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Black Lily 15

「くも膜下出血ですね。山に登られたときに発生し、このクソ暑い中でそのままお亡くなりになられたかと。まぁ、事件性はないと思いますが一応、捜査しますねー」



淡々と状況を由利に伝えるも、由利になんの実感もない。


いつも苦痛に表情を歪める貴利がそのまま眠っているだけにしか見えなかった。



「ずいぶん、身体ボロボロだね。ストレスかな? 君、息子さんならもう少し見てあげた方がよかったんじゃない? もう高齢者だよ」


「……オレは」



「……ごめん、君にもそんな余裕はなさそうだったね。とりあえずこれからドタバタするだろうけど、何かあれば役場に相談してね」



それから流れるように葬式をこなす。


貴利を失ったことで黒咲漆器の3代目となったが、由利の目に光はない。


流行りのウイルスのこともあり、由利はしばらく作業場をしめた。


通販のみの形態にシフトしたが、もうそれは由利には希望もなくルーチン化した作業でしかなかった。





「何日、経った? 親父って、何歳だった? 周りがなんか言ってたけど……なんだ?」


(もう、何も考えられない。 よくわからない。……つかれた)



ただ無気力で、身体が重くて動けず、引きこもるようになった。


最初は箔史を含め何人かが来てくれたが、それ以降誰も来なかった。


はじめて自分の孤独を知る。


仕事も流行中のウイルス感染対策で営業出来ない。


シャッターが下りたも同然。



(つかれた。眠いのに、頭が痛い。 身体いてぇな。つかれた。重たい。怠い)




(喉かわいた、けどめんどくさい。 ゴミ、はまた来週でいいか)


(食事は……いっか。 それより寝たい。つかれた)




熟睡が出来ればいい。


心穏やかに眠れればそれだけで違うから。



『あー、いつから熟睡してないのだろう』




頭の中は雑音だらけだ。





ザザッと脳内にノイズが走る。


黒い百合がゆっくりと体をしならせていく。






「みんな言ってるぜ? 7の月に大魔神がやってきて、世界は滅亡するんだ」



「……寒いな」



「……お前さんは輝利さんによぉく似とるようで、似ておらん。やけん、余計にかわいそうにな」



「自分だけ頑張ってるみたいな顔すんなよ! そういうの、本当は昔からムカついてた」



「黙れうるさいっ! なんでだ! くそぅ舐めやがって!!」









ーー7の月、恐怖の大王がやってくる。


夢の時代はもう終わりだ。


黒咲 輝利は死んだ。


あの栄光は誰も勝てない。


惨めだな。


所詮、ただ一人のカリスマがみせた世界だ。


若いんだからしっかりしなきゃ。


若い人がこれからの時代を作るのよ。






頑張ってるんだけど、やっぱりねぇ。


もう少し器用に出来ないものかしら?  


見た目だけ輝利さんに似ててもね。


今月のお給料、まだですか?

先月も遅かったですよね?



星祭りは無償でやってくれた人がいたからだよ。


もうあんなのはやれないよ。



貴利さんはねぇ、由利くんもうちょっと見てあげないと。


人様に見られる立場なんだから。






うるさいうるさいうるさい!!!

  

オレが悪いって言うのか!?


事故でお金をかけてしまった。


でもお金がなくてまともに治療が出来なかった。


今、片足が上手く動かない。


だが痛みさえ我慢すればそれっぽく歩ける。




若いんだから。


貴利さんをちゃんと見なきゃ。


漆器盛り上げないと、町を盛り上げないと。


黒咲 輝利が築いたものが壊れていく。





あまりのノイズ量に、由利は壁を叩いて地面にしゃがみこむ。


雲のかかった夜空の下、冬の寒さが白い息を吐き出させた。



「……もう、どうでもいい」



みんなにとっては娯楽のメディアだった。


恐怖の大王が7の月にやってくる。


それで壊されたのは黒咲 輝利からはじまり、黒咲家を蝕んでいった。


ふたご町の過疎化は進む。


復興会会長の息子で、若手代表としてがんばらなくてはならない。


頑張って頑張って頑張って……何もかもが壊れた。




この手は何も成すことが出来なかったと思い知る。



「大王は……あの時全部持っていった」



乾いた笑いが息苦しさを増す。



「終わればよかったのに。終わらなかった世界でオレは……」




星を見たんだ。




「……星、みたいなぁ」



唯一美しいものとなった光る星々の輝く川。


天の川が見たい。


星だけは裏切らない。


足をふらつかせ、手を伸ばし、気づけば吸い寄せられるように水の中に潜ろうとしていた。


水の冷たさと、たゆたう光る世界に身を委ねる。


ただ星に惹かれた行動が、自滅的なものだった。



【人はそれを、絶望と呼ぶ】







『黒い百合〜Black Lily〜』




〜時は捻れ、七色の石が輝く〜



【終わった世界】


【未来へ続く世界】



〜星の奇跡が、黒百合を分岐する〜





その花の中心には月がある。




「まだ世界は終わってないよ? だから……私と未来を歩んでくれませんか?」




君は、焦がれた月だった。


目が丸く、笑顔の可愛らしいお月様みたいな女の子。


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