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俺は幼馴染の〝彼氏役〟√A'  作者: お徳用エチケット袋


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12.不安と成果

 ──翌日。

 小鳥遊が村井先輩の兄に会うと言っていた土曜日。


 俺はそわそわとした気持ちで朝を迎えていた。

 何か決定的なことがわかれば、俺に連絡がくる手はずになっている。

 現在時刻はまだ朝の八時なので、小鳥遊は出かける前だと思うが……それでも、気が急いてそわついてしまう。


 気を落ち着かせようと、普段の週末のように朝食を食みながらリビングでゲームを起動してみるが、やはり落ち着かない。

 正午までそんな風に過ごしていたが、小鳥遊からの連絡はまだない。

 部活の先輩とそのOBの兄と会っているのだ、そうスマホを取り出すタイミングもないだろうとは思うが、そろそろ連絡の一つもあったっていいんじゃないだろうか。


「まだか……」


 袋麺で簡単な昼食を済ませ、無駄に部屋の掃除などして気を紛らわせるものの、いつまでたっても鳴らぬスマホに気がそぞろで、効率が悪い。

 焦ってはいけない。何なら、明日にでも時間を取ってじっくりと聞くでもいいはずなのに、俺は何を焦っている……と自分に言い聞かせて、深呼吸する。


 ……小鳥遊を信じて待つしかない。


 それしかできない俺が、落ち着きをなくしてどうするんだ。

 そう自戒して、俺は腹ごなしがてらのランニングに出ることにした。

 考えがまとまらないときは、身体を動かすに限る。


「よし」


 ランニングウェアに着替えた俺は、軽く気合を入れて家を出る。

 家から歩いて十五分ほどの場所に比較的大きな緑地公園があり、散歩するには丁度いい場所があるのだ。

 今日は天気もいいし、気晴らしするには丁度いいだろう。

 まずは準備運動がてらにウォーキングから始める。

 ここのところ、少しばかり運動不足だったからいい機会だ。


 ……そう考えて、ランニングを開始すること一時間。

 緑地公園をぐるりと一周して家に帰ってきた俺は、すっかりと汗だくになって家に帰りつく。

 だが、疲れた身体とは逆に気持ちは少しばかり落ち着いたようで、ランニングポーチからスマホを取り出したときにも、通知のないホーム画面にそれほどの落胆はしなかった。


 小鳥遊のことだ、うまくやっているはず。

 あいつが任せろと言ったのなら、それを信じるのが俺のするべきことだ。

 軽くシャワーで汗を流し、リビングで冷えた麦茶を飲みながら、撮りためた海外ドラマなどを見て昼下がりを過ごす。

 ふと、時計を見ると針は午後五時を少し過ぎたところだった。


 小鳥遊からの連絡はまだない。

 そろそろ解散して帰路についていてもいい時間だが……。

 いや、まだ五時だ。小中学生じゃあるまいし。

 ましてや、全員が同じ部活となれば話の止め時がわからないこともあるだろうし、〝カレ〟について探るために話を広げる必要もあるだろう。

 ここで俺が焦ってどうする。連絡を待とう。


 ──午後7時半。


「まだか……?」


 朝のそわそわとした気持ちとはまた違う、落ち着かなさが心の底から這い上がってくる。

 不安か焦りか、その両方か。それが俺の心のウェイトをじわじわと占めて苛んだ。

 しばし耐えるが、いよいよ我慢できなくなった俺は、メッセージアプリを起動して、小鳥遊に「どうだった?」と送る。


 ……既読は、つかない。


 電話をするべきかどうか悩んでいたところ、メッセージアプリの画面に既読が付いた。

 それに少し安心するが、返信はなかなか来ない。 

 やきもきしながら画面を凝視していると、メッセージアプリの画面が電話の着信を知らせる画面に切り替わった。


「──小鳥遊!」


 即座に応答ボタンを押した俺に聞こえたのは返事ではなくガサゴソという雑音と、それからすぐに電話が切れたことを報せる「プープー」という電子音。

 着信履歴からすぐにかけ直すが「おかけになった電話は現在……」というメッセージが流れるばかりで、俺はスマートフォンを手にリビングをうろうろする。


 何かあったのだろうか?

