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第1話 斬首系主人公、爆誕!

 ――俺は死んだ。


 真っ暗な意識の底で、何かが火花のように弾けた。

 

(――タケル……! どうか、幸せに……!)

 

 誰かの泣き声?

 銀色の炎、赤い月、そして血に染まる白い尾――何これ?

 

「……ぁ、が……っ!?」

 

 脳が沸騰するようなノイズ。

 だが、その記憶の断片は、強引な「上書き」によって瞬時に塗り潰されていく。

 

(……そうだ、俺は……バイトの帰り道だった、はずだ)

 

 そう、バイト仲間のソムナン君と別れた帰り道。

 迫る4トントラックを華麗に回避して、直後のタンクローリーに轢かれた。


 あの時、ソムナン君が「人生は長い」なんて言っていたのを思い出す。

 まさか数分後に完結するとは、彼も予想だにしなかっただろう。


 

 目を開けると、そこは見事な「異世界の村」だった。

 木造の家、のどかな畑、遠くにそびえるアルプス山脈っぽい山々。

 

 俺は竹仲タケル、25歳、万年フリーター。

 適当に伸ばした黒髪の、どこにでもいるフツメンだ。

 だが、今の俺は薄手の革鎧と灰色のマントを装備している。

 鏡はないが、なんだか「選ばれし者」感が漂っている気がする。

 

(これ、ガチの転生無双チャンスじゃないか?)

 

 ステータス画面は出ないが、まあ最近はそういうのも珍しくはない。

 そこは『主人公補正』で自動解決するはずだ。

 

 ――そう、転生した今、俺は『主人公』だ。

 モブキャラ人生は、あの国道でタンクローリーと一緒にバイバイした。

 

 もう誰にもペコペコしない。

 俺は俺の人生をこの世界で謳歌するんだ!


「剣士さま! お助けを!」


 村の広場に出るなり、ボロ着の村人たちに囲まれた。


「あ、えっと、自分っすか?」

 

 剣士? 

 見れば、腰に使い古された剣が差してある。

 なるほど、これが初期装備か。


 ここで前世の卑屈なペコペコ口調は厳禁だ。

 せっかくの異世界デビュー。

 憧れの『レオン=アークブレイド』のように、クールで尊大にいこう。


「ゴホンッ……! どうした村人よ。何の騒ぎだ?」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、村人が涙ながらに訴えてきた。


「ゴブリンどもに襲われて……娘がさらわれたんです!」


 出た、ゴブリン。

 鉄板すぎて、もはや伝統芸能の趣すらある。

 

 イベントの方からやってくるとは、さすが異世界。接待が手厚い。

 

「安心しろ。……俺が来たからにはな」

 

 初の転生無双タイム――開幕だ。


     *

 

 村人に教わった巣に突撃すると、五匹ほどのオーソドックスな緑ゴブリンがいた。

 

 剣なんて握ったこともないが、振り回せば面白いように斬れる。

『主人公=剣』という世界の真理に感謝だ。


 あっという間にゴブリン全滅。

 チュートリアルを終え、奥に捕らえられていた村娘を発見。

 

 三つ編みの純朴な美少女。

 粗末なドレスから透ける「ヒロイン感」がたまらない。


「う、お、だ、大丈夫?」


「剣士さま! 助けて頂いてありがとうございます……!」


「ゴブ、ゴブリンは全て滅した、よ。……さあ、村へ戻ろう」


 一瞬キョドりそうになったが、なんとか耐えた。

 

 村へ戻れば、「英雄だ!」「剣士さま!」と割れんばかりの喝采。


 俺は調子に乗った。

 いや、乗るしかなかった。

 前世でカラッカラだった俺の「承認欲求の壺」が、猛烈な勢いで満たされていく。

 

 村長から「王様がお会いしたいそうです」と招待状を渡された。

 

 完璧な様式美。

 この先は、王様に「魔王を倒せ」と言われ、チートスキルをもらって美女とハーレムを築く流れだ。

 

 ハーレム。これだけは譲れない。

 25年間、女っ気ゼロだった俺への、神様からの退職金だ。

 

 期待に胸を膨らませ、俺は王城へと向かった。

 

     *

 

 王城は想像を絶するゴージャスさだった。

 

