「ざまぁ」が不要な2人
「なぁ、ジェイミー何を読んでいる?」
「世の中の『ざまぁ』です」
この国の第四王子のマキシムとお茶を楽しむのは幼馴染のジェイミー公爵令嬢である。いつもの様に穏やかな空気の中、ジェイミーの読む雑誌は【皆が喜ぶ『ざまぁ』特集】だった。
「その雑誌は誰から?そして、ちなみにどのような『ざまぁ』があるのだ?」
「この雑誌は図書館で今オススメの雑誌と教えてもらい借りました。そうですね。例えば……男性側が『ざまぁ』される場合だと」
「場合だと?」
向かい合わせに座る二人は、週に3回のお茶会中だ。二人は幼馴染で、ジェイミーの父は宰相の為、城に出勤の際に幼いジェイミーを連れてきていた。一緒にジェイミーが城に来る理由は第四王子であるマキシムの要望だから。幼い頃から一緒に遊び学ぶ二人であった。
ニコリと笑うジェイミーは現在15歳可愛らしい女性へと成長し。向かいの席で優しく微笑むマキシムは可愛らしい顔の第四王子だが普段はあまり感情を表面には出さないがジェイミーの前では笑顔だ。
「真実の愛で結ばれていると公言した女性は側近とも寝ている。真実の愛の相手が妊娠出産するが子供の父親は自分ではなかった。本当は他の男を狙っていて踏み台として利用。身体やお金が目当てな場合もありますね。そして男側は今の地位から転げ落ち貴族なら平民へ、王族なら身分の剥奪…最悪は処刑、国外追放、男娼となる場合もあるみたい」
「そうか……ちなみに女は?」
「まあ、男性と同じようなものです。かなり年上の方の愛人や娼婦となる場合もあるようですわね」
「……なあ、男の元恋人や元婚約者は?」
「浮気された側ですか?」
「殆どが幸せになりますね。他国の王子に見初められる。相手の兄弟や叔父から愛される事もあります。幼馴染と結ばれてたり……中には逞しく1人で生きていく男性や女性もいます。突如現れた素晴らしい力で国を守ったり、聖女として崇められたり。と、まぁ、それなりに、転落人生もありすわ」
「なぁ……『ざまぁ』は必ずなのか?」
「必ずではないようですわ。もし他に愛する方が出来たのなら恋人や婚約者に誠心誠意誤り、納得のいく形へと持って行く事が大切ですわ。そうすれば互いに愛する人と結ばれる。ありもしない噂や嫌がらせ、蔑ろにするなどもっての外ですわ。隠れて浮気をする二人が互いに惹かれるのは仕方ないとして、婚約者に隠れて愛を育むのが真実の愛なのかわかりませんわ。そんな女性や男性を選んだ人も見る目がないですね。先程の『ざまぁ』は、まだいい方で、『ざまぁ』が足りないと思う方もいますわ。痛めつけたり傷つけたりとね。でも『ざまぁ』されても幸せに暮らす二人もいるようですね」
「そうなのか……怖いな」
「そうですね。私の読んでいる雑誌は『ざまぁ特集』ですからね。それで、マキシムはどの『ざまぁ』がいいのですか?」
「は?」
「マリベル公爵令嬢、ユーリン男爵令嬢、食堂のサワシリさん、メイドのキャスティ……他に」
「待て、待て、待て、その情報は何処で?」
「世の中の人は『ざまぁ』を求めているので情報は向こうからやってきますのよ」
「そうなのか……世間の人々は見ているのだな」
「そうですね。どの女性が本命なのかは分かりかねますが、やはり誠実な男性がいいかと」
「ちなみにジェイミーは……どの様な男と添い遂げたいのだ?」
「私ですか……そうですね。やはり私だけを愛してくれる人がいいですね。相手の身分も見た目も関係ないですわ」
「ちなみに好きな男は?」
頭に浮かぶ男性はただ1人だ。無意識にじっと目の前の男を見つめる。
(マキシムよ)
心の中で答えるジェイミーであった。
「秘密です」
赤い顔で答える。
