Eternal First Love 4
ふと、空を見上げる。
「由利くん、見て」
腕の中にいた由利くんがゆっくりと顔をあげ、私の後ろに広がる空を見た。
「星だよ、流れ星がいっぱいだよ」
「ーーっ……」
その光景に息を飲む。
由利の中で、幼い頃の記憶が駆け巡った。
***
「じいちゃん! いま、流れ星が見えたよ!」
ふたご町の丘の上、小さな望遠鏡を前に少年が空を指さす。
老人の腕に抱かれ、少年は目を輝かせていた。
「星はロマンがあるな。由利も好きになってくれたら嬉しい」
「うん! 星ってすごく綺麗だ」
望遠鏡ではなく、直接空を観ると星よりも月が大きいことに気づく。
黄金に輝くそれを見て首を傾げた。
「うーん、でも月の方が大きいよなぁ。星と違ってすぐに見つけられる」
「星はな、小さく見えるけど本当はとっても大きいんだ。遠いだけで本当は太陽より大きいものかもしれない」
その言葉に少年は目をギョッと大きく開いた。
「えーっ!? じいちゃんよりすごいってこと!?」
「んん? どういうことだ?」
「だってじいちゃんはみんなの太陽だから! オレ、じいちゃんみたいになりたいよ!」
思わぬ発言に老人は目を細め、穏やかに微笑む。
「そうか。でもな、じいちゃんは星がいい!」
「わっ!?」
少年を後ろからギュッと抱きしめ、いたずらっ子のようにしわくちゃになって八重歯を見せた。
「星はたくさんある。可能性は無限大だ」
少年の頭を撫で、特定の星を指すわけでもなく空に道標を出す。
「由利にしか照らせない星だってある。月は一人で輝けないのと同じようにな」
「あんなにキレーなのに、一人じゃ輝けない……」
妙に心がワクワクしてきて、ニンマリと笑う。
こんなに心躍る星空。
宇宙はロマンがいっぱいだ。
「きっと照らしてくれる人がいるから圧倒的になれるんだね!」
「……あぁ。由利はどんな大人になって、どんな風に輝くのか。……楽しみだなぁ」
空に流れる星。
1998年の大火球。
燃えるような朱の色……。
じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん。
ずっと会いたかった。
でももう大丈夫。
自分の輝き方、探しに行くよ。
オレを可愛がってくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
じいちゃんが大好きだった。
これからもずっとずっと、じいちゃんが大好きだ。
だけど、じいちゃんと同じくらい大好きな子がいるんだ。
オレが器をあげたただ一人の相手だよ。
***
「時森、これ……」
病衣の胸ポケットから粉々になった小石を取り出す。
一見、何かわからなかったがよく見ると七色の石だった。
「割れちゃったの……?」
「ずっと持ってたんだ。あの時はポケットに入れてたんだけど、目を覚まして確認したらこうなってた」
いまだにわからない七色の石。
唯一無二の輝きは、今ではどこにでもある石ころのようだ。
「割れるものなんだ。……結局これ、なんだったんだろ?」
「時森?」
うーんと唸り、考えてみるもやはり答えは出ない。
そもそも答えがわかるならば、タイムリープという摩訶不思議な現象にも回答がつくはずだ。
「ま、割れちゃったなら仕方ないね。大丈夫だよ、由利くん」
わからないものはわからない。
それよりも大切にすべきことは目の前にあるのだから。
この温もりが、私の答えだ。
「これからは私が一緒にいるから」
「一緒に……いてくれるの?」
「私が由利くんといたいの。ずっとずっと好きだった」
長年、拗らせた初恋。
「心はいつだって由利くんに向いてた。だけど由利くんはそばにいなくて……ちゃんとしなきゃって、しがみついた生き方をしてきた。そんな風に生きてたら拗れて拗れて……寂しいばかりだった」
彼への愛情は色褪せることなく、いつだって私を照らしてくれた。
私の色は、無色でないと知ることが出来た。
「私は由利くんが大好き。私の初恋で、拗らせた恋になって、現在進行形の想いなんだ」
この世界で一番価値のある笑顔。
あなたが笑うと私も笑顔になれる。
「由利くんと出会ったときに見た笑顔に心惹かれて、それからずーっと私の一番星なんだよ」
「……っありがとう」
出来ること、出来ないこと。
それも含めて由利くんで、私はその色が好き。
完璧じゃないから大好きなんだ。
「オレも、ずっと芽々が好きだった。 今も、大好きなんだ」
「一緒に生きよ?」
空を光らせるのは流れ星。
ふたごの空は、やさしかった。
「二人ならなんとかなるよ。 星祭りだって、あんなすごいこと出来ーーー」
唇に触れるは胸をくすぐるちょこんとした温もり。
まるで高校生に戻ったかのような、初々しいそれに笑った。
「大好きだ。一緒に、生きよう」
「……うん!」




