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01 行き遅れになりたくない

 19歳の誕生日をむかえ、私はその年齢にあせりを感じていました。

 私は伯爵家四姉妹の末っ子で、上のお姉さまたち3人は遅くても17歳までに結婚しています。


 ですが私、まだ「おひとりさま」の実家暮らしなのです。

 19歳。まだなんとか……ギリギリ「ご令嬢」に引っかかっていますが、伯爵令嬢の20歳は完全に「行き遅れ」です。


 猶予ゆうよはあと1年。

 私の容姿ようしは貴族の令嬢として、甘く採点さいてんしても平均です。


 上のお姉さまたちとくらべると、はっきりとおとります。

 そんなのは自分でもわかっています。


 なんといいますか、地味なんです。

 顔が。


 はながないというか……普通?


 プロポーションは悪くないですよ?

 性格だって……ねぇ?


 そう思いたいですけど、実際この年齢になるまで、私に縁談えんだんはありませんでした。

 上のお姉さまがたは、全員「申し込まれて結婚した」のにです。


「あなたもそろそろ結婚しないと、行き遅れてしまうわね。どうしましょう?」


 することもないので読書をしているふりをしていた私に、お母さまがため息まじりにいいました。


「大丈夫ですわ、お母さま。きっとよいかたが私を見初みそめてくださいます。お姉さまがたのように」


 そんなわけない。

 自分でも思ったし、お母さまはもっと思っただろう。

 その証拠に、お母さまはすごくあきれた顔をして、


「はぁーっ」


 大きなため息をつきました。


 ですがそれから3日後。

 お父さまが、私に縁談を持ってきてくださったのです。

 

 ありがとうお父さま。

 さすがは陛下の秘書官をつとめているだけはあります。


 というわけで私は、会ったこともない隣国の伯爵家の三男の婚約者となり、結婚準備に追われる毎日に入りました。


 入ったの、ですが……。


 その結婚話なのですが、私の準備がととのっても相手側からは、


「もう少し待ってほしい」


 としか連絡がありません。


 そして婚約が決まってから1年以上が経過して、一方的に婚約を破棄はきされました。


 とはいえ婚約破棄といわれましても、お会いしたこともないかたですから、どう悲しめばよいのかわかりません。

 怒りは湧き上がりましたけどねっ!


 ですが、まぁ、こうなってしまっては仕方がありません。

 お相手の家にはそれなりの違約金をんでいただきましたし、もうどうしようもないです。

 

 3番目の姉さまの嫁ぎ先が急にお金がりようになったらしくてですね、お母さまがいうには、


「ちょうどよかったわ」


 だそうです。


 なにがちょどいいかというと、違約金が入ってくるタイミングがですよ。


 私の違約金のはずなのですが、


姉妹しまいは助け合わないと」


 ともおっしゃっていましたわね、お母さま。


 それは……まぁ、いいです。


 よくはないですけど、いいことにします。

 私だって、姉さまが困るのは嬉しくないですから。


 ただですね。結婚の準備をしている間に、私は20歳になってしまいました。


 20歳。


 はいはい、行き遅れ令嬢です。

 完全にです。


 私だって20歳で結婚していないご令嬢がいたら、「行き遅れ」だと思いますし。


 私の破談はだんに慌てるお父さま。

 さとったように落ち着いているお母さま。

 呆然ぼうぜんとする私。


 とつぎ先が見つからなかったら、どうしよう……?


     ◇


 と思っておりましたが、国王陛下のお取りなしで、あっさりと次のお相手が見つかりました。


 もともと、破談はだんになった私の婚約が国王陛下のご紹介によるものらしく、責任をお感じになられたみたいです。


 はぁー、よかったぁ~。


 ひとまず安心です。

 今度も婚約こんやく破棄はきにならなければ、ですけど。


 20歳の行き遅れ令嬢の私にきたお話は、正直なところ前回よりも格上の相手との縁談えんだんでした。

 といっても正妻せいさいではなく、第七夫人ですけど。


 レイムラム王国国王、イムラム三世陛下。


 はい。私は異国の国王の第七夫人として、見知らぬ土地にとつぐことになったのです。


 わかります。行き遅れの伯爵令嬢としては、考えられないくらい破格はかく縁談えんだんです。

 イムラム三世陛下は27歳で、まだお若いかたらしいですし。


 ただレイムラム王国は、遠いのです。

 私は二度と、この国には戻ってくることができないでしょう。


 簡単には行き来できない、そのくらいの距離です。

 片道3ヶ月くらいでしょうか。


 とはいえ、お話が来てからはすごい急展開で、私は最初の婚約破棄から100日後には、レイムラム国王の第七夫人として、その身はレイムラム王国にありました。


 その間、私は旦那さまとなったイムラム三世陛下と面会することすら叶わず、いつどこでどうやって自分が第七夫人になったのかわかりませんでしたが。


 ただレイムラム王国から私を迎えに来てくれた人たちが、レイムラム王国に入国して以降私を「第七夫人さま」と呼ぶようになったので、


「あぁ、私は第七夫人になったんですね」


 と思うようになっただけです。


 そんな、自分でもいつ結婚したのか曖昧あいまいな私なんですけど、どうも宮殿にはあがれないみたいなんです。


 なんでも第二夫人が私を宮殿にあげることに反対していて、このあたりの事情はわからないんですが、第二夫人は宮殿というか王国でもすごい権力者らしく、国王陛下もおいそれとはさからえないみたいなんです。


 なので、ムリです。ごめんなさい。

 第七夫人におかれましては、王都から離れた土地にある離宮りきゅう管理かんりをお任せしますので、そこで国王がおとずれるのを待っていてください。


 訪れるかどうかはわかりませんけど。

 たぶん、訪れませんけど。


 という話に落ち着きました。


 はぁー、別にかまいませんけどねっ!


 イムラム三世陛下におかれましては、私に興味はないけれど、「国王どうしの付き合いがあるからもらってあげた」ということでしょうかね。


 離宮で、来るか来ないかわからない旦那さまを待つ生活。

 退屈だろうけど安定した暮らしでしょうから、恵まれた身分なのはわかります。


 伯爵令嬢から、国王の第七夫人へ。


 大出世ですよ!


 私はもう20歳ですけど、まだ20歳なんです。

 訪れる可能性の低い、旦那さまを待つだけの生活……ですって。


「これから先、長い人生だなー……」


 そう思っても、仕方ないですよね?

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