第30話 異世界スローライフ? 〜そして伝説へ〜
――月日が流れる。
俺とミオはルナティア族の聖地でスローライフ……
――のはずが、めっちゃ忙しい!
俺が湖で釣った川魚をシルバーフレイムで焼き上げる「銀炎焼き」がルナティア族たちに大好評!
もちろん毒味はバッチリだ。
カリムシャールの市場でバカ売れ。
噂が国外まで広がっちまった!
この前は、ミラノス魔法騎士団のセーラたちが買い出しに来てくれた!
「完璧な焼き加減ですね!」
エスターが分析モードでメガネを光らせる。
「これ、エッグマヨスめっちゃ合いそう!」
オリビアがはしゃぐ。
みんなの明るい笑顔を見ると安心するぜ。
そんな中――
「タケルも……ここにいて欲しかったな……」
セーラが魚串を眺めながら呟いてたのが、ちょっぴり切なかった。
「――2ホン、クダサイ」
野太い客の声がする。
うお!?
むさ苦しいドワーフの「グラド」!
それに……神話級超絶美少女エルフの「リリア」!?
「あ、ありがとう……ございます」
俺、恐る恐る魚串を差し出す。
「グラド、ムイ・サブローソ・パレーセ(とても美味しそうね)」
「パラ・ゾルン、タンビエン・コンプラモス(ゾルンにも買って帰ろう)」
二人ともラブラブ!
スパイ疑惑のトラウマあるけど、仲睦まじく寄り添う二人の姿、なんかホッコリするな。
ミオも微笑ましそうに笑ってる。
でも、今日のメイン客はマジでビッグだ!
――ゴオオオオッ!
空から雷鳴のような翼の音が響く。
俺とミオは思わずその場に膝をついて深く頭を下げた。
巨大な赤いドラゴンが聖地の市場にドーンと着陸!
その背には――
漆黒の仮面に金の刺繍ローブ、
赤いマントの魔王「ゼルドラス」!
仮面を外すと、オレンジ髪に真っ赤な瞳。
穏やかなイケメン顔がニッコリ。
めっちゃ親しみやすそうなオーラ!
「ふむ、この香ばしい匂い……噂の『銀炎焼き』か。タケル、ミオ、また会えて嬉しいぞ。先の戦い、見事であった。顔を上げてくれ」
ゼルドラスは赤ドラゴンの背からヒラリと降り、ドシッと地面を踏みしめる。
赤ドラゴンが「グオオ」と穏やかに唸る。
「ゼルドラス様だ! カッコイイ!」
市場の子供たちが目を輝かせる。
「ゼ、ゼルドラス様、お待ちしてました! 援軍マジ助かりました! お、俺、なんか前に肩ポンしちゃってたみたいなんすけど、怒ってたりします……?」
ゼルドラス、ククッと笑う。
「気にするな。我らは『仲間』であろう? 我輩が起こしてしまった四百年前の混乱に比べれば些細なこと。……さて、早速だが宴用に100本、準備頼めるか?」
「100本!? りょ、了解っす!」
正直結構キツイ! でもやるしかねえ!
俺がシルバーフレイムを拳にチラつかせると赤ドラゴンがビクッと一歩下がる。
『グオッ……! 昔、森で少年に黒焦げにされた記憶が……』
うっ、あの時のドラゴンさんだったんすね!
俺、申し訳なさそうに頭ポリポリかいてペコリ。
「ふむ、タケルよ。期待しておるぞ!」
ゼルドラス、俺に肩ポンするとドラゴンに跨り空へ――
去った後、俺、ミオにボヤく。
「スローライフ……どこ……?」
「ふふ、頑張りなさい。……でも、手伝いたいっていう人たちもいるみたいよ」
ミオが振り返ると、涿楼村の元ゴロツキ五人――
カン・ウーサー、チョー・ヒート、チョ・ウンスト、コウ・チュウズ、バー・チョップスタが登場!
相変わらず名前は気持ち悪いけど、全員中年になってそれなりに貫禄が出てきてる!
中途半端に長い髭のウーサーが大量の食材を持ち上げてドヤ顔。
「勇者殿! 俺たちカリムシャール黄金騎兵団の『五兎将軍』が助太刀するぜ!」
五兎将軍!?
あ、ウーサーだから?
ネーミングしょうもな!
「勇者殿を見てると昔の『アニキ』を思い出す。恩返しできなかった分、俺たちにも手伝わせてくれ」
「いや、ガチで助かる! まさかお前たちに助けられるとは! サンキュー!」
ヒートたちも負けじと胸を張る。
「料理は俺の得意分野だ! 燃えるぜ!」
「さ、魚のわた取りは俺が! 任せてくれ!」
「若い勇者殿に負けとれませんの、フォフォフォ」
「ド派手に焼こうぜ! 勇者のアニキ!」
おお! 頼もしい援軍!
てか、チュウズ、22年で口調変わりすぎ!
お前、まだ40前後だろ!?
「若い炎がたぎるぜ」とか言ってただろ!
食材が次々と運ばれ、俺のシルバーフレイムがフル稼働!
正直……
フリーターのときより仕事してるじゃねえかよおおおおッ!