「…………」
(可愛い顔で見つめるな恥ずかしいだろ。想う相手が俺だったらいいのにな)
――――舞踏会――――
「今年も社交シーズンが始まった、今シーズン最後の舞踏会で第四王子の婚約者を発表する」
「ねぇ、ジェイミーは誰だと思う?」
「殿下が選んだのでしょ」
「まぁね。断られる可能性もある。相手次第だな」
「どの女性にしたのですか?身分からいくとマリベル様かしら」
「…………いや。ジェイミーは勘違いをしている。彼女達とは何もないんだよ」
「あら、別の女性なのですね」
(他に好きな女性がいるのね)
「そうだな。彼女は私の初恋の女性でな。昔も今も可愛いのだ。ずっと側にいてほしいし、側にいさせてほしい位好きな人だ」
(僕のの好きな女性は昔からただ1人だ)
「その方は幸せですね。羨ましいですわ。殿下にこんなにも想われていて」
(私は幼馴染よ……マキシムの好きな人か……きっと裏で打ち合わせは済んでるのね)
「…………昔から思っていたがジェイミーは自分の事には鈍すぎる」
(すでに互いの両親どうしで話はついている。ただし本人の返答次第だがな)
ゆっくりと国王の側に向かうマキシムと家族。
国王の挨拶が終わる。王の横に家族が並ぶ。ジェイミーは宰相の娘だ。どんなに仲良くしていても、この瞬間は彼らの横には並ぶことはない。いつも通り国王一家の後ろ姿をだだ眺めていた。
(マキシムが婚約か、寂しいな)
「おい……マキシム」
「ん?父上?」
「頑張れ。モタモタしてるとシーズンなんてすぐに終わる」
「ふふっ、わかっている」
シーズン最初の舞踏会は今年デビュタントを迎える令嬢にとっても特別だ。ジェイミーはいつも影から見ていたマキシムと共に。マキシムは挨拶のみをしダンスには参加はしない。しかし、今日は違う。マキシムもまた社交会デビューとなる。
「ジェイミー」
「お父様?」
「今回はお前もマキシムも社交会デビューだな」
「ほら、デビューの素敵な令嬢が並んでいるジェイミーも並んでおいで。王妃様より一人一人に今年は髪飾りがいただけるぞ」
デビューの令嬢に王妃より髪飾りが送られる一人一人違う、様々な髪飾りを王妃が令嬢の髪に飾るのだ。令嬢にとって素敵な思い出と品になる。
「さあ、可愛いらしい令嬢達、本日から大人の社交の仲間入りよ。楽しんで、今日は王家より髪飾りを用意したわ。順番に渡していきますね」
(あら?一つ歪なのが混じってるわね……あの子ね。さぁ、運試しよマキシム)
「特別に今回はこの中から令嬢に好きな物を選んでもらいましょうか、並んだ順番にしましょう左の可愛いらしい令嬢からこちらに」
順番に令嬢は髪飾りを選ぶ、キラキラと宝石が沢山付いたもの、大きく繊細なものと様々だ。その中に一つ小さく少し歪な髪飾りがあった。令嬢の様々な髪飾りから気に入った物を選び王妃が髪に飾る。
時々王妃は一人の青褪める息子を見る。
(さあ、マキシムの運命の子は誰かしら)
最後になるのはジェイミーだった。理由は最後に並んだからだ。ジェイミーは初めて正面から王族達を見ている。いつも隣か後ろから見るマキシム。じっと眺めていると、声がかかる。
「ジェイミー、今日は一段と可愛いわ。あなたの幸せが私達にとっても幸せよ。まだ沢山あるわ好きなのを選んで」
「どれも素敵ですわ王妃様」
「そうでしょ、今日のこの日の為に用意したのよ」
「王妃様、私はこれがいいですわ」
「いいの?少し形が歪よ」
「可愛い、大好きなお花なの」
王妃からジェイミーの髪に添えられるのは小さな髪飾りだった。
ちらりと横を見ると、喜びを隠す様に下を向く我が息子がいる。
「ジェイミー、私はあなたを娘の様に思っているのよ。何も心配はいらないわ」
