第23話 赤い月のディストピア⑥ 〜未来を取り戻せ!〜
ノエルたちと別れた俺は、猛ダッシュで拠点を飛び出す。
すると、ドスッとした声が背中に響く。
「タケル! こんな時間にどこへ行くんだ、待て!」
振り向くと、黒い眼帯のリーダー、クラッグが角刈り仁王立ち。
「げ! ク、クラッグさん! いや、ちょっとその、急用で!」
クラッグ、眉をピクッと動かし、ドス声で一喝。
「何だその軽いノリは! 決戦の前夜に、ふらっと出てく気か!? ノエルが泣くぞ! そばにいてやれ」
俺、頭ポリポリかいて誤魔化しつつ、目を真っ直ぐクラッグに合わせる。
ハーレムバカだった俺も、みんなの覚悟やミオの涙で少しは変わったんだ。
「……クラッグさん。俺、今から絶対にやらなきゃいけないことがあるんです! ノエルたちのこと、頼んます!」
クラッグは俺の目を見つめ、一瞬黙る。
戦士の眼光が、俺の覚悟をガッチリ見抜く。
そんなイカつい顔が、ふっと緩み、漢気たっぷりの低音で、優しく笑う。
「タケル……お前の軽い口調の裏に燃えるものを感じる。戦士の目だ。行け、仲間を信じてるなら……必ず生きて、戻れ。あいつらは俺が守る」
クラッグの心から湧く信頼感、めっちゃ熱い!
「クラッグさん、ありがとう!」
クラッグは隻眼でフッと頷き、剣の柄を握って見送る。
背中に感じる漢の気迫、マジで頼もしい!
俺は敬礼っぽく手を振って、夜の闇にダッシュで飛び出す!
暗黒竜の巣は、崩れた神殿の奥。
赤い月がギラギラ照らす中、クソデカ暗黒竜がゴゴゴッと動く。
毒気モクモク、ギラギラの赤い目が俺を貫く――ラスボス・オブ・ラスボス!
コレもう怪獣超えて災害そのもの!
「うおお……デカすぎ……!」
足のガクブルが止まらねえ。
体長30メートルはありそうな巨体。
六角形状にビッシリ張り巡らされた鱗が鋼鉄より硬そう。
空気がビリビリ震える咆哮だけで、近くの岩がバキバキ砕ける!
でも、ルナティア族の隠れ里の炎、ヴェルザドールとの戦い、ミオの涙と想い……全部頭をよぎる。
ミオが俺のために百年間も案内人やってたこと、胸が張り裂けそうになる。
「ミオは……俺のバカハーレム発言にずっと付き合ってくれてたよな……。待っててくれ、絶対救うから!」
ポケットから宝玉ネックレスを取り出す。
赤い月光でキラキラ輝いて、なんか熱い!
ルナティアの力がウズウズしてる!
「シルバーフレイム、フルパワー! ミオのために燃やし尽くす!」
剣を握り、銀の炎がドカーンと炸裂!
宝玉を剣に押し当てると、炎が青白く変化!
ルナティアの力が合体し、剣がビリビリ震える。
「なんかバフかかってる! これならいけるか!?」
暗黒竜が俺に気づき、「グオオオオ!」と咆哮。
毒のブレスがドロドロの黒い霧となって襲いかかる!
高温と毒で神殿の柱がジュウジュウ溶け、地面がグチャグチャに崩れる!
くそ、めっちゃ熱い!
肺が焼けるみたいだ!
俺、素早さ98をフル活用してブレスを回避!
剣を振り上げ、シルバーフレイムをぶっ放す!
「くらえ! シルバーフレイム・フルスラッシュ!」
青白い炎の斬撃が暗黒竜に直撃!
ドカーーーンッ!!
爆音が響き、衝撃波で神殿がガタガタ揺れる!
「……やったか!?」
――だが、煙が晴れると……
傷一つねえ!
「マジ!?」
くそ!
典型的な「やってない」フラグ立てちまった!
暗黒竜の鱗、まるで黒いダイヤモンド!
シルバーフレイムの「竜属性特攻+100%」が、まるで効かねえ!
シャドウドラゴンなんて比にならねえ!
剣術ランクSの俺の全力斬撃が、かすり傷すらつけられねえなんて!
暗黒竜がゴゴッと首を振る。
尾の一振りで神殿の壁がバキッと粉砕!
デカい爪が地面を裂き、毒の霧がさらにモクモク広がる。
俺、咳き込みながら後ずさる。
「こ、こいつ硬すぎだろ! どうすりゃ倒せるんだ!?」
ゼノスの言葉が頭をよぎる。
『反乱軍が敗れ、世界は闇に飲まれる――』
このままじゃ明日の決戦で……
ノエルやアイン、みんなやられちまう……!
――嫌だ!
そんなの嫌だ!
絶対、誰も死なせねえ!
