表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

第2話 冒険者ギルドで勇者(エスピラ)デビュー!

 ――光に包まれて、意識が次の異世界へ。


 目を開けると、そこは活気あふれる石畳の街だった。

 行き交う馬車、ガタイのいい冒険者たち。

 見上げた看板には謎文字と剣と盾の紋章――。


 たぶんギルドだ。


 ギルドで成り上がり、美女をはべらせてハーレムを作る――。

 これこそ転生者の「義務」であり、「福利厚生」だ。

 

 よし、一応確認。


「ステータスオープン!」


 叫んでみたものの、やっぱり出ない。

 

 いや、いいんだ。

 主人公にそんなものは不要。

 別に悔しくはない。

 それよりも叫ぶ姿を通行人にチラ見された方が今の俺にとってはキツかった。


 腰には……

 

(え、剣がない!? ガチャ外れた!?

 まあ……ギルドでレンタル、できるよね?)


 若干の不安を覚えつつも、俺は大きく深呼吸した。

 

 前回、レオンにあやかった「尊大キャラ」は大失敗に終わった。

 正直、前回の斬首は結構トラウマだ。


 ミオにも「タメ口が原因」と言われたし、今回は慎重に、かつスマートにいこう。


 静かに息を吐き出し、さっそくギルドホールに突撃した。


     *


 受付には、金髪ポニーテールの美少女・アンナがいた。

 

 そばかすの残る白い肌、フリルブラウスからのぞく健康的な美貌。

 メインヒロイン候補としてのポテンシャルは申し分ない。

 

(よし……低姿勢かつ、余裕のある男を演出だ)

 

「えっと、あの、おね、受付さん。ぼ、冒険者になりたいんで、登録お願いします!」


 彼女はキョトンとした顔で俺を見た。


「ティ、クウェ・ファラス・アクイ?」


「……え?」


(何、その言葉。日本語でも英語でもないぞ)

 

 だが、俺は焦らなかった。

 ギルドなんてノリでいけるものだ、たぶん。


「俺、タケナカ、タケル! 英雄、目指す……ギルド、イン……!」


(よし、頑張ったぞ、俺!)

 

 アンナが怪訝(けげん)そうに首を傾げる。


「タケル? ドン・ビエナス?(どこから来たの?)」


 さっぱり分からん。

 ソムナン君が留学したての時も、こんな気持ちだったんだろうか。

 

 ミオに「主人公の魅力は言葉を超える!」とイキった直後なのに、いきなり壁が高すぎる。


 でもここは冷静に。

 思考を巡らせろ、俺。


 何となくだが「ドウシマス?」と聞こえたような気がする。


 たしかギルドといえば「履歴書」的な登録用紙が必要だったはず。

 

(――そうか! つまり、どんな感じに書くのかを聞かれているんだ!)

 

 だが、せっかくならば高ランクパーティに引き抜いてもらいたい。

 とはいえ、万年フリーターの経歴ではサマにならない。


「……じゃ、“インパクト”重視で! 適度に盛っちゃってくださいっ!」


「“インペリオ”!?(帝国!?)」

 

 えっ、何か驚いてる?

 ここはユーモアで和ませるか?


 居酒屋でのバイト時代。

 チャラい先輩が、いつも違う女の子を連れて歩いてたのを思い出す。


 苦手な人ではあったけど、背に腹は代えられない。


 言葉が通じない時こそ、愛嬌と勢い。  

 今こそ、彼の力を借りる時だ。

 

(いざ……『チャラ男モード』憑依!)


 チャラッ――!

 

 俺はカウンターに肘をつき、渾身のキメ顔を作った。


「プ、プロフ用の写真持ってないんだけどさぁ。似顔絵でもいいかな? き、君が描いてよ、イケメンにね。なーんて! フヒヒッ」

 

 アンナが引き気味で目を細め、真顔になった。


「エストラニャ(変なやつ)……。

 オイガ、インヴェスティガ・ウン・ツェラ、ポルファ?(ねえ、ちょっと彼を調べて)」


(これはもしや……仲間を紹介してくれる流れ?

 よし、ミオの忠告通り慎重に……!)


 彼女が奥に目配せすると、ゾロゾロと冒険者が出てきた。


 むさ苦しいドワーフ、杖持った爺さん魔術師、そして――。

 

(うおおお! 金髪ロングの美少女エルフ!

 最強の王道ファンタジーパーティだ!)


