第29話 月光の誓い
ヴェルザドールとの決戦から数日後。
ミオにヴェザルの過去について少し調べてもらった。
ヴェザル・ヴァレリウス――
生まれは紀元前36年。
王立魔導図書館の最年少司書長。
25歳で「星霜の秘儀」を解読し、エルドラント王国に「魔導繁栄の黄金期」をもたらした伝説の魔導学者。
若い頃は、当時既に闇魔法の大家として名高いブラックウッド家の当主――レオニダス・ブラックウッドのもとで学び、同門の筆頭格とまで言われたほどの天才。
この世界の魔法はルナティアの月のカケラがルナティア族の祈りで宝玉となって、他種族に魔力を供給するシステムだった。
ルナティア族だけが宝玉なしで『月魔法』を使える唯一の種族。
ヴェザルは禁書『月の記録』を解読し、その真実に辿り着いた。
「世界の歴史は宝玉に刻まれる。ルナティア族は生きた記録者。宝玉を全て集めれば、歴史を改竄できる――」
ヴェザルの目的は「自分の物語を永遠に残す」こと。
「死後も語り継がれる存在」になるため、世界をリセットし、「ヴェザルの物語」だけを残す儀式を計画。
そのために――
ルナティア族を生体実験し、宝玉の生成原理を解明。
「不要なページ」として焼き払い、「記録の改訂」を進めた。
カタリーナ姫?
「自分の物語のヒロイン」として欲しただけ。
拒まれた?
「物語の改訂」として世界滅亡を決意。
まあ要するに!
「究極の自分史オタク野郎」だったわけだ!
深掘りする価値もねえ。
でも……
『カタ……リーナ……』
アイツの最期の呟き。
姫への恋心は……ガチだったのかな……?
四百年経っても、「永遠の記録者」になるより、「姫に愛されたかった」ただの恋する若者だったのかもな……。
……いや、クズはクズだ!
潔く忘れるぜ。
その後――
アイツが乗っ取ってたザルド帝国は崩壊。
連合軍が占領されてた小国をバンバン解放して、残りの土地を連合国が分割統治するらしい。
魔宮に幽閉されてた前皇帝の皇子とか出てきて、平和構築中とか?
正直……うーん。
そういう大人の話はややこしいくてよく分からん!
セレンディアのアリオス国王から「ヴェルザドール討伐と暗黒竜召喚阻止の功績で領地やる!」って話も来たけど――
俺、竹仲タケル、25歳、
ガラじゃないからキッパリ断った!
知略12までは上がったけど、政治能力は5のまま。
ハーレム王国より、ミオとの愛の物語が俺のゴールだ!
ミオは月の女神の赦しによって転生空間から解放され、モフキュン尻尾ピョコピョコ、紺色の髪が風に揺れる500点の美少女に戻った。
案内人のお役目も終了!
俺と一緒に、ルナティア族の聖地でスローライフを選んだ。
――カリムシャール王国、緑豊かな森の奥。
40を超えて尚、美貌激増しのリン王女と黄金騎兵団団長ウビの案内で、俺とミオはルナティア族の聖地に到着。
メルがモフキュン耳をピクピクさせて、家族や長老ミャーラ、族長ミュラードと一緒にニコニコで出迎える。
ニャルの活躍で焼き討ちの歴史が変わり、ルナティア族の里がすっかり平和に復興していた!
メルが跳ねながら叫ぶ。
「タケル! ミオ! 来てくれて嬉しいよー!」
リンが優雅に微笑み、懐かしそうな目で俺を見る。
「タケル様……わたくし、22年前にウビの村で貴方とそっくりなお方に命を救っていただきました。同じ名とは不思議なご縁ですね」
ウビが勇者の剣を握り、ガチトーンでうなずく。
「剣を渡した時の反応、『ガキンチョ』と呼ばれた時、まるで旧友のようでした。タケル殿、どこかで繋がっているのでしょうな!」
俺、頭ポリポリかいて返す。
「ははは……なんか運命ってやつかな。俺たち、どっかでバッチリリンクしてるかも!」
――む、アレは?