 金ピカのシャンデリア、真っ赤な絨毯、ピカピカ鎧の衛兵。村との格差がハンパない。


 玉座には貫禄たっぷり、白髭のエルドラント国王、ローレンツ。


 そして隣には、金髪縦ロールの絶世の美女、カタリーナ姫。

 繊細なティアラと上品なメイクで、絵に描いたようなお姫様だ。


 間違いなくメインヒロイン候補。

 ここでフラグを立てずしていつ立てる。

 

「お主がゴブリンを倒した者か。礼を言う。名は何と申す?」


 王の声がズシンと響く。

 前世の俺なら「あ、あざす、竹仲っす」と頭を下げていただろう。

 

 だが、今は違う。俺は主人公なのだ。

 王相手でも臆さず、クールに振る舞おう。


(さあ、俺に力を貸してくれ、レオン!)

 

 堂々と胸を張り、右手で髪をサラッとかき上げる。

 

「――名乗るほどの者ではないが……強いて言うなら『竹仲タケル』。この世界の救世主となる男だ」


 ニヤリと微笑み、王を不敵に見据える。

 ……と思ったが、彼の圧を前につい目を逸らしてしまった。

 

 その流れで姫に視線を流し、軽く顎を引いてクールに微笑んでみる。

 

 俺のネット知識によれば、破天荒な男は箱入り娘の大好物なはずだ。


 さあ、落ちるか?



 ……シーン。


 

 空気が凍る。


 姫が目を丸くし、次の瞬間、激しい怒りに顔を歪めた。

 側近のじいさんが、王に何やら不穏な耳打ちをしている。

 

(待って、なにこの雰囲気。なんかスベった?)

 

 王が深いため息をついて首を振る。

 

「若者よ、ゴブリンを倒した勇気は認める。だが……礼儀を知らぬか」

 

(れ、礼儀? 俺、失礼なこと言っちゃった?

 ここは「面白い男だ!」って笑う流れじゃないの?)


 いや、落ち着け。

 この場はクールに押し切って挽回しよう。

 空気を変えねば。

 今さら後戻りはできない。

 

「……お、王よ、実力はゴブリン討伐で証明済み。魔王だろうが何だろうが、この俺が討ち果たす。安心しろ」


 マントをバサァと翻し、もう一度姫に口角を上げてみせる。

 手汗がすごいが、これが「強者の余裕」というやつだ。


 すると姫が、顔を真っ赤にして立ち上がった。

 

「この……傲慢な態度! その不快なニヤけ顔! 王国を裏切ったあの『魔術師』と同じ匂いがしますわ!」


 衛兵たちの手が剣にカチャリと伸びる。

 側近じいさんが一喝。


「この者を捕えよ!」


(ど、どういう展開!?『あの魔術師』って何!?)


 俺は衛兵にガッチリと腕掴まれた。

 

「ねえ、待って! 話そ!? ホント誤解っす! 姫様ッ、助けてよ!」


 こんな序盤で「追放」や「牢屋」の展開は正直ダルすぎる。


 だが、有無を言わさぬ勢いで話が進んでいく。

 

 どうやら過去に、俺と同じような態度で姫に迫り、挙句の果てに国宝を盗んで逃げた「ヴェザル」とかいう不届き者がいたらしい。


(いや、『ヴェザル』って誰だよ!!)


「――『魔法の宝玉』なき今、王国の魔力は枯渇し、衰退の一途を辿る。全て(わし)の甘さが招いた危機だ……」


(だ、だよね? 俺、悪くないよね?)

 

「私のせいで、王国が……愛する領民が……うぅっ!」


(姫様、ガチ泣き!? 俺、トラウマ刺しちゃった!?)


 その時、王の目が鋭く光った。

 

「同じ(てつ)を踏むわけにはいかん。(した)い支えてくれる領民に、これ以上ひもじい思いはさせられぬ」


「つ、つまり……?」


「死罪。斬首だ」


 ……え。


     *

 

 ――俺は死んだ。


 まさかの斬首刑。

 王様の判断が早すぎる。


 首が飛ぶ瞬間、「ハーレムどこだよ!」と叫んだ気がするが、虚空に消えた。


 

 ――暗転。


(マジかよ……ガチで死んだぞ?)


 ふわっと体が浮く。


 気づけば、真っ白な空間にいた。

 目の前には、月光のように輝く銀髪をなびかせた、冷徹な雰囲気の少女。


 黒で統一され、銀刺繍の施されたローブに長手袋。ルーン文字の刻まれたブーツ。

 スラリとした体型に、神秘的なオーラが漂う、まさに百点満点の美貌だ。


「私はミオ、月の女神『イオネラ』が管理する転生空間の案内人。

 キミ、竹仲タケル、25歳、初転生で秒殺されたバカね」


(……くっ、初対面でいきなり辛辣!)