 警察に連絡するべきか?

 いや、しかし……何と説明する?


 高校生の後輩が、部活の先輩の家に遊びに行って帰りが遅いなんて、保護者でもない俺が言って取り合ってもらえるとは思えない。

 どうするべきだ、俺は。

 迷いと焦りを先走らせたまま、しばらくそんなことを考えていると、メッセージアプリが着信を知らせる音を鳴らす。

 驚きのあまりスマートフォンを取り落としそうになりながらも画面を見ると、それはやはり小鳥遊からのメッセージ。

 それには短いメッセージと……一枚の画像が添付されていた。


 『正体判明』というごく短いメッセージに添付された画像は、電子学生証らしいものをスクリーンショットしたもの。

 それは確かに西方治大学のマークが入っており、顔写真と名前、学部、入学年と学生番号がはっきりと記載されていた。


 〝カレ〟の御尊顔は、思ったよりも普通……というのが、第一印象。

 顔つきから受ける印象は悪く言えばなよっとしていて、良く言えば優し気にも見える。

 派手さはなく、少し伸びた黒髪に銀縁眼鏡をかけたその顔は、唯や俺にこんなことをさせるヤツにはまるで見えなかった。

 画像を食い入るように見つめていた俺は、ハッとする。

 小鳥遊に返事をしないと。


『さすがだな! よくやってくれた。今度はパンケーキにパフェもつける』


 送信したメッセージはすぐに既読が付き、返信が来た。


『スマホの電源が落ちてしまいました。また連絡します』

『了解。もう遅いから気を付けて帰れよ』


 ひとまず安心した。

 何かあったのかとひやひやしたが、無事なのがわかればそれでいい。

 それに、大きな成果があった。


「……笠森(かさもり) 利彦(としひこ)。これが、〝カレ〟の本名か」


 そう独り言ちて、小鳥遊がもたらした決定的な手掛かりに少しばかり興奮する。

 顔もわかったし、学部もわかった。

 これがあれば、大学で待ち伏せることだってできるし、接触は容易い。

 今まで完全に謎の人物だった〝カレ〟の正体があっさりとわかってしまったことに、やや拍子抜けこそするものの、俺は「ここからだ」と気合を入れ直す。


 まだ何も解決してはいないのだ。


 ここから〝カレ〟と対峙し、どうするかを考えなくてはいけない。

 唯と別れるように勧告するのか、NTR(こんなこと)をやめるように説得するのか。

 いずれにしても、ようやくスタートラインに立てた。


 そのことに俺は少しばかり気を軽くする。

 本当に小鳥遊には、頭があがらない。


 この問題が上手く解決したら、俺は小鳥遊のお願いを一つ聞くことになっている。

 なんなら前払いでもいいと言ったのだが、当の後輩が「全部終わったら聞いてもらいたいコトがあるっス」なんて言ったので、まだ内容は知らない。

 ただ、今回の件で大きく進展したこの問題は、そう遠くない未来に『全部終わる』と思う。


 小鳥遊が俺にどんなリクエストするのかはわからないが、あの後輩の事だ……そう無茶は言うまい。

 あれで、気遣い上手な奴なので俺を軽く困らせることはあっても、できないことを頼むことはしないはずだ。

 せっかくだから、明日の日中にでも会いに行ってそれを聞くのもいいかもしれない。

 今日の話も詳しく聞きたいし。


 いったい、どんな風に話を持って行けばあんな個人情報を引き出せるのだろうか。

 小鳥遊のコミュ力の高さには驚かされる。


『明日、よかったら会えないか?』


 メッセージアプリにそう打ち込んで送信するが、既読はつかない。

 そもそも、さっき最後に送ったメッセージも既読が付いていないようだ。

 電源が切れたと言っていたし、きっと明日の朝にでも連絡があるだろう。

 そう考えた俺は、息を吐きだしてソファに座り込む。


 今日一日、緊張の連続だったせいか少しばかり疲れたのかもしれない。

 そのままごろりとソファに倒れ込んだ俺は、まばたきの途端に眠気に負けた。


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