聖地の中央にドーンと立つ、白い石像。
剣を掲げる勇者ニャル!
三百年前にルナティア族を迫害から解放した伝説の猫耳大英雄!
両脇には“戦神バルク”と“大賢者アルヴィン”の像がドシッと構える。
俺、石像を見上げて拳を握る。
ニャル、俺がいなくなった後、すげえ頑張ったんだな……。
ゴリさんもおっさんも……最後までニャルを守ってくれてありがとう!
二人とも、最高の漢だ!
メルがキラキラ目で指差す。
「タケル、これ見て!」
――ん?
隣に……
ドヤ顔で魚串持った剣士の像!?
「自分の命と引き換えにニャル様を首輪の呪いから解放した勇者様! 名前は『タケル』! すっごい偶然!」
シュールすぎる!
ニャル、俺のイメージ“魚串”!?
ミオがクスクス笑い、モフキュン尻尾を振る。
「ニャル、魚串を持つキミのこと、よっぽど好きだったのね」
俺、ニヤッと笑ってミオと目を合わせる。
――ニャル、英雄になっても、俺のこと覚えててくれて嬉しいぜ!
――その夜、ルナティアの青白い月が聖地を清らかに照らす。
俺とミオは聖地の湖畔で二人きり。
「暗黒竜はもうどの時代にもいない。ノエルたちの未来……めっちゃ変えちゃったけど、百年後の世界はあのディストピアより平和だといいな」
ミオは湖面の月を見つめ、優しく頷く。
「そうね。ルナティアの光がまた彼女たちを導いてくれるかも」
月光に照らされたミオの横顔をそっと見る。
――わずか18歳の少女が、
孤独で、震えてて、
それでも必死で世界を救おうとしてた。
俺と共にヴェルザドールに初めて挑んだあの夜――
ミオは血に染まり、魂を引き裂かれた。
その激痛の中で、俺を救うために転生案内人の役を願ってくれた。
誰よりも強い意志と深い愛で百年も俺を待っててくれた――
その魂の美しさに、俺の心は今、また奪われる。
俺、ミオの手をギュッと握り、ガチな目で言う。
「最初は異世界ハーレムも憧れたけど……やっぱ俺、ミオ一人でいい。いや、ミオがいい。ミオでなきゃダメなんだ」
ミオ、顔真っ赤で尻尾ピクピク。
「バカ……でも、ありがとう。私は今、胸を張って『幸せ』って言えるわ」
「ミオ、愛してる。これからも、ずっと一緒だ」
俺、ミオのおでこにそっとチュッ。
月の光がキラキラ、めっちゃロマンチック!
――が、ミオがふと俺の胸に顔を埋めたまま、震える声で呟く。
「……タケル。額じゃ……足りない」
俺、ドキッと息をのむ。
ミオがゆっくり顔を上げ、瑠璃色の瞳に涙と月光が揺れる。
「私……ずっと待ってたのよ? 初めて転生空間で出会ったときから、キミを抱きしめたかった。キスしたかった。でも、次元が違うって……ルールがって……」
ミオの指が俺の頬に触れ、震える息が重なる。
「タケル……」
ミオが目を閉じる。
俺、反射的にミオの腰を抱き寄せ、唇を重ねる。
――柔らかく、熱く、百年分の想いが溶け合うキス。
湖面の月が揺れ、ルナティアの月光が俺たちを包む。
ミオの尻尾が俺の腕に絡まり、その温もりに震える。
離れた瞬間、ミオが涙声で笑う。
「ふふ、百年分、返してもらったわ」
俺、ニヤッと笑って額をくっつける。
「まだまだ返済中だ。俺たち二人の愛の物語、永久に続くぜ」
ルナティア族の祈りの歌が、遠くで響く――
いよいよ次がラストです!
昼頃投下します。