「ん?王妃様?」
「さぁ、ダンスの時間だ。まずは今年デビューした令嬢達からだ」
各令嬢は父親か兄、既に婚約者がいる令嬢は婚約者の手を取る。ジェイミーは父の迎えを待つも父は国王の側にいる。
「パパ……パパ」
ジェイミーは父と目が合う、父はニコニコしているだけだった。
「さあ、私の可愛いジェイミー、私と踊って」
迎えに来たのはマキシムだった。
「マキシム……」
「昔から1番最初のダンスは僕だよね」
デビュー前はこっこり舞台裏で仲良く踊る二人であったが今回は社交場デビューだ。本来なら家族か婚約者と踊るのが通常だ。
「そうだけど……今日はデビューだから家族とか婚約者と踊るのよ」
「まだ……気付いてないの?」
「まぁ、とりあえず踊ろうか」
「ありがとう」
長年一緒に踊る二人は息がピッタリだ。
「マキシム、楽しいね」
「そうだね」
「でも終わっちゃうのね、寂しいわ」
(今日の最後はマキシムの想う相手なのね)
「もうすぐ一曲目が終わるね」
「何故、その髪飾りにしたの?」
「可愛いからよ。大好きなお花……それにね。昔マキシムがくれた紙粘土のお花の髪飾りに似てた」
「………………覚えてたの?」
「だって宝物だから、今も飾ってあるわ。壊れたらパパが治してくれるのよ」
一曲目が終わり、挨拶をする。
「素敵な夜をありがとう。マキシム」
そう思い舞台から去ろうとする。
「待ってジェイミー……」
「マキシム?」
「マキシム殿、1番は譲ったから次は私でいいな」
「パパ」
「ジェイミー、綺麗だよ」
ジェイミーは父と踊る。クルクルと楽しく。
「ジェイミー、パパはな家族の為に頑張って宰相になった。身分のせいで……子供達にやりたい事ができなかったり手に入らなかったと思ってほしくなくてね」
「そうね。パパは最高のパパよ」
「ジェイミーは願わないのか?姉のアマンダは隣国の騎士団長の元に嫁いだぞ。息子達も好きな女性と結婚した。さて、ジェイミーは?」
「私?……幸せな結婚生活ができるように、パパの選んだ人と結婚したいわ」
「本当は誰と結婚したい?」
「え……あの……」
「今は二人だ。パパに教えて欲しいな」
「あのね、パパ。私はマキシムが好きなの。でもねマキシムには初恋の大好きな子がいるのよ。その子と結婚したいみたい。だから私は彼の幸せそうな顔を見てから結婚するわ」
ニコリと笑うジェイミーの父。
「マキシムが欲しくないのか?」
「マキシムを?彼が私を選んでくれたら嬉しいわ。でもね……マキシムは私が可哀想だから側にいてくれたかもしれないわ。だって昔から一緒にいてくれたのよ。そろそろ解放してあげないとね……そうじゃなきゃ私は『ざまぁ』されちゃうの」
「『ざまぁ』とは?」
「天罰よ。悪事がばれてしまい、お先に真っ暗になるの」
「何か悪事を?」
「そうね……マキシムを独り占めしてた事」
「………………いや、それは悪事ではない。逆にジェイミーがな『パパ、曲が終わりよ。次は誰と踊るのかしら』そうか……後でゆっくり話そうか」
その後ジェイミーはマキシムの兄の第二王子と騎士団長と踊る。休憩の為に座りジュースを飲みながらダンスフロアを見渡す。マキシムは家族とのみ踊っている。
ジェイミーもまた休憩後は兄達と踊る。
「ねぇ、母上……」
「なぁに?可愛い息子よ」
王妃と踊るマキシム。
「あれワザとでしょう。あの髪飾りが他の人が選んだらと思うと気が気でなかった」
「ふふっ。ちょっとした運試しよ。上手くやるに決まってるでしょ。でも最後まで選ばれなかったわ。そしてジェイミーは迷う事なくあの髪飾りを選んだのよ」
「そう……母上、ジェイミーがいいと言ったら本当に僕の婚約者になるの?」
