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Black Lily 11

***



何年も時は流れ、毎年恒例の星祭りの日。


由利は運営スタッフとして星祭りの年越し準備をしていた。


いそいそと動きながら屋台の前を歩いていると、高校生くらいの女の子と老婆が二人仲良さそうに歩いていた。



「なんか子どものとき、キラキラした石を投げた気がするんだけど、全然やってないねー」


「人が減ったからねぇ」


「ふーん……あ! ねぇ、おばあちゃん! チーズハドック食べたい!」


「なんだい、そりゃ」


「知らないの!? 韓国の食べ物で流行ってるんだよー!」




この女の子はあの光る石を投げたことがあるのだろう。


幼い子どもがあの時の自分と同じくらいに大きくなっていて時の流れを実感する。


そうして屋台の通りを歩いているだけで色んな会話が聞こえてきた。




「え、遠藤先生と年越しが出来て、ゔ、れじい、ですっ!!」


「橋場先生、声が大きいです。生徒に見つかったら……」


「……先生?」



懐かしい顔ぶれに思わず声をかけてしまう。


ピタリと足を止め、振り返る二人につい苦笑いを浮かべてしまった。




「……黒咲?」


「あ、はい」


「うぉぉー、黒咲かぁ。卒業ぶりだから何年ぶりなんだろうな。 ……お前、大丈夫か?」


「そんなに変わりました?」


「うーん、なんか……疲れてるよな。陰った感じが……」


「橋場先生はもう少し言葉考えて下さい! だから生徒に嫌われるんですよ!」



ーードクン。



(あ……やばい)



冷たい汗が流れる。



「黒咲くん、ちゃんとご飯食べてる? 睡眠はとれてる?」


「ーーあ、一応……はい」


「隣町にはなるけど、知り合いにお医者さんいるから紹介する。私、変わらずあの学校で働いてるからいつでも来て」


「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」



(あぁ、イタイな……)


(でも下手なことをしたら全部“黒咲”に泥がついてしまうから)



粘り気を帯びた泥。


そこに咲く花は、いつの間にか“そんな色”になっていた。



「由利くん、ちょっとこっち手伝ってー」



神社の階段から大きな声で由利を呼ぶ声が意識を引っ張りあげる。



「あ、はいっ!」



反射的に笑顔を浮かべ、爽やかに掴みどころのないスイッチを入れる。


消えかかった箱は叩けば直る。


一瞬の休息も、叩いて叩いて、人工の光を放たせる。


「ではまた。……橋場先生、頑張ってくださいね」


「よ、余計なお世話じゃゴラァ!!」



ケラケラと笑い、走り去る由利。


少しだけ右足の動きが遅れており、ひょこひょことした走り方だった。


その背をみて詩は胸元で手を握りしめ、俯く。



「……卒業後にまで関与は難しい。でも、大人になって危なくなる人もいるのよね」


「遠藤先生?」


「私も、奏ちゃんのこと見ててあげないとね」




箱庭を出たあとも、危うさは消えない。


子どもの危うさと、大人になってからの危うさはまた……違うものだった。




***



河川敷で星祭りの石投げがはじまる。


由利はマイク片手に周りを盛り上げようとし、年越しのカウントダウンをした。



「「3、2、1……」」



風を切る音と水の跳ねる音。


ライトアップと共にパラパラとした拍手と歓声が上がった。




「あけましておめでとうございます!!」



明るく楽しい、新しい年と始まりだ。


あの石がいつか再び光ることを夢見て、由利は声をはりあげ、気持ちを上げていく。


だが由利の思いとはウラハラに、周りはザワつき戸惑いの空気に満ちていた。


一点に集まった視線に気づき、人をかき分けていくと高校生くらいの年齢の女の子が後頭部を抑えながらしゃがみ込んでいた。




「……え?」


「うっ……」


「えっと……」



暗くてわかりにくいが、血なまぐささが鼻をくすぐる。


後頭部から血を流しているようだ。


誰かが投げた石が女の子の後頭部に直撃し、出血に繋がっていた。



その光景に血の気が引く思いをする。



(なんで……? だって、横一列に並んでもらってるのに……)



動揺に頭が冷静に回らない。


それでも由利は運営側の人間であり、行動しなくてはならなかった。




「応急手当を……」


「なんで安全対策出来てないの!? こういう危険性くらいわかるでしょう!?」




女の子と共に来ていた老婆が、目くじらを立てて吠える。



「それは……」


「うぅ……いたい、いたいよぉ!!」



(どうすればいい? オレはどうしたらいい?)




息がヒュッと内側に引っ込んでいく。


気味の悪い汗が毛穴から吹き出して、視界がぐらついていく。



「運営さん、アナウンスは?」


「あ……えっと、み、皆さん落ち着いてください! まずはこの場から離れ、安全確保のために神社まで移動をお願いします!」



いくら冷静さを装うと声が震える。


他の運営も動き出すが、由利以外はほとんどが高齢者だ。


若い力に移行していくなか、由利が先導を切るしかなかった。



そんな状態に、来場者としてやってきていた若者たちが写真や動画をとる。


大人はザワザワと見て、ヒソヒソと話しだす。



「ねぇ、やばくない? これ、バズるかな?」


「やめなよ、不謹慎だって」



クスクス、クスクス。


はじまりはただ、純粋に盛り上げたいだけだった。




【なのにどうして、上手くいかないことばかりなんだろう】



【最初だけの、美談ばかりが増えていく】




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