 

 でも、このジト目、なんだかたまらない。

 そしてどこかで聞いたような声だ。


「秒殺って……あの王様、暴君だよね!? 俺、一応ゴブリン倒した英雄だし、向こうから招待しといて処刑とかヤバいって!」


 ミオは深いため息を吐き、指をパチンと鳴らす。

 すると空中にスクリーン登場し、俺の処刑シーンがリプレイされる。


(うわ! 首飛んでる俺、ダサすぎ! )


「……王族相手にタメ口なんて自殺行為。慎重にいけば回避できた事態よ。異世界だからって舐めてる?」


「え? 主人公がタメ口って『デフォルト』じゃないの?」


「英雄でも相手に敬意を払うのが当然よ。25にもなって、敬語も使えないの?」

 

「……っ、敬語くらい使えるよ!」


 俺は少しムキになって反論した。


「でも前世じゃ毎日ペコペコして『詫びの竹仲』なんて呼ばれて……! 唯一の娯楽がラノベやアニメ見て主人公妄想。

 んでガチ異世界来たら舞い上がるしかないだろ!」


 しんみりしながら熱弁。

 彼女なら分かってくれる――なんだか、そんな気がした。


「この転生空間のルールを説明するわね――」


(――聞いてねえ!?

 俺の魂の叫び、めっちゃ事務的にスルーされた!?)

 

「いや、待って! 俺の辛い過去、もっとちゃんと聞いてよ!」


 ミオは銀髪をかき上げて、淡々と続ける。


「一応、敬語が使えるのは分かった。

 問題はキミがその歳で自分を『主人公』だと思い込んでることね。正直キツいかも」


 ――グサッ!


「さっきの処刑も、決め手は姫への色目づかい。『主人公なら無条件に惚れられる』と思い込んだ傲慢さが招いた結果」


 心臓に言葉の刃がさらに突き刺さる。

 

「お、俺、転生者だよ!? 異世界でチート無双してハーレム作る運命の男じゃないの!?」


「転生者はキミ以外にもゴロゴロいるわ。キミはただ『その中の一人』……」


「転生者なのにモブ!? じゃあ俺、何で転生したの!? 何か使命は!?」


「新しい世界で『幸せ』を掴むこと――それがキミの使命よ」


「え、それだけ!? ゆるっ!」

  

「ゆるいかどうかはキミ次第。転生リミットは10回、さっき死んだから残り9回――」


「9回も!? 優しい世界……!」


 俺は思わずテンションが上がった。

 

 ミオの説明によれば、転生条件は「完全無作為(ランダム)」で、イオネラ女神が管理する「12の世界」のどこかに送られるらしい。

 

 そして10回死ぬと、魂は完全に「消滅」する。


「消滅」……テンションが下がった。


「ちょっと不安になってきたかも……」

 

「安心して。他の転生者は平均0.14回でクリアしてる。

 自殺願望でもない限り、10回使い切る人なんていないわ」

 

「お、おお、そうなんだ。じゃあ、大丈夫そうだな」


(平均0.14って、みんなほぼ一発クリアなのかよ……。

 他が優秀なのか、俺が無……いや、でも、まだ9回もあるなら!)

 

「よし! ミオ、見てて! 次の世界で必ず俺が『主人公』だってこと、証明するから!」

 

「証明、ね。一応言っておくけど、どんな条件で転生するかは私にも分からない。

 次はもう少し慎重に。『主人公マインド』も程々にね」


 ミオの呆れ顔に、俺はグッと親指を立ててみせた。

 

「OK、主人公の魅力は『言葉を超える』ってね!」


 なぜだろう。

 彼女の前だと緊張せずに自然に話せる。

 初めて会うのに懐かしい、妙な感覚だ。

 

「そう……はい、行ってらっしゃい」


 ミオはデカいため息とともに、俺を見送る。

 

 光に包まれながら、意識は遠のいていく。

 

 次こそは。

 次こそは、ハイスペックな身体とチート能力、そして――。

 

(絶対、ハーレム作ってやるからな……!)

 

 俺の飽くなき野望とともに、二度目の人生が幕を開けた。

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