第17話 青春☆魔法学院!⑥
―――――
―――
――暗転。
白い空間。
――ん? 俺、死んだ??
――え? いつ?
ミオ、小さくため息して首を振ってる。
「……ちょ、ちょ、ちょ、ミオ! どういうこと!? 今回、何日も生き残って、マジで全部順調だったはずだぞ!?」
俺が叫ぶとミオ、目も合わせず無言でスクリーンを出す。
映像見て唖然――
セーラに振り向いて告白後、ドヤ顔で後ろ向きに一歩踏み出す。
瞬間――足元が……
スカッ!
「あ」
浮かぶ階段、踏み外す!
「お、おい! ハーレム……!」
ゴロゴロゴロ……!
顔面から石の床にクラッシュ!
――バキッ!
チーン。
――恥っず!
こりゃ過去イチのダサさ!
「うっ……おい、マジか……ハーレム天国、秒で終わった……!」
「8回目の死。階段で……階段で死ぬって……バカすぎでしょ……」
今回の死はマジでショック。
いや、ショックっていうか……
なんか胸がズキズキする。
ガチで泣きそう。
みんなとの思い出が全部、頭の中でリピート再生されてる。
あんなに楽しい時間が……
たった一歩のドジで終わっちゃったなんて……。
まだまだやりたいこと、たくさんあったのに……。
別に派手なハーレムとかじゃなくてよかったんだ……。
オリビアと食堂の隅っこで「次はこのスープで隠し味対決しようぜ!」って変なスパイス入れまくって二人で鼻つまんだり、
クロエに「バカタケル、また寝坊?」ってジト目で睨まれながらも席をキープしてもらってたり、
エスターに「タケル君、ここ間違ってますよ!」って赤ペンでノート直してもらって「助かる〜!」って頭下げたり、
リリと休み時間に浮遊階段の途中で「今日も晴れてよかったね」ってぼーっと空見上げたり……
ただ、朝一緒に教室入って、
授業中にメモ回し合って、
昼休みに食堂でバカ話して、
帰り道で「また明日な!」って手を振って別れる。
そんな、どこにでもあるような……
でも俺にとっては眩しすぎる最高の時間が、ずっと続けばいいなって思ってた。
俺が言ってた「ハーレム」って、きっとそういうことだったんだ。
みんなと一緒にいる、ごく普通の、でもかけがえのない青春。
……それに、セーラには、ちゃんと恩返ししたかった。
いつもみんなを引っ張ってくれて、プレッシャーで押し潰されそうでも笑ってくれて、俺みたいなバカまで「仲間だから」って守ってくれた。
だから今度は俺が、「もう一人で背負わなくていいぜ」って、ちゃんと支えたかったんだ。
迷惑かけまくった分、セーラのこと、全力で応援したかったんだ。
なのに、俺ときたら……
「うっ、くそ……アニメのエンディングシーン意識して調子乗っちまった……」
――セーラ、オリビア、クロエ、エスター、リリ……
みんな、ごめん!
俺、ほんとバカだな……
ミオ、深く息を吸って、目を伏せる。
声が少し震える。
「ねえ、タケル……本当に理解してる? キミの転生、10回がリミットよ? 10回目に死んだら……キミは“完全消滅”、もう転生できない」
「完全消滅……か……」
俺は「はぁ……」と息を吐き、目を閉じる。
……待てよ。
まだ終わってない。
まだ、2回残ってる。
ここまで8回も死んでるけど、毎回、なんかちょっとずつマシになってきてる気がする。
ちゃんと王族や偉い人には敬語使うようにしてるし、情報収集も、状況確認も忘れずにやってる。
そして何より……
女の子と自然に話せるようになったんだ!
……うん、確実に進化してる!
どの道、俺は前の世界でフリーターとして死んでる身だ。
恐るものなんてないんだ!
次は最後まで油断せず、突っ走るのみ!
「うん……まあ、大丈夫! 残り2回! 次こそは主人公が土壇場に強いってこと証明するよ!」
「ふざけないで!」
「え……」
ミオ、少し取り乱して声を荒げる。
「……ここまでバカだと思わなかった! 他の人はこんな何回もやり直さない! 8回も死ぬ転生者なんて前代未聞なの!」
「お、俺だって死にたくて死んでるわけじゃないし……」
「じゃあ、もっと慎重に、もっと真剣に生きてよ……! 私だって、キミに早く幸せになってほしいのに……。なのに……キミはいつもハーレム、ハーレムって――」
ミオの声、途中で詰まる。
目がキラッと光る。
涙だ。
初めて聞いたミオの感情的な声。
俺は一瞬戸惑ってしまう。
「ミ、ミオ、そんな怒んなくても……」
ミオは俯いたまま、銀髪を指でクルクル巻いている。
俺は一歩近づいた。
足が震える。
心臓がバクバク鳴る。
でも、もう逃げない。
前回は言えなかったこと、今回こそは伝えたい。
「……魔法学院、ほんとに楽しかった。セーラたちと笑って、祝勝会で騒いで……『この世界でずっと生きてたい』って本気で思った」
ミオの指がピタリと止まる。
「でも……毎回ここに戻ってくるたびに思うんだ。俺、ミオの前だと、どんな弱音も、どんなダサい姿も、ありのまま全部さらけ出せるって」
静寂。
白い空間に、俺の声だけが響く。
「セーラに告白した直後で言うのもクズすぎるけど……でも、これだけは言わせて――」
深呼吸。
「俺、ホントは……」
喉が熱い。目が熱い。
「ミオのことが、一番好きなんだと思う」
――言った。
頭の中が真っ白。
ミオが、ゆっくり顔を上げた。
銀の瞳に、涙がいっぱい溜まってる。
「……タケル」
声が震えてる。
「言ったはずよ。私とキミは、永遠に交われない。案内人と転生者じゃ……住む次元が違うの」
「で、でも、ミオも俺のこと嫌いではないでしょ? 俺、恋愛のこととか分かんないから……勘違いかもしんないけど……」
ミオが首を振る。
涙が頬を伝って、ポロポロと落ちる。
まるで星が降ってるみたいだ。
「嫌いじゃない……だから、早く幸せになってよ。キミが死ぬたび、私だって……」
ミオが両手で顔を覆った。
肩が小刻みに震え、嗚咽が漏れる。
俺はもう一歩近づいた。
手を伸ばす。
でも、届かない。
「じゃあ、俺、ここで住むよ! ここでミオと一緒にいたい!」
「だから無理なの! ルールなの! 私はキミにとって“現実”じゃない、“幻”なんだから……!」
「で、でも、前回ミオが俺に触れたとき――」
「もうこれ以上しゃべらないで……!」
――光が俺を包み始める。
ミオが再び顔を上げる。
涙で顔を濡らしたまま、小さく手を振る。
「行って、タケル。次の世界で……死なずに、絶対幸せになって。私なんていらないって思えるくらい……」
「ミ、ミオ!」
「お願い……戻ってこないで。もう、二度と……会いたくない……」
最後のミオの顔は、泣きながら、必死に笑おうとしてた。
その笑顔が、逆に胸に突き刺さる。
「ミオ、待って! 話終わってねえ!」
光が強くなり、意識は次の異世界へ。
なんで……
なんでそんなに突き放すんだよ……!
ミオ……俺、なんか、めっちゃ切ねえぞ……!
魔法学院編、ご覧いただきありがとうございました!
次はいよいよ9回目の世界です。
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