第三章:ゼロ秒の波紋、崩壊する未来
光瀬ハヤトのデビューパーティが、地獄の断罪劇へと変貌してから、わずか三日が経過していた。しかし、この三日で魔法社会全体が受けた衝撃は、過去数十年で最も甚大だった。
「真実の顕現」と名付けられたあの映像は、一晩にして国内の全情報端末、公共スクリーン、そして政府管轄の認証ネットワークにまで浸透した。それは、ただの暴露ではない。悠人の魔法が持つ「真実性」の定義付けが、視聴者全員の魔力感知回路に焼き付けられたため、誰もがその映像の内容を本能的に「絶対の事実」として受け入れてしまったのだ。
光瀬ハヤトの未来は、文字通り一瞬で崩壊した。
名門魔術師家としての地位は地に落ち、彼を支援していた権力者たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。ハヤトは即座に全ての魔法関連組織から追放され、彼は「裏切り者」として社会的な死を宣告された。
そして、この事件は新たな恐怖を生んだ。
政府管術式管理庁の緊急会議室。Sランクのベテラン魔術師や、情報魔法の専門家たちが、青ざめた顔でモニターを囲んでいた。
「問題は、どうやって侵入されたかだ。術式連環なしに、広域情報網に介入するなど、常識ではありえない」
「我々のセキュリティは、リングの認証時間0.5秒を前提に構築されている。その0.5秒を無視し、ゼロ秒で術式を組む存在など、理論上ありえない」
魔法庁は、この正体不明の侵入者を「ゼロ・インベイド」と仮称し、最重要指名手配犯として捜査を開始した。彼らが恐れているのは、ハヤトの失脚ではない。もしこの「ゼロ秒の力」が悪意を持って利用されれば、国の防衛システム、金融システム、そしてダンジョン管理システムまでが、瞬時に崩壊しかねないという事実だ。
悠人は、都心の雑居ビルの一室を新たな拠点としていた。窓の外には、彼の起こした波紋で揺れる街の光景が広がっている。
(社会のルールに囚われた愚かな人間たち。0.5秒に頼る限り、俺の敵ではない)
悠人は、情報網の片隅に残されていた、裏切り者たちの「今」を覗き見た。
光瀬ハヤトと鈴宮アオイは、都心から離れたアオイの実家が所有する、薄暗い隠れ家に身を潜めていた。彼らは、デビューの晴れ着のまま、憔悴しきっていた。
「くそっ、くそっ! なんであんな動画が……悠人は死んだはずだ! ダンジョンの管理記録にも、生存の可能性はゼロだと出ていた!」ハヤトは壁を殴りつけた。
アオイは、化粧も落ちた顔で冷ややかに言った。
「落ち着いて、ハヤト。あれが本物だろうと偽物だろうと、我々の社会的な死は確定した。問題は、あの動画を流した存在よ」
アオイの瞳には、かつての冷酷さに加え、純粋な狂気が宿っていた。
「あの動画の裏には、とてつもない魔力と、現代の術式ではありえない操作技術が隠されている。間違いなく、あれは魔法よ。そして、その魔法は、私たちを破滅させるためだけに発動された」
「つまり、誰かが俺たちに個人的な恨みを持って……まさか、悠人?」
ハヤトが震えながら口にすると、アオイは鼻で笑った。
「あの役立たずの悠人が? ばか言わないで。でも、もし彼が生きていたとして……あるいは、彼の遺品から何かとんでもない術式が漏れ出たのかもしれない。どちらにせよ、私たちを陥れた張本人を見つけ出し、今度こそ確実に葬る。そうしなければ、私たちは一生、この闇から抜け出せない」
復讐のターゲットが消え、光を失ったハヤトとアオイは、今、新たな、そしてより邪悪な復讐計画に取り憑かれていた。彼らの憎悪の矛先は、動画を流した存在へと向けられた。
(これが、お前たちが選んだ道だ。お前たちの闇が、より深く、そして救いようのないものへと変わっていくのを見るのが、俺の喜びだ)
悠人は、彼らが社会の底で這いずり回り、自滅の道を歩むことを確認すると、新たなターゲットへと意識を向けた。
彼の復讐の目的は、ハヤトたち個人の破滅だけではない。この事件は、魔法庁や政府のセキュリティの脆弱性を露呈させた。
(次は、魔法庁の情報統制システムだ。俺の力を隠蔽し、閲覧禁止図書として封印した連中の、虚飾の壁を崩してやる)
悠人は、窓の外に広がる東京の夜景、その中心にある魔法庁の巨大な庁舎を見据えた。彼の次の行動は、個人的な制裁から、世界を変えるための第一歩となる、大規模な魔法社会への攻撃となるだろう。
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