――別の日。
聖地の夕暮れ。
「よっしゃ! 完璧!」
俺は渾身の銀炎焼きを完成させた。
黄金色に輝く、今日の最高傑作。
ミオが静かに微笑む。
「これ、食べてもらいたい人いるのよね?」
「うん。……約束、だから」
俺は4本の魚串を手に、ミオに軽く手を振上げて歩き出す。
――聖地中央広場。
勇者ニャルの石像の前。
白い猫耳少女が、凛々しく剣を掲げている。
両脇には戦神バルクと大賢者アルヴィンの像。
「ニャル……遅くなっちまったな」
俺は膝をつき、3本の魚串をそっと供える。
ニャルの前、バルクの前、アルヴィンの前。
風が吹いた。
夕陽が石像の頬を優しく照らす。
俺は目を閉じる。
ループ転生、5回目の世界、ニャルたちとの旅の記憶を呼び起こす。
――思えばあの時、俺を初めて「主人公」にしてくれたのは、ニャルだったよな。
「三百年……待たせてごめんな。約束の魚串、みんなと食おうぜ」
俺はそっと石像に触れた。
その瞬間――
石像の剣に埋められた宝玉が淡く青白く輝く。
穏やかな光が、頭の中に優しく流れ込む。
『タケル……』
「え、ニャル……?」
それは宝玉に刻まれた記憶。
三百年前のニャルの声。
俺の頭の中に流れ込む。
――奴隷市場で震えていた小さな背中。
――荒野の戦場。
――「魚、好き……!」と目を輝かせた笑顔。
――首輪を外した瞬間、涙で俺を見つめた金色の瞳。
そして――
『ニャル、今、頑張ってるよ。世界中のルナティア族のみんなを自由にしてるよ――』
――戦場を駆けるニャル。
――鎖を断ち切るニャル。
――仲間と共に笑うニャル。
『辛いこともいっぱいだけど、アルヴィンさんやバルクさんが助けてくれてる。
でも、一番は――
タケルが言ってくれた「諦めるな」って言葉』
涙が頬を伝う。
『ニャル、もっとがんばるね。
みんなが自由に暮らせる世界、つくるね。
タケル、また会いたいな。
また一緒に魚食べたいな。
「ありがとう」って、ちゃんと伝えたいな』
宝玉の光が優しく収まる。
俺は自分の魚串を頬張りながら、嗚咽を漏らす。
「……こちらこそだよ、ニャル」
風が強くなる。
『おいしい――』
「!?」
――聞こえた。
宝玉の記憶を超えて、今、確かに。
『ありがとう、タケル――』
本物のニャルの声。
三百年の時を超えて、届いた。
「ニャル……」
俺は立ち上がって、空に向かって叫んだ。
「また持ってくるからな! 毎年、毎年、ずっと持ってくるからな!!」
振り返る。
夕陽に染まる市場から、ミオがこっちを見てる。
ルナティア族の子供たちが笑ってる。
街の人、エルフ、ドワーフ、オーク、みんなが笑顔で手を振ってる。
――これが俺の幸せ。
ミオや仲間たちと一緒に、
この笑顔を、未来に繋いでいくよ。
〜〜〜〜〜〜
――さらに90年の時が過ぎた。
月耀暦493年。
ルナティアの聖地の湖畔。
夜空に青白い月が輝く。
焚き火の柔らかな炎が揺れる。
「銀炎の勇者タケル」と「秘宝の巫女ミオ」――
そばに立つ二つの石像が、月光と火の光に映えて静かに佇む。
タケルの像は勇者の剣を掲げる。
ミオの像は宝玉を胸に抱く。
二人は並んでルナティアの歴史と未来を見守る。
ルナティア族の長老――99歳のメルは、白い髪を束ね、穏やかな微笑みを浮かべながら、焚き火を囲む子供たちに語りかける。
彼女の声は歳を重ねた深みを帯び、ルナティアの歴史を紡ぐように響く。
目の前には、7歳になるひ孫のノエル。
隣には幼馴染で8歳の少年アイン。
そのそばで、アインの6歳の妹マリアが金髪を揺らし元気いっぱいに身を乗り出す。
ノエルは瞳を輝かせて興味津々に尋ねる。
「ねえ、ひいおばあ様。勇者様ってどんな人だったの?」
メルは目を細める。
焚き火の向こうの二人の石像を見つめる。
「タケルは……少しおっちょこちょいだったけど、誰よりも仲間を大切にしたよ。ミオを心から愛し、ルナティアの月を輝かせた。みんなを笑顔にする、特別な勇者だった」
アインが胸を張り、正義感いっぱいに言う。
「俺もそんな勇者になりたい! ノエルやマリアを守るんだ!」
マリアが元気いっぱいに手を振る。
「お兄ちゃん、負けないよ! 私も勇者様やミオ様みたいに、みんなを笑顔にするんだから!」
メルは穏やかに続ける。
「タケルとミオの愛は、ルナティアの月を通じて私たちに繋がってる。
ノエル、アイン、マリア――
あなたたちが未来を輝かせるんだよ」
「はーい!」
月光が聖地の夜を優しく包み、子供たちの笑い声が響く。
【完】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
初連載で右も左もわからない状態から始めて、30話完結まで駆け抜けることができました。
すべては読んでくださった皆様のおかげです……!
本当にありがとうございました!