「やっぱ外からじゃ無理か! アインの特攻作戦……やるしかない!」
暗黒竜の口がガバッと開く。
毒のブレスが再び吐き出される瞬間、俺は覚悟を決める。
「ノエル、アイン、クラッグさん……みんな、俺を信じてくれてた。ミオの百年の想い、ルナティアの光、絶対無駄にしねえ!」
――シルバーフレイム、全開!
青白い炎が宝玉の光と混ざり、剣がまるで太陽みたいに輝く!
「シルバーフレイム……」
俺は体ごと暗黒竜の口に飛び込む!
「ルナティアバーストッ!!」
毒の霧が肌を焼く。
喉が締まる。
視界がチカチカする。
マジで怖え!
マジで痛え!
何回も死んでるけど、自爆は初!
でも!
ミオの方が千億倍辛い思いしてきたんだ!
こんな一瞬の苦しみ、関係あるか!
「へへ……これで終わりだ、クソ竜! 俺がミオを、仲間を、世界を救う!」
体内で炎が炸裂!
ドカアアアアァァァンッ!
「グオオオオ……!」
暗黒竜の断末魔が響き、体内から黒い外殻がバキバキ砕ける!
神殿がガラガラ崩れ、毒の霧が吹き飛ぶ!
「ミオ、待ってろ……! ミオ……ミオォォォ……!!」
――視界が白く焼ける。
毒の霧が晴れ、神殿が崩れ落ちる音が遠く響く。
俺の体はもう、ほとんど光の粒子になっていた。
指先が、腕が、胸が、風に乗って舞い上がる。
でも、なぜか、ぼんやりと――
遠くに、大勢の人影が見えた。
瓦礫の山を越えて、必死に走ってくる。
「……タケルッ!!」
アインの絶叫が、風に乗って届く。
大剣を地面に突き立て、転びそうになりながら、でも止まらずに走る。
その横で、ノエルが両手で口を押さえ、涙をこぼしながら叫ぶ。
「タケル! どこ!? どこにいるのぉぉぉ!」
二人は、俺のいた場所に辿り着いた。
でも、そこにはもう誰もいない。
銀色の火の粉と光の粒子が、月光にきらめいて、静かに消えていくだけ。
ノエルの震える指の隙間から、掠れた声が漏れる。
「……アイン……あれって……」
アインは答えられない。
ただ、地面に突き立てた大剣を握りしめ、肩を震わせるだけだった。
風が火の粉を運んでいく。
銀色の光が、ノエルの頬を、涙とともに伝う。
「……シルバーフレイム……」
アインが、ようやく呟いた。
その声は、怒りでも悲しみでもなく、ただ――
「ふざけんなよ……」
次の瞬間、アインは大剣を地面に叩きつけた。
そして空に向かって、しゃがれた声で叫んだ。
「ふざけんじゃねえええええっ!! 約束しただろ、タケル! 生きて戻ってくるってよおおおおお!!」
涙が頬を伝い、地面にぽたぽたと落ちる。
男泣きって、こういうのを言うんだろうな。
ノエルは、ゆっくりと膝をついた。
両手で地面の火の粉を掻き集めようとするけど、指の間からこぼれ落ちていく。
「うそ……だよね……? タケル……『みんなで笑える未来作る』って言ってたのに……私、まだ……『ありがとう』って、ちゃんと言えてなかったのに――」
声が震えて、言葉が途切れる。
代わりに、静かな嗚咽だけが夜に溶けていく。
そして。
瓦礫の陰から、クラッグがゆっくりと現れる。
隻眼に涙を浮かべ、剣を地面に突き立てたまま、右手を額に当てる。
――敬礼。
その背後で、レジスタンスの全員が、同じ姿勢を取る。
数十人の戦士たちが、涙を流しながら、誰もいない空間に向かって敬礼。
世界が静寂に包まれた。
アインは、ノエルの隣に膝をつき、震える手で、そっと彼女の肩を抱いた。
――初めて、二人が肩を寄せ合った。
「……ノエル……俺たちで……タケルの分まで、生きなきゃならねえ」
「アイン……」
ノエルの小さな頷き。
二人は、銀色の火の粉が消えゆく空を見上げた。
俺は、薄れる意識の中で、確かに呟いた。
「……みんな、ごめん」
届かない声だった。
でも、胸の奥に残る宝玉の温もりだけは、確かに熱かった。
「――ありがとう、タケル……」
ノエルたちの声が微かに聞こえた気がした。
……今回も酷い別れ方だったな。
でも、暗黒竜は倒した。
これで「毒の病」も無くなるはず。
アイン、俺の代わりにノエルや妹のこと、しっかり守ってやってくれよ。
――俺の使命はこれでおしまい……?
いや、それは前世の、「ゼノス」から与えられた使命。
――キミの使命は新しい世界で『幸せ』を掴むこと――
そう、これが1回目のときにミオからの与えられた俺の使命だ。
そしてミオの願い。
だから――
まだ終わらせねえ――




