第3話 炎魔法でヒロインゲット!①
俺が目を開けると、そこはどデカい王城の謁見の間。
玉座に座るその男は――
まさに“覇者の化身”だった。
漆黒の重厚な甲冑は、まるで闇そのものを打ち出したかのように光を呑み込む。
額から左頬を裂く雷のような凄まじい傷跡。
血走った業火の瞳、逆立つ黒鋼の髪。
2メートル近い巨躯は筋肉の塊で、風格というより“暴力の結晶”そのもの。
肩当てには鋭利な突起が無数に生え、黒マントが風無くたなびき、死の気配が漂う。
背後に掲げられた戦斧は、ただそこにあるだけで空気が歪むほどの威圧感。
常に「力こそすべて」とか「強さこそ正義」とか言ってそうな、圧倒的“終わり”を感じさせる存在感。
セレンディア国王――ゼラ=バルドリオン。
……マジでヤバい。
この人、冗談抜きで“拳”で王国治めてそう。
「――うぬよ。名は?」
地底を震わせる低音。
心臓が止まりそうだった。
でも言葉が通じるからちょっとラッキー?
「は、はい! 竹仲タケルです! 精一杯頑張るので、よろしくお願いします!」
ビビって自然に敬語になってしまう。
でも、それでいい。
この王様、絶対“タメ口即斬首”だ。
「うむ」
ゼラ王、威厳のうなずき。
「タケルよ、うぬには洞窟の調査任務を命じる。パートナーは王宮に仕える水魔法の使い手――セリィナだ」
横から美少女登場――!
一つ結びの青い髪。
澄んだ空のような水色の瞳。
風に揺れるローブがまるで星空のヴェール。
首元に小さな三日月のペンダントが光る。
単行本一巻の表紙を飾るヒロイン第一候補。
清楚系魔法使いのテンプレど真ん中!
「セリィナ・ミラノスです。よろしくね、タケル」
ニッコリ微笑む。
――キュン……!
ぐおっ、激可愛い!
い、今のキュン音、聞かれてなかったか!?
この子と二人きりでクエストとか今回の俺、激アツ!
ゼラ王が続ける。
「今回の任務、失敗は許されん。セレンディアの平和は、わが命と共にある」
ヒッ! “失敗=斬首”の予感!
「りょ、了解ですっ!」
俺、声裏返りながら敬語全開。
そんで、ゼラ王が何かつぶやくと、俺の手に炎がチロチロ。
うおお、炎系能力キター! 主人公=炎!
「わぁ、すごい! 炎魔法、かっこいいよ!」
セリィナもキラキラ目。
よし、今回は慎重に功績上げて、セリィナのハート、ガッチリ掴もう!
――俺とセリィナは森の小道を突き進む。
青い髪が風に揺れキラキラ、華奢な指で握る杖が魔法の輝きを放つ。
その姿、まぶしすぎる!
ハーレム第一候補から最終巻の表紙を飾るメインヒロインに格上げ!
「あ、あの、セリィナ……さんッ」
「タケル、『セリィナ』でいいよ。年も近そうだし」
――ん?
セリィナって見た感じ17とかだよな?
「年も近そう」って、俺も10代くらいに若返ってるか?
まさか年齢もランダム?
おお、よっしゃ!
それなら学生時代に味わえなかったキラキラの青春、取り戻せる大チャンスじゃん!
クラスメイトみたいに一緒に笑ったり、ちょっとドキドキしたり……
そんな普通の毎日が、異世界で待ってるなんて最高すぎる!
「えっと、じゃ、セ、セリ……ッ――」
あれ?
声が上手く出せない。
舌がもつれる。
喉に何か引っかかってるみたいだ。
はっ! そうか……!
1回目の世界ではレオン、2回目はチャラ先輩に成り切ってたから、なんとか話しかけられたんだ!
でも今回はゼラ王の迫力に圧倒されて、自分のキャラ設定考える余裕がなかった……。
いつもの「詫びタケ」状態……。
手のひらに汗が滲む。
一瞬立ち止まった。
――俺なんかが……こんな可愛い子と一体どんな風に話せばいいんだ?
――素の自分で女の子の名前呼ぶのって、こんなに重いことなのか?
――こんなんで、ハーレムなんて作れるのか?
いや、それ以前に、ただの友達すら作れねえんじゃねえか?
俺ってやっぱり……異世界来てもダメなままなのか……。
目の前のセリィナの笑顔が、遠く感じる。
――ミオの言葉が頭をよぎる。
『本当のキミはもっと自然に人と話せるはずでしょ?』
『無理して変に大きく見せなくても、キミなら仲間くらい作れるわよ』
――ありのまま、か。
いや……でも、ありのままの俺って、何?