「話は済んでるわ。マキシムとジェイミーちゃん次第よ。ジェイミーちゃんは人気よ。いつもマキシムが側にいるから皆近寄らないけどね」
「わかってる。でもねジェイミーが僕の作った髪飾りを選んでくれたなんて嬉しいな」
「ラストは?どうするの?」
「勿論。ジェイミーと踊るよ。これからも最初と最後は僕だけ」
ラストの曲
「ジェイミー。僕と踊ってくれませんか?」
「マキシム?ここには初恋の人がいるのでしょう?」
「いるよ。だから誘ってる。最初も誘ったし、その髪飾りも僕の手作りだよ」
マキシムは手を引きフロアの中央に向かう。
「これマキシムの?」
「あぁ。大変だった。それに噂の彼女達とも何もない。『ざまぁ』になる事はない」
ラストの曲が始まる。
「この日の為に髪飾りを作った、他の誰かが選ぶかと思ってヒヤヒヤした」
「マキシムは思い切った事をしたのね」
「あぁ、髪飾りを作るのにメイドのキャスティの父上が鍛治職人だと知って時間が許す限り通ったよ。素材はマリベル公爵令嬢に彼女のお気に入りの騎士を連れて行き頂いた。そのマリベル令嬢とその騎士は婚約する事になったよ」
マキシムは横を指差すとマリベル令嬢と騎士が仲良く踊っている。
「他にもだな……とにかく、ジェイミーの髪に私の作った髪飾りがあるのは嬉しい」
ピタリとマキシムは足を止める。
「だから……私以外の令息と踊って欲しくない。最初と最後は私だけにしてくれないかい?」
「マキシム?」
「ジェイミー……ずっと君が好きだった。初めて会った時からね。だから君の側にいたかったのは僕なのだよ……だから僕の婚約者になって欲しい」
ジェイミーを抱きしめて肩に顔を埋めるマキシム。
「お願いジェイミー『ざまぁ』は僕達には必要ないからね。お願いジェイミー」
「マキシム……私の初恋もマキシムよ。これからもずっと側にいて、大好きよ」
「ジェイミー……ジェイミー……嬉しい……嬉しい」
ジェイミーはマキシムを抱きしめる。
「ありがとうジェイミー。これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくね。マキシム」
「んんっ」
「あなた達……いつまでそうしているの?」
近くには国王と王妃が立っている。
「ん?」
「あ……」
「曲はとっくに終わっているぞ。周りを見てみろ」
周囲を見渡すと参加者達が二人を見ている。急に恥ずかしくなる二人に国王は宣言する。
「皆も見た通り二人は随分と想い合っている様だ、曲が終わるのも気付かない程にな。シーズンの最後と言ったが訂正しよう。この場を持って第四王子のマキシムと宰相の娘ジェイミーの婚約が整った事を皆に報告する。特別にもう一曲踊ろうか。さぁ、最愛の王妃よ。たまには私と踊ろうか」
「えぇ、あなた」
ゆっくりと二人はフロアに向かう。それに続き、王子達と妻や婚約者も向かう、参加者の夫婦も踊るのだった。その中には普段夫婦で踊る事のない宰相夫婦も踊るのだった。
「マキシム……見て。ママ嬉しそう」
「あぁ、私の母も嬉しそうだな」
「やはり好きな人と踊るのは最高に幸せだ」
「そうですね。マキシム、私もとっても幸せです」
その2年後に二人は結婚した。マキシムはジェイミーの家に婿入りし、マキシムは国王である父や兄のサポートとして働きいつまでも仲良く暮らすのでした。
「ねぇ、マキシム?」
「何?」
「春にね。赤ちゃんが産まれるよ」
「本当?ありがとうジェイミー、そうか僕が父親になるのか」
「楽しみね」
「そうだね。『ざまぁ』のない世の中になってるといいね」
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