第0話 紅蓮の覇焔剣聖
はじめまして。神鳴ヒカルと申します。
全30話予定しております。
お読みいただけましたら幸いです。よろしくお願いします。
0話前半の厨二パートは「レオン=強い」と言いたいだけなので読み飛ばしOKです!
――炎獄を穿つ一閃。
「深淵を統べる終焉の魔王竜」ヴェルグ=エターナルドラグナイト――虚空を呑み込む漆黒の魔翼を広げた刹那、「紅蓮の覇焔剣聖」レオン=アークブレイドの|聖魔剣《エクスカリバー=アポカリプス》が朱に燃えた。
燃えるような赤い髪が嵐を裂き、銀狼の瞳が奈落を射抜く。
「古の竜王ごときが……俺の前に立つとはな」
閃光の絶斬剣閃――
「――跪け」
天地を震わせる竜の咆哮は断末魔に変わり、巨躯が崩れ落ちる。黒き魔血が噴き、煉獄の業火が闇を焼き尽くした。
聖女エレノアが頬を紅潮させながら駆け寄る。
「レオン様っ!」
周囲の美少女たち――青髪の剣姫リリエス、エルフの魔導姫ミラヴェル、氷の騎士アリシア、貴族令嬢マリーアンヌ……計十五人が、それぞれ熱い視線をレオンに向ける。
レオンは剣を肩に担ぎ、薄く笑った。
「世界は俺が守る。それで十分だ」
――大神聖帝国ファルティランティスの宮殿マール・アラストラルテにて――
凱旋したレオンは紅蓮のマントを靡かせ、玉座の国王――フレディアス=ローザリオ・ファルティランティスを見据える。
「王よ。俺がいる限り、世界は安泰だ」
フレディアス王は震える膝で跪き、黄金の王冠を床に落とす。
「レオン殿……我が王国は永遠に――」
すると、玉座の傍らに控えていた姫ローザが、薔薇色のドレスの裾を軽く摘んで優雅に一礼し、静かに歩み寄る。
「王国を救ったその剣、その勇姿に……わ、私の心はもう、貴方様のもの……!」
―
――
――ピロン。
通知音。
「……お」
『覇焔を纏いし救世の聖魔剣が招く、異世界全属性美少女総ハーレム無双譚 ~世界を救うのも一苦労だけど、囲まれすぎて逆に困る俺の日常~ 第247話更新!』
「――やった、“覇焔ハーレム”、最新エピソードきてんじゃん!」
ボロアパートの布団の中、充電コードが絡まったまま。
「やっぱレオン……反則級にかっこよすぎる……」
時計は16時27分。
「やっべ、バイトの時間! はぁ……」
25歳の青年、竹仲タケルは、スマホの画面を指でスワイプして小説アプリを閉じた。
――数時間後。
「おい『詫びタケ』! 陳列間違ってるぞ! 何百回言わせんだよ! ちっとは学習してくれよ……ったく」
店長の怒声が響く。
「あ、う、す、すいません……!」
タケルはレジ前で頭を下げながら、心の中で叫ぶ。
(毎日毎日、情けねえ……。俺だってミスりたくてミスってるわけじゃねえのに……。レオンなら……こんなところでペコペコしたりしねえだろな……)
店長が去ると、隣から声。
「タケナカさん、元気出して。分からないこと、ボク教えますよ」
バイト五日目の留学生、同じシフトのソムナン。
太陽のような笑顔に白い歯が眩しい。
「あ、ありがとう、ソムナン君……」
タケルは呟き、ますます情けなくなる。
深夜1時。
レジの奥でタケルは欠伸を噛み殺しながら、残り少ない商品を数えていた。
店長がバックヤードから顔を出す。
「おい、竹仲」
「は、はい!」
「売れ残りだけど、コロッケ持って帰れ。外寒いから体壊すなよ。明日も頼むぞ」
「す、すいません……ありがとうございます」
レジ袋に三つのコロッケが詰められた。
まだほんのり温かい。
タケルはそれを大事に抱えるようにして、店の外に出た。
十二月の夜風は容赦なく頬を刺した。
街灯の下、吐く息が白く舞う。
「お疲れさまです、タケナカさん」
