
レイチェル、ミリー、エルフィナ――
みんなが俺を「タケル」って呼んで、笑って、頼ってくれる。
フリーター時代の俺じゃ絶対味わえない絆。
これを失うわけにはいかない。
――だからこそ、好感度爆上げのチャンスは逃せない。
レイチェルから近くに城下町があるって聞いた。
みんなが風呂入ってる間に補給品を買い込んで、「俺が全部済ませといたぜ!」ってドヤ顔で出迎えたら、三人の目がさらにキラキラするに決まってる。
……でも、忠告は守らなきゃ。
『一人で行動しないでくださいね。危ないですから』
エルフィナの声が頭に響く。
『顔、目立つから気をつけてね? 誤解されやすいから……』
ミリーの耳打ちも。
……確かに、俺の顔は「目立つ」らしい。
たぶんイケメンすぎてトラブルになるパターン。
なら、フードを深く被って、無駄に話さず、買い物だけ30分ぐらいでサクッと済ませて戻れば問題ないはずだ。
よし、計画完璧!
俺はマントを頭からすっぽり被り、デカ剣を背負い直す。
しかし相変わらず……この武器、デカいしイカついな。
武器屋でスタイリッシュなのがあれば買い直すか。
森の小道を抜け、月明かりの下を歩く。
城下町の灯りが遠くに見えてきた。
――よし、イケメンステルスモード・発動!
町の入り口で衛兵が二人、松明を持って立ってる。
俺はフードをさらに深く引き、地面を見ながらスッと通り抜ける。
……セーフ。
声かけられなかった。完璧だ。
露店街は夜でも賑やかだ。
肉や魚の焼ける匂い、酒場の陽気な歌声、鍛冶屋の金槌の音。
もうワクワクが止まらねえ!
でも……なんか視線感じる。
町民がチラチラ見て、ヒソヒソ話。
何だ?
溢れ出るイケメンオーラ、隠しきれてないのか?
「そこの背が高いお兄さん! リンゴ、安くしとくよ!」
露店のオバさんに声かけられる。
背が高い、って俺?
でもリンゴか……ミリーが喜びそうだな。
店に近づき、リンゴを一つ手に取る。
その時、頭上のテントにフードが引っかかりハラリ。
おっと、ヤバいヤバい。
スタイリッシュ勇者のイケメンフェイスがバレちまう。
俺、焦って苦笑いするとオバサンが悲鳴。
「ひぃっ、モンスター!?」
「え、モンスター!? こんな町中に!? ど、どこ!?」
後ろを振り返り、デカ剣を握ってキョロキョロ。
すると町民が逃げ惑い、子供が泣き出す。
え、なに!?
「敵襲だ!」
「衛兵! 衛兵呼べ!」
気づいたら衛兵がゾロゾロ。
「魔王軍のオークめ! 矢で仕留めろ!」
「オーク!? え、俺!? 」
――待て、違う! 俺はただのイケメンだ!
説明しようと口を開いた瞬間――
ドシュッ――!
矢が胸に刺さる。
「……うっ、痛っ!」
でも、まだ立てる!
筋肉が分厚くて助かった!
これくらいなら――
「華麗に回避だ!」
俺はデカ剣を振り回し、ステルスモード解除!
次に来る矢をスタイリッシュに全部かわしてやる!
ドシュ! ドシュ! ドシュ!
ドシュドシュドシュドシュ!
――全弾命中。
胸、腹、腕、太もも、さらにはケツにまで。
衛兵さんたち、弓、上手だね……マジ感心……。
「ぐへ……」
デカ剣がガクンと地面に落ちる。
視界がぐるんぐるん回る。
意識が薄れる中、デカ剣に映った俺の顔……。
――は!?
なんだこれ!?
緑の肌、でかい鼻、牙!
めっちゃオークじゃん! めっちゃブス!
ってことは俺、今回ずっとこの顔だった!?
やば!!
遠くからレイチェルの声。
「タケル! 嘘だろ!? 一人で行動するなって言ったのに……!」
ミリーの泣き声。
「うう、なんで……タケルのバカ……だから言ったじゃん……」
エルフィナ、必死に祈る。
「ああ……そんな、回復が間に合いません! 私たちと一緒だったら……」
ま、まさか、みんな……
俺がオーク顔だから今まで付き添って誤解防いでくれてた感じ!?
マジで良い子たちすぎる!
三人の涙で心も痛え!
――俺は死んだ。
矢でハニカム状態。
意識が遠のく中で、最後に見たのはピクピクしながら光に包まれ消えていく俺の姿。
俺を囲んで絶句する三人の姿。
そして、地面に転がるリンゴが一つ。
切ねえっ!