 アンナが彼らに何かを説明した後、俺はテーブルに案内される。

 

 ◆パーティメンバーその1。

 ドワーフの「グラド」――髭モサモサ、暑苦しい。


 ◆パーティメンバーその2。

 魔術師の「ゾルン」――白髪ボサボサ、顔シワシワ。


 ◆パーティメンバーその3。

 エルフの「リリア」――その名はまるで星々の囁きが形を成したかのような響き。その瞳は深遠なエメラルドに銀河の星屑を溶かし込んだ宝石。長い金色の髪は陽光を捕らえては虹色の輝きを放つ。しなやかな長い脚には、透明な花の装飾が咲き乱れるブーツ。まるでこの世界の美を一身に集め、神々が嫉妬するほどの完璧さでそこに佇む。

 その美を一言で表すのならば、そう――。

 

【エルフちゃん、マジ最高っ!】

 

 彼女こそ、俺の冒険を彩る女神だ。


「俺、竹仲タケル! み、皆さん、一緒に冒険しましょう!」


「アンナ。クウェ・エス・ウン・ツェラ?

(この男は何だ?)」


 グラドが激太眉毛をひそめると、ゾルンが杖をコツコツしながら怪しげに見つめてくる。


「スビト・ビエナ・イ・ファラス・ムチョ。ムイ・ソスピカーダ

(突然現れてペラペラと。怪しいのお)」


「エス……セグーラ?(だ、大丈夫なの?)」


(リリアまで警戒してる!? やっぱ言葉通じないのキツい!)


 やはり慎重に行かねば。


(……でも、エルフちゃん可愛すぎる。

 くっ、ちょっとでもアピールしときたい!)


 意外に彼女のようなタイプに限って「チャラ男モード」が有効な可能性もある。


「リ、リリアさん、すごい綺麗っすね! お、俺と魔王倒しに……どうっすか?」


 俺は顔を引きつらせながら、渾身のウインクを炸裂させる。

 するとリリアはビクッとしてドワーフの背中に隠れた。


「グラド、プロテガメ(守って)……」


 グラドは彼女を抱き寄せバチくそにピキった。

 

(え!? まさか君たち、そういう関係!?)


「カブラー!(貴様ぁ!)

 クウェ・インテンタス・ファラル!?(何のつもりだぁ!?)」


「ちょ、ご、誤解っす! 俺、仲良くしたかっただけって!」


 ゾルンが杖を振り上げる。


「ウン・ツェラ、パーラス・ソスピカーダス!(こやつ、怪しい喋り方じゃ!)」


「エスピラ!?(スパイか!?)」

 

 グラドが床に斧をガチンと鳴らす。


(ヒッ! めっちゃ怖え!)

 

 ――でも、待て。

 俺はグラドが吠えた「重要なキーワード」を聞き逃さなかった。


『エスピラ』――おそらくこの世界の言葉で「勇者」とか「期待の新人」という意味だろう。

 

「そ、そう、エスピラ! 俺、エスピラっす! エスピラ、タケル!」


 ゾルンが目をカッと見開いて杖を振り上げる。


「ヤ・サビオ! エス・ウン・エスピラ!(やはりスパイじゃったか!)」


 その瞬間、ギルド内の空気が爆発した。


「エネミガ・デル・レルノ!?(王国の敵か!?)」


「カナリア・ブスカ・ラ・ジェマ!(宝玉を漁る不届者め!)」


「ロバル・ヌエストラ・マヒア!?(私たちから魔法を奪うつもり!?)」


「いやいや、みんな謎言語でしゃべりすぎ! 状況がつかめん!」


 気づけば怒号とともに衛兵がなだれ込んでくる。


「エスピラ! カプターレ!(スパイを捕えろぉぉぉ!)」


「待ってよ! 俺、仲間だって! ねえ、リリア、助けてよー!」


 リリアはグラドにしがみついたまま目を逸らす。


「ノ・メ・トカス(触らないで)……」


「ムエラ!(くたばれ!)

 エスピラ・デル・ザルド!(ザルド帝国のスパイめ!)」


 グラドが野太く吠え、衛兵の剣が振り下ろされる。


「おい、マジか! 言葉通じない世界とか反則!」


(――二連続斬首はマジで無理!)

 

 竹仲タケル、同じ過ちは繰り返さない。

 前世の俺とは違うのだ。


 俺は咄嗟に体をひねり、衛兵の剣をスレスレで回避。

 カウンターの隙をゴロリと転がり、ギルドホールの扉をブチ開けた。

 

 バーン!

 

 石畳の街へ飛び出し、ギルドの建物をチラッと振り返る。

 

「へへ、無事逃げき――」


 ヒヒィィィンッ!


 前を向いた瞬間――目の前に樽を満載した馬車が迫る。

 

「え、ちょ――!?」

 


 ドゴォォォン!


    *

 

 ――俺は死んだ。


(あの馬車! 街中で出すスピードじゃないだろ!)

 

 せっかく斬首を回避したのに、異世界でも交通事故死とは。

 不条理すぎて涙も出ない。


(ギルドで冒険者になる流れじゃなかったのか? 登録までたどり着けなかったぞ?)