振り返ると、ソムナンが笑顔で手を振っていた。
「ああ、お疲れさま」
二人並んで歩き出す。
靴底がアスファルトをこする音だけが、静かな住宅街に響く。
しばらく無言で歩いて、赤信号待ちで立ち止まる。
「……今日も恥ずかしいとこ見せちゃったね。店長、ガチ切れだったでしょ」
タケルがポツリと呟く。
「昔から何回言われてもさ、頭に入らねえんだよな……。俺、ほんとダメだわ」
ソムナンが首を振って、ニカッと笑う。
「そんなことないです。タケナカさん、いつも最後までちゃんとやってるじゃないですか。今日だって、レジの締め速かったですよ?」
「いや、あれ店長が急かしたからで……。ソムナン君、ほんとすごいよな。まだ五日目なのに、商品の場所とか完璧じゃん。俺、もうすぐ一年なのにさ」
信号が青に変わる。また歩き出す。
コンビニの明かりが遠くでチカチカ光る。
「母国で市場の手伝いしてたから。タケナカさんだって、慣れたら絶対もっと楽になりますよ」
「いやいや、俺、毎日ミスばっかで。レジ打ちは遅えし、言われるまで間違いにも気づかねえし。レオンなら――」
タケル、小説アプリのことを思い出して、口ごもる。
「……いや、なんでも」
ソムナンがくすっと笑う。
「誰ですか? タケナカさん、憧れてる人?」
「は、はは! いや、ただのネット小説のキャラ。めっちゃ強くて、カッコよくて、みんなに尊敬されてて……。俺、こんななのに、つい比べちまうんだよな」
タケルは自嘲気味に続ける。
「……昔からダメなんだ、俺。要領悪いし……気づいたときにはみんなより三周ぐらい遅れてる……。嫌になっちゃうよ、ほんと」
ソムナン、ちょっと考えて、冬の澄んだ夜空を見上げる。
「母国のことわざ――『水の一滴一滴が壺を満たす』ってあるんです」
タケル、足を止めてソムナンを見る。
「……水の一滴?」
「毎日コツコツやってたら、いつか大きな成果になる、みたいな意味です」
「はは……そうなんだ。でも俺の壺、たぶん穴空いてるよ。毎日頑張ってるつもりでも、すぐこぼれちまう。なんも上達しねえし……」
ソムナン、くすっと笑って首を横に振る。
「穴が空いてるんじゃなくて……タケナカさんの壺、大きすぎるのかもしれませんね」
「……へ?」
「器が大きい人って、すぐ満たされなくても、もっと大きなもの目指してるから」
ソムナン、マフラーを直しながら言う。
「ボクも初めてこっち来たとき、言葉わからなくて、毎日失敗ばっかり。レジでよくお客さんに変な顔されてました」
タケル、苦笑い。
「へ、へぇ、君でもそんなことが……」
「うん。でも、気づいたんです。失敗は自分だけじゃない。みんなそれぞれのペースでやってる」
「で、でも……俺なんかのペースじゃ一生かけても――」
「それなら見方を変えるといいかもしれませんね」
「見方?」
ソムナン、白い息で親指を立てて笑う。
「そう、行き詰まったら見方変えてみて。世界も変わりますよ。大丈夫、きっと。人生長いから」
「そっかなぁ……」
レジ袋がカサカサ鳴る。
指先が冷えて、コロッケの温もりがじんわり伝わってくる。
二人は国道沿いの分かれ道に着く。
向こうからトラックのライトがチラチラ光る。
「あ、ボクこっち。明日も頑張りましょうね、タケナカさん! リアハゥイ」
ソムナン、振り返って小さく合掌。
マフラーが風に揺れる。
「リア……え? おう、気をつけて。いろいろ聞いてくれてありがとな」
(人生は長い……か)
タケルはコロッケを抱えて国道沿いを歩き出す。
(俺も……俺もいつか――)
――いつか絶対、「レオン=アークブレイド」みたいな主人公に……!
ご覧いただきありがとうございました!
次から本編です。