おい!
「転生=イケメン」のテンプレどこいった!?
俺、せっかくこの世界大事にするって決めたのに、またやっちまったのかよ!!
――白い空間。
ミオ、腕組みで待ってる。呆れ顔MAX。ジト目ってかほぼ目閉じてる。
「タケル、4回目の死。矢で蜂の巣って……」
「ねえミオ氏!? 俺、オーク顔だったぞ! 転生なら普通、イケメンでしょ!」
「容姿もランダムだから仕方ないわ」
ミオが指を軽く振る。
「ちなみに今もそうよ。ここでは直前の世界の姿がそのまま反映されるの」
「へ?」
宙にキラッと光る鏡パネルが出現。
そこに映る俺――
緑がかった皮膚とゴツいガタイ。
下顎からニョキッと飛び出す牙。
豚鼻に、奥に窪んだ超小さい目。
完全なるオーク!
「……ぐはっ! 改めて見てもやべえ!」
――中学二年の夏。
学校の鏡見て「あ、俺って全然イケメンじゃないんだな」って絶望した記憶がフラッシュバックする。
俺、あの頃から前髪伸ばしはじめたんだよな……。
当時のショックが蘇って、思わず肩ガックリ。
ミオがクスッと笑い、肩をすくめる。
「……でも、情報収集はよく頑張ったわね。シルバーフレイムもキマってたじゃない」
「キマってねえ! せっかくいい感じだったのに顔で台無し! 三人が爆笑してた意味、いま分かったぞ!」
「イケメンじゃなくても、かっこいい人なんていくらでもいるわよ。キミの行動が浅はかすぎただけ」
うぐっ、ミオの正論が刺さる!
確かに、みんなの忠告無視って一人突っ走った俺が悪いが……
わかってても悔しい!
「つか、なんでいきなり戦闘中スタート!? 俺、記憶ゼロなのに仲間扱いされてたし! 説明してよ!」
ミオ、無言で空中にスクリーンをパチンと出現させる。
映し出されたのは、オーク顔の俺がデカ剣を肩に担いだレオン風ドヤポーズ。
え、ちょ、そこで停止するの!?
「いい? この世界の転生は『遅延自覚型』。今回『オーク族のタケル』として生まれ変わったけど、転生者として自覚するタイミングもランダムなのよ」
「遅延自覚型? なんじゃそりゃ?」
ミオ、銀髪をサラリとかき上げて説明開始。
「新しい体が形成されて最大30日以内に意識が目覚めるの。今回は20日目くらいでやっと自覚したみたいね」
「20日!? じゃあその間、俺何してたの!?」
「キミは彼女たちと出会ってパーティで活躍してた。だからミリーが『いつもみたいに』って言ったの。最初は警戒されてたけど、仲間としての絆で乗り越えたみたいね」
――マジ?
自分で築いたハーレムパーティ、自分でぶっ壊したってか!?
「だったら自覚しないほうが良くない!? 普通に『オークタケル』としてハーレム楽しめてたんじゃないの!?」
「それはルール上無理。意識は遅かれ早かれ目覚めるもの」
「ルール謎すぎ! 誰得だよ、その設定! 最初から『俺、転生者!』でスタートさせてよ!」
「それは仕様だからどうしようもない。覚醒するまでは『前世の魂を映した仮の体のキミ』が動いてるけど、覚醒しなきゃ消滅するだけ」
うぬぬ……俺のアバターのほうが優秀っぽいのが複雑……。
俺の前世ってそんな有能だったか?
「でも、せめてその間の記憶ぐらいは残しといてよ!」
「少しは残ってたでしょ? 目覚めたとき、彼女たちに自己紹介はされた?」
「まあ……顔見ただけで名前は浮かんだけど……状況分かんないから余計混乱するわ! もっと残して!」
「仕方ないの、そういう――」
「はいはい、仕様ね! でも顔は出来たらイケメンで頼む!」
でも学習はしたぞ。
壺に水も入ったはずだ。
次は忠告無視せず、仲間と一緒に行動すればいいんだろ!
ミオ、ちょびっと微笑む。
「顔は……祈るしかないわね。でも、オーク顔でも頑張ってたキミは、ちょっとかっこよかったわ……」
お、ミオ、またデレ!?
「かっこよかった」って、マジ惚れ!?
「残り6回……死なないでね。……次こそは」
光に包まれ、次の異世界へ。
次はしっかり仲間の忠告守って、イケメンハーレムだ!