 ――ふわっと体が浮く。


 目を開けると真っ白な転生空間。


 腕を組んでジト目を向けるミオが、そこにいた。


「タケル、前方不注意、事故死。キミ……学習しないの?」


「いや、なんで言葉通じないの!? 絶対俺のこと殺しにきてるよね!? エルフちゃん、ドワーフに取られたし!」


 ミオは深いため息をついた。

 

「……だから転生はランダム。私にも予見不可能なの」


「言葉もランダム!? なに、あの謎言語!」

 

「あの言葉は『エラディス語』。多種族が集まるモリスゴール王国の言語よ。

 キミは帝国の『スパイ』だと思われたみたいね」


「エラディス語!? 知らねえ!」


「キミ……関所の時から何も変わってないのね……」

 

「ん、関所? 何の話?」

 

 ミオは瞳を一瞬泳がせて、慌てたように首を振る。

 

「――っ! ごめんなさい。他の転生者の話だったわ」

 

「お、おう? まあいいや。

 てかなんで俺、スパイ扱い? 今回めっちゃ敬語、頑張ったのに!」


 すると彼女は指を鳴らし、空中スクリーン出現させた。

 

 俺のギルドでの受付シーンがリプレイされる。


 噛み噛みナンパ口調の俺が受付嬢にドン引きされるシーンがスロー再生。

 目を覆いたくなるような惨状に俺もドン引き。


「見て。カウンターに肘ついて謎言語ペラペラ喋って、エルフに絡んだ挙句に『スパイ』連呼。

 キミ、普通に怪しいから」

 

「まさかエスピラって……スパイ?」


「そうよ。それに……何なの? あの喋り方」


「えと……『チャラ男モード』のこと?」


「あれ、最悪。無理してるのがバレバレだし、ハッキリ言って気持ち悪い。言葉の壁以前の問題よ」


 ――グサァッ!

 

 彼女の容赦ない追撃が、事故のダメージより深く突き刺さる。


「ちょ、辛辣すぎ! 俺だってわからないなりに頑張ったんだからちょっとは褒めてよ!」


 俺の抗議に彼女は少し目を細めて一瞬黙った。


「……そうね。何事も挑戦することは悪いことじゃない」


(あれ? 論破しちゃった?)


「でもキミは、そういう軽薄な『主人公』に憧れてるの? 前回の尊大な口調とは随分違うように感じたけど」


「うぐっ……」


 確かに、チャラ先輩を見て「すげー!」と思ったことはあるが、それは決して理想像ではない。

 俺が本当に憧れるのは覇焔剣聖「レオン=アークブレイド」だ。

 けれど、それも失敗に終わってしまっている。

 

(どうすればいいんだよ、一体……)


 ミオは俺の沈黙を見て、静かに続ける。

 

「……本当のキミは、もっと自然に話せるはずでしょ?」


 ミオがふと声を和らげた。

 俺は思わずドキッとして目を逸らす。


「……中学までは、普通だったんだ……。けど、いつの間にか気まずくなって。アニメとかゲームの方が楽で……話しかけ方、忘れちゃったんだよ」


 ミオのジト目が少しだけ緩んだ。


「じゃあ今みたいに、素直に、ありのままに振る舞えばいいじゃない。

 無理して大きく見せなくても、キミなら仲間くらい作れるわよ。……多分ね」


「ありのまま……って言われても、言葉通じないんじゃどうしようもないよ……」


「それなら尚更、慎重にいくべきだったわね」


「くっ……昔、専門学校の先輩に海外旅行はノリと勢いって言われたことあるんだけど、異世界では通用しないのか……」


 彼女は腕組みのまま声を低く忠告モードで続けた。

 

「転生は旅行じゃなくて、人生そのもの。

 前回も今回も、変な欲を出さなきゃ死ぬことはなかった。

 もしかしたらキミのいうハーレムだって夢じゃ……それは無理か」

 

「む、無理って言うな! 絶対叶えてみせる! 俺のこと少しは信じてよ!」


(今回のミオ、めっちゃ言うじゃん!)


 でも学習はした。

 次は言葉を確認してから喋る。

 ソムナン君が言ってた「俺の壺」にどんどん水溜めてくぞ!


「ミオ、次こそ上手くやる! でも、できたら言葉通じる世界で頼む!」


「ランダムって言ってるでしょ。

 でも、死なないでね? 残り8回、無駄遣いしないで。ちょっと心配だわ」


「お、ミオ、優しい? OK、次は絶対ヘマしないから!」


 俺は照れ隠しにニヤリと笑い、再び光に包まれる。

 

 そうだ。ありのままだ。

 チャラ男モードは封印。

 次は言葉の通じる世界で、今度こそ「タケル」として冒険を始めてやる。

 

(……でもやっぱり、エルフちゃんは諦めきれねえ!)

 

 俺の煩悩は、光の中でも消えることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