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MOON 3



「時森、オレは……」


「何にも気づかなくてごめんね。私、黒咲くんを助けたくて戻ったのに何も出来てなかった」



そっと頬を伝う水を親指で拭い、私は穏やかに力の抜けた笑顔を浮かべる。



「生きててくれて……ありがとう」


「……会いたかった」



背中に手を回され、耳元で黒咲くんの息づかいが聞こえる。


とても弱々しく、身体も細く、髪も伸ばし放題になってきた。



「ずっと、時森に会いたかった。オレにとって時森は、光だったから」


「……手紙、読んだよ。あんなの残して死のうとするなんてずるい」


「あ……」



その言葉に黒咲くんの頬は真っ赤に染まる。


きっとこれが私と黒咲くんを繋ぐ縁。


星を駆け、お互いが星に思い寄せたからの奇跡であった。




「オレは……ずっと時森のこと」


「私ね、ずっと黒咲くんが好きだったんだよ?」



ずっと言えなかった私の心。


もう躊躇いなんてない。



「ううん、今も好きなの。私、アラサーになってもまだ黒咲くんが好きなんだよ!!」



私はこの想いを誇らしく想っている。


それだけたった一人を愛し抜けたことは、あまりに一途で尊いものだと感じていた。



拗らせていようが、黒咲くんのために出来ることを考え行動出来る私は凄かったんだ。


私の原動力はいつだって黒咲くんだった。



「ずっと、黒咲くんを忘れられなかった。拗らせて拗らせて……やっとここに来ることが出来た」



指先で黒咲くんの髪を撫でる。


まだしっかりした艶やかさがある。


身体も少し痩せてはいるが、美味しいものを食べて森林でも歩けば大丈夫。


なんだったら一緒に山へ昇って星を見ればいい。


そのまま朝日を見たっていいんだ。



「まだ世界は終わってないよ? だから……私と未来を歩んでくれませんか?」



黒真珠に光が戻り出す。


艷めく光が涙に揺れ、私の目を真っ直ぐに見上げている。


くすぐったくなり、私は黒咲くんを抱きしめなおし、耳元でささやいた。



「あの漆器を持って、私のところに来てくれないかなぁ? って、私は支えられるだけの経済力とか何にもないけど気持ちだけはーー」


「時森が好きだ。ずっと、ずっと好きだった」




この瞬間だけは、時が止まったかのような気がした。


内側にゆっくりと染み渡る愛の言葉を認識するのに時間がかかってしまう。


顔を紅潮させ黒咲くんを見ると、目を赤く腫らして懇願するように頭を垂れていた。



「そばに……そばにいてほしい。もう、一人はいやだ……」


「……はい」



私は黒咲くんの頬と耳を両手で包み込む。


そして額を重ね合わせ、自然と満たされた笑顔で向き合っていた。




「私の一番星! 大好きな黒咲くん、やっと捕まえた!」




「……ありがとう」




そして私たちは限界に達しその場に倒れ込んだ。



***



「ねぇ、あれって……」


「めめりん!!」


「由利っ!!」



捜索を続けていた麻理子たちが二人を発見し、車から降りて河川敷へと走ってくる。



「びしょ濡れ……まさかこんな時期に川に入ったの!?」


「救急車呼ばなきゃ。山村、体温確保して!!」


「由利、由利ぃ……」




この状態に対するそれぞれの反応に麻理子は青ざめる。



「……この町から離れていた間に何があったっていうのよ。なんで……黒咲くん、めめりん……」



涙をこぼしても、二人の目は覚めない。


やがてサイレン音が近づいてきて、二人は担架に乗せられ、病院まで運ばれていくのであった。




【2022年12月12日(月)】


二日後にふたご座流星群を予定。


黒咲くんの自殺は回避された。


だが時間はまた続き、何も終わっていないのであった。

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