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Eternal First Love 1

病室のベッドでゆっくりと目を開くと、白い天井が目に入った。


蛍光灯の光が強くて眩しい。



「ん……」


「芽々!?」


「おねーちゃん……?」



泣きそうな顔。


だけどどこか呆れた愛情に満ちた眼差しだった。


かと思えば目尻をつりあげ、手を勢いよく伸ばすと私の頬を思いきり引っ張った。




「あんたって奴は! 無茶ばかりするんだから!」


「ぴゃああああっ! ごめんなさいぃぃ!!」



私の頬はよく伸びる。


そういえば幼い頃は百々に色んなところを引っ張られてギャン泣きしていたと思い出す。


長年離れていたため、百々との交流も久しく感じた。




「……おねーちゃん?」



百々の手が止まり、離れていく。


ヒリヒリ痛む頬を撫でながらうわ目にじっと百々の顔を見た。



「バカ芽々。心配ばっかかけて。丸一日寝てたのよ」



何歳になっても姉は姉だと実感する。


普段、頻繁に連絡するほど仲良しな姉妹ではないが、いざという時は駆けつけてくれる。


憎まれ口を叩きながらも、変わらずに接してくれる百々に涙が出た。



「うん。ありがとう、おねーちゃん」


「動ける?」


「……うん」



ベッドから身体を起こし、百々の手を取り立ち上がる。



「黒咲くん、先に目を覚ましてるよ。会いに行くんでしょ?」


「黒咲くんっ!」



その言葉に反応して足を前に出すも、ずっと寝ていたためにふらついてしまう。


百々に抱き止められるも、あまりの慌てように深いため息が頭上で聞こえた。



「落ち着きがないのは相変わらずね」


「……えっと、黒咲くんの病室は」


「……バーカ。あんた何歳だと思ってるのよ」


「えへへ」


「褒めてないから」



***



「由利、ごめん。本当にごめん……」



由利が入院する病室には拓司が見舞いに来ていた。


ベッドから上半身を起こし、無表情に、まっすぐに拓司を見ている。


いつもニコニコしていた由利が全く笑わないことに動揺しながらも、拓司は声を震わせながら本音を伝えた。




「ムカついてた、けどそれ以上に由利が好きやった。あの時、俺も余裕なくて……本当にごめん」


「大丈夫、わかってるよ」



ゆっくりと、ぎこちなく口角が上がっていく。


泣きたい気持ちをこらえて笑顔を作る子どものような顔だった。




「お互い、ボロボロだな。これが30歳の大人だぞ?」


「あ……ぁあ……、ごめ、ごめん……。っぁああああああ!!!!」




だんだんと泣くことが許されなくなる。


泣くのはズルい。


子どもじゃないんだから。




そうして泣くことを忘れていく。


泣きたい気持ちが消えるわけではないのに、泣き方だけが抜けてしまい、内側にとどまってしまう。


大人なんてそんなものだ。



由利は穏やかに、ようやく拓司を正しく認識するのだった。



(うわぁ、入りにくい。山村くんと何かあったのかな?)



勢いのまま病室の前に来たものの、緊張してしまい唾を飲み込む。


気合いを入れて扉を開こうとすると、中から声が聞こえてきて開くに開けない。


黒咲くんと拓司が話しているようだが、拓司の泣き声が響いておりなかなか入るに至らない。



(なんだろ、探してる時も様子おかしかったからなぁ)



「……邪魔」


「ま、麻理子様!?」



目を細めて冷ややかにこちらを見てくる。


キョトンとした顔をして見上げてくる静夜としっかり手を繋がれていた。




「静夜くん、こんにちは〜」


「……こんにちは」


「恋人が生きてるんだからなりふり構わず行けば?」


「えぇ……でもぉ」


「男の泣きっ面に需要なんてないから」


「わっ!?」



ガラッと扉が開かれ、思いきり突き飛ばされる。


ピシャンと音をたてて扉は閉まり、パントマイム中のようなポーズで病室に乱入することとなった。




「……時森?」


「えっと……ど〜も~……」



ヘラヘラ笑って誤魔化すも、空気をぶち壊して乱入してしまったことは変わらない。


心の中でハラハラと泣くしかなかった。



「……俺、飲み物買ってくる!」


「拓司!?」



椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にして病室から飛び出す拓司。


何も言っていないはずなのに、悲鳴のような叫びが聞こえた気がした。


拓司が去り、残された私はチラリと黒咲くんに目を向ける。



「時森、オレ……」



バツが悪そうに目をそらす黒咲くんに私は手を伸ばしていた。



「会いたかった」



変わらない。


夜空に浮かぶ星を観るように、焦がれる気持ちは何一つ変わらなかった。




「ずっと今の黒咲くんに会いたかった」



ぎこちない手つきで背中に回される手。


高校生の時と比べてずいぶんと荒れており、腕が赤く腫れていた。




「……ごめん」


「ありがとう、だと嬉しい。なーんにも気づけなかったから、来るの遅くなっちゃった」


「変わらないな、時森は」



その言葉に衝撃を受け、とっさに黒咲くんの肩を掴んで顔を上げる。



「ええー、変わったよぉ? シミ、そばかす、ほうれい線……めちゃくちゃやばいんだよぉ」


「大丈夫。 全部かわいいから」



ーードッキーン!!


心臓が飛び出すくらいに跳ね上がる。




「か、かわ、かわいい!?」


「うん。オレにとって時森はずっと……かわいいよ」


「あ、ありがとう」



途端に恥ずかしくなり、二人して真っ赤になって目をそらす。



(ちょっと待って! これ、ズルいよね!? かわいいとか……高校生じゃないのに!?)



ドキドキと胸がくすぐられる気持ちが止まらない。


だがそれに集中するわけにもいかなかった。


病室の扉が僅かに開いており、そこからいくつかの視線を感じる。


察するに麻理子と拓司、百々あたりが覗き見をしているのだろう。



(ああー! くそぅ、めちゃくちゃみんな見てるー!)



それは黒咲くんも気づいていたようで、困り気味に笑っていた。



「お、屋上行かない? そろそろ夜になるからさ。星、見に行こうよ」


「……うん!」



私たちが動き出すと、外にいた面子がササーッと逃げ出していく。


なんだかおかしくなり、黒咲くんを見上げると柔らかく微笑み返してくれるのだった。


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