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Eternal First Love 3

「私は仕事も辞めちゃったし、ずっと都会で枯れてきた。なーんにもないよ」



少しずつ少しずつ、ワクワクした心で行動出来ていた私がいなくなった。


何かを行動する前に他人の目が気になり、怯えながら取り組んでいた。


ミスが連鎖し、伺ってから取りかかるに切り替えるとやがて面倒な人間となり、無価値の烙印がおされた。


残ったのは昔から変わらない、自分が押し込めてきたものばかりだった。




「あったのは由利くんが好きって気持ちだけ。私には世界で一番、由利くんが最高で素敵な人なんだよ」


「……今までのオレは、オレじゃないかもしれないって言っても?」



不安そうな表情は、小さな男の子と変わりない。


なんとなくその顔を見たことがあるような気がした。



「オレはずっと、じいちゃんの真似をしてただけの……」


「それも含めて由利くんでしょ? おじいさんが由利くんを生かした」



ペタペタと由利くんの頬を触り、親指と人差し指で挟んでみる。


何度触っても由利くんは由利くんのままだった。



「似てるけど二人は違う。だって由利くんはおじいさんからたくさんの愛情をもらった最高の人なんだから」



見つめれば見つめるほどに愛おしさが増す。


黒真珠に映る自分はとても幸せそうで、こんな風に笑うことが出来るのだとはじめて知った。



「私が好きなのは、愛を知ってるからこそ頑張ろうとする黒咲 由利くんだよ」


「……ありがとう」




涙がポロポロこぼれ落ちる。


真珠のような淡いキラキラが頬を濡らし、私の手を濡らしていく。


拭っても止まらないそれに愛おしさを感じた。



「オレ……じいちゃんに会いたかった」


「うん」


「またじいちゃんに褒めてほしかった。じいちゃんの凄さ、絶対に消したくなかった」


「うん」


「じいちゃんが残したもの守りたくて、それでオレがもっとそれをすごくしてやるんだって、そう思ってた」


「……うん」


「なのに残ってたのは壁とプライドばかり。 何にも……守れるだけの力はなかった……」


「……っうん」




せき止めていた叫びは止まらず溢れ出す。


やっと、由利くんは恐怖の大王が起こした現実に泣き叫ぶのだった。



「うっ……うぁあ……ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!! じいちゃんっ………じいちゃんっ!!!!」



空が夜に染まる。


黄昏の色はすっかり消えてなくなっていた。



「なんでこんなもんだけ残してくんだよ!

プライドだけデカくなって他はなんも残らなかったじゃないか!!


何も守れなかった!

オレは弱くて、なんの力もなくて!!


何一つ、形にならなかった……。

頑張っても頑張っても全部ダメだった!!


結局、全部失った……。


親父の気持ちだって、わかってたのに全然寄り添えなくて……もう謝ることも出来ない!!」



足元から崩れていく彼を、支えることしか出来ない。



「ごめん、ごめんなさい……。


守れなくてごめん。

助けられなくてごめん。


親父の夢、叶えられなくてごめん。


……ごめんなさい」



彼の声は、自分を突き刺すようなたくさんの針だった。


じわじわと血が流れ、いつの間にか血溜まりの上に立っている。



「うっ、うぅ……やだよ、じいちゃん。

会いたい。じいちゃんに会いたいよ……」



目も、耳も、覆ってくれる人はいない。



「じいちゃん……」



1999年、蝉が鳴く7の月末のこと。



灼熱の中で恐怖の大王により、小さな男の子は時を止める。


月に太陽の残像をみて、ほんの少しだけ動いていた奇跡。



月も見えなくなった世界で、星は遠くて誰もその光に気づかなかった。


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