ただの冴えないヤツじゃん。
傷つくことにビビって、いつも一歩引いてただけじゃん。
――「お調子者」と言われてた中一頃の自分を思い出す。
あの頃は……わざと変なことしたり、ふざけたこと言ったり、誰かを笑わせるの、好きだったなぁ……。
「カッコつけなきゃ」とか「モテなきゃ」とか、そんなこと考えたこともなかった。
好きな漫画の話して、テストの点数でバカにし合って、放課後一緒に帰って……。
ただ「この人と話したいな」って思っただけで、自然に口が動いてた。
……そうだよな。
レオンみたいに尊大じゃなくてもいい。
先輩みたいにチャラくなくてもいい。
そんなのは全部、自分が傷つきたくないだけの偽りの殻なんだ。
本当は――
ただ、目の前の人とちゃんと話したい。
それだけでいいんだ。
青春を取り戻すって、こういう一歩からだろ?
ビビりながらでも、進むしかない。
俺は小さく息を吐いて、肩の力を抜いた。
……よし。
カッコつけなくていい。
ただ、素直に。
――彼女の名前を、ちゃんと呼ぶ。
それが、俺の青春の始まりだ。
「じゃあ、セリィナ――」
言えた。自然に。
最後の「ナ」がちょっぴり掠れた。
でも、言えた。
セリィナは嬉しそうに笑顔を向けてくれる。
めっちゃ可愛い。
声が少し震えたけど、ちゃんと届いたんだ。
俺、頬が熱くなるのを感じながら、でも無理に隠さず、素直に口を開いた。
「セリィナってさ……なんで王宮にいるの? あんな怖い王様の下で働くの、大変じゃない?」
「え? ううん、全然! お城は魔法の研究施設がすごく整ってるし、最新の魔導書も自由に読めるんだよ」
セリィナ、ちょっと困ったように微笑んで、小声で続けた。
「まあ……顔がちょっぴり怖いのは、否定できない……かな? ふふっ、今の内緒ね?」
「ははっ、絶対内緒! てか『ちょっぴり』ってレベルじゃないでしょ!」
「でも慣れると案外平気だよ! ……たぶん」
「いや、無理! 慣れる気しね〜!」
二人でクスクス笑い合う。
「私、本当の夢はね、いつか自分の魔法学校を作ることなんだ。子供たちに魔法の使い方を教えて、夢を広げる手助けがしたいなって」
「お、いいねそれ。絶対人気の先生になるね。どんな魔法教えるの? ドカーン系?」
「あはは。もう、ドカーンじゃないよー。風や水で楽しむ小さな魔法。でもタケルの炎魔法ってかっこいいよね。私の水魔法と相性いいかも」
――相性いい?
ちょ、ちょっと惚れてる!?
「ふふん、俺の炎で敵を蹴散らし最強タッグでハー……王国の平和を守る!」
俺、木の枝拾ってブン!
片手に炎をチロッと灯し、アニメで見た剣技ポーズ!
お調子者時代の俺復活!
……ってやりすぎか!?
中1どころか小2じゃん!
セリィナ、クスッと笑う。
「タケルって……なんか、かわいいね」
――キュキュン……!
セ、セーフ! てか好感度アップ!?
でも彼女、ちょっと眉下げ。
「“敵”っていうけど、この森、ずっと平和だよ? 私たちの任務は“調査”だから、ね?」
平和? 森=モンスターは異世界の基本でしょ!
これ絶対モンスター襲撃フラグ!
「セリィナ、絶対どっかにやばいモンスターが潜んでるって!」
――ここは大人である俺がセリィナをしっかりリードして守らないと。
「もう、タケルったら。でも……変なことしないでね? 王様、失敗嫌いだし……」
変なこと?
モンスター燃やすのが主人公の役目でしょ?
「大丈夫、(ラノベで)事前情報と知識は予習済み! だから任せといて」
俺、ドヤ顔。たぶん最高にキマった。
「……だといいんだけど」
セリィナ、微妙に引きつつちょっと遠い目で微笑む。
「王様はね、昔の大戦で家族を失って、それ以来、戦争を繰り返さないって誓ってるの。研究施設も、魔法を平和のために使ってほしいって建てたものだし」
「え!? あの世紀末フェイスで平和主義者!?」
「世紀末フェイス? まぁ……でも、平和を乱すことにはすっごく厳しくて昔、裏切った貴族を……その……」
「な、なに!?」
セリィナ、首振って話を切る。
「とにかく! タケル、本当に変なことしないでね?」
「OK。無事任務終わらせて、デー……じゃなくて城へ帰ろう!」
「うん、信じてる」
セリィナ、優しくて純粋でめっちゃいい子! 順調な出だしだ。
王国の平和を乱す敵を焼き尽くす――!




