第22話 赤い月のディストピア⑤ 〜百年の約束を胸に〜
『――ル!』
『――タケル!』
「おい! タケル!」
「タケル! タケル! ねえ、しっかり」
うっ――
誰かが呼ぶ声……。
俺は静かに意識を取り戻す。
頭ズキズキ痛むけど、目を開けた瞬間――
小さなボロい木屋の中。
――生きてる!
まだ9回目の世界だ!
目の前にはノエルとアインが心配そうな顔で俺を見てる。
ノエルの儚げな瞳がキラッと光る中、アインがドヤ顔崩してガチトーンで吠える。
「おい! 明日決戦だってのに何やってんだよ! 大丈夫かよお前!?」
ノエルが俺の手を握って、目をうるうる輝かせて震える声で言う。
「タケル……いきなり白目むいて失神するから……本当に心配したよ……」
涙目のノエル、可愛すぎる……!
でも、頭の中にはミオの涙と百年前の記憶がガッツリ焼きついてる。
よし……
ここで決めるぜ。
「ノ、エル……!」
「どうしたの? タケル……?」
俺、ノエルの手をそっと離して、立ち上がる。
心臓バクバクだ。
一回深呼吸。
「ノエル……俺、実は好きな人がいるんだ」
「えっ……」
「……こんな時に、最低なこと言ってるの分かってる。でも、思い出しちゃったんだ! ホント、ごめん……!」
ノエル、ポカン。潤んだ瞳が揺れる。
アインも「は!?」って顔で固まる。
「お、お前……急に何だよ!? ノエル泣かすな、バカ!」
「悪い、ちょっと用事! すぐ戻る!」
俺は木屋を飛び出そうとした瞬間――
背中にノエルの声が響く。
「タケル! 待って――」
振り返ると、ノエルがローブをギュッと握り、琥珀色の瞳を潤ませて俺をガン見。
「タケル……どこに行くの……?」
その声、切なさがガツンとくる。
彼女の健気な瞳、胸にズキズキ刺さる……。
アインが一歩踏み出す。
「お前、なに企んでんだ? 説明しろよ!」
俺、再び深呼吸して拳をギュッと握る。
「二人とも……ごめん。でも、ちょっと聞いてくれ」
俺、ノエルの両手をそっと握り、目を真っ直ぐ見つめる。
「こんなバカな俺のこと……大事に思ってくれてありがとう。俺が『希望の勇者』なんて呼ばれてるのは、ノエルの勇気と優しさに支えられたからなんだと思う――」
ノエル、涙を浮かべて目を伏せる。
けど、唇をキュッと結んで、ちゃんと聞いてくれてる。
「タケル……」
俺、ノエルの手を握ったまま、ガチな声で続ける。
「俺が好きな人は、めっちゃ辛辣で厳しいけど……ずっと見守っててくれて、俺の幸せだけを願ってくれたんだ。だから俺、今、その人を救わなきゃいけない」
「……何となく、わかってたよ。その人、ずっと前から大切な人だったんだね」
ノエルの顔に一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……『ミオ』さん、でしょ? 百年前の勇者……あなたなんだよね?」
「――ッ! ノエル……なんで……?」
「時々寂しそうな目をしてたから……。確信はなかった。けど……さっき、タケルが気を失ってる時に『ミオ』って、何度もうわごとのように……」
――その時だった。
木屋のドアがギィッと軋む音を立てて開いた。
よろよろと現れたのは、金髪の少女。
アインの妹、マリアだ。
16歳とは思えないほど青白くやつれた顔で、咳き込みながら服を握りしめて立ってる。
アインが慌てて駆け寄る。
「マリア! 安静にしてなきゃダメだろ!」
マリアは弱々しく首を振る。
瞳はうるんで、震える声で呟く。
「嫌な夢……見たの……お兄ちゃんが……いなくなっちゃう夢……」
アインの顔が一瞬凍りつく。
マリアがゴホッと激しく咳き込み、膝から崩れ落ちそうになる。
アインが慌てて抱き支えるが、少女の体はあまりにも軽く、壊れそうなくらい華奢だ。
その光景を見た瞬間、俺の胸に火がついた。
――アイン……バカ野郎。
俺、お前のこと、「漢」って言ったけど撤回するぜ。
妹がこんな状態なのに……
お前がいなくなっちまったら、もっと取り返しつかねえじゃねえかよ……!
そんなの漢として認められるか!
俺は無言でアインのポケットにペンダントをグイッと突っ込む。
銀のペンダントがポケットの奥でカチャリと音を立てる。
アインがハッとして俺を見る。
「……おい、タケル。どういうつもりだ?」
俺、ガチな目でアインの胸に拳を当てる。
「漢なら、分かるだろ? 兄貴の役目!」
「お、お前……!」
アインの目が一瞬揺らぐ。
妹を支える腕に力がこもり、唇を噛みしめる。
マリアは咳を抑えながら、弱々しく微笑む。
「あなたが……タケルさん……? お兄ちゃんのこと……よろしく、ね」
アインがマリアをそっとベッドに寝かせると、彼女は糸が切れたように眠りに落ちる。
ノエルがマリアのそばに寄り、そっと手を握る。
「……マリア、大丈夫よ。必ず明日、私たちで成功させるからね……」
彼女は静かに微笑んで、俺を見つめる。
そして優しく頷く。
「タケル、ミオさんがあなたを信じてるなら、私も信じる。行って、ちゃんと助けてあげて」
俺、その健気さに胸が締め付けられて、思わず頭下げる。
「ノエル……俺、バカだから気の利いたこと言えなくてごめん。ミオのこと救ったら、必ず戻ってくる。俺の『使命』果たして、みんなで笑える未来作る。約束だ!」
アインが「チッ」と舌打ちしつつ、肩をポンと叩いてくる。
漢気たっぷりの手、めっちゃ熱い。
「タケル……お前、ほんとバカだな。けど……分かった。マリアは俺が守る。漢の約束だ。行けよ」
俺、拳を握って頷く。
「おう。ノエルのことも頼んだぜ!」
ノエルが小さく手を振って、涙目でめっちゃ健気な笑顔。
「タケル、絶対生きて戻ってね。私、信じてるから……ミオさんも、きっと待ってるよ」
アインが大剣を地面にドンと突き、いつものドヤ顔で吠える。
「バカやらかすなよ、勇者! お前の想い、しっかり届けて、さっさと戻ってこい!」
「ノエル! アイン! マジでありがとう!」
俺、木屋から勢いよく飛び出す。
――さっき目覚めた時にノエルからこっそり“拝借”してた宝玉ネックレスをポケットからそっと取り出す。
宝玉が赤い月光を反射してる。
ミオがメルに託し、ノエルが守ってくれてた百年の想いが詰まった宝玉――
こいつが全部の鍵だ!
全て片付けて、ミオを……
ルナティア族を救うんだ――!




