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MOON 1

どこへ向かえばいいとか、そんなこと全くわからなかった。


泣いて泣いて、ひたすら泣いて歯を食いしばって走る。


私は一番星を探している。


それだけだった。


気づいたら高校の前を走っていて、ほとんど日の落ちた世界に飲み込まれそうになる。


日が落ちるほどに星の色は濃くなるのに、私が一番綺麗だと思う星がない。




「……めめりん?」



だからその声はまるで星の導きかと思うような流れる音のように聞こえた。


前方に現れた存在に足を止め、肩を上下させる。



「ま……りこ様?」


「うわぁ、本当にめめりんなんだ。なんでここにいるの?」


「麻理子様だって」


「「……」」



お互い間抜けな顔で見つめあったあと、私の視線は下降していく。


麻理子の手に繋がれた小さな手を見つけ、その持ち主である目の大きな男の子が不思議そうにこちらを見上げていた。




「お母さん、この人誰?」


「ママの高校の友達。めめりんだよ」


「その子、麻理子様の?」


「うん、息子の静夜。ほら、静夜。挨拶して?」



麻理子の手を握りしめながらチラチラと上目遣いに頬を染めている。



「こ、こんにちは、母がいつもお世話になってます」



あまりの愛らしさに胸がドキドキした。



「こんにちは。時森 芽々といいます。麻理子様とは仲良かったんだよー」


「嘘つくな! そこまで親密じゃないわ!」


「えー?」



スパーンの突っ込んでくる切れ味は絶妙だ。


そして相変わらずの美人で、少しだけ儚い穏やかさが出ていた。




「めめりん、どうしたの? 東京行ってそれっきりだったんじゃないの?」


「……黒咲くんを探してて」


「黒咲くん? なんで……」



大粒の涙をボタボタと零す姿に麻理子はギョッとして目を見開く。


スッと目を細め、冷静に状況判断をする。




「まぁ、理由は後で聞こうかな。急いでる?」


「急いでる! 早く黒咲くん見つけないと! 見つけないと私っ──!!」



切羽詰まって私は麻理子の腕を掴み、焼けた喉で叫ぶ。



「お願い、麻理子様! 助けて!!」


「ちょっと、落ち着きなって! どうするか考えるから状況話して!」



それから黒咲くんが行方不明なことを説明した。


詳しくは言えなかったが、命が危ないと。


聞き終えた麻理子はスマホを取り出し、電話をし出す。




「麻理子様?」


「あんたも電話するの! 探す人手は多い方がいいでしょ!?」



ビシッと指をさし、パニックになるばかりの私を落ち着かせてくれる。


女王のように強くたくましい姿に私は勇気をもらい、涙を流しながら笑みを浮かべた。


それから私は里穂に、里穂が他の知人へと繋いでいく。


麻理子は奏と拓司に連絡をしていた。



それから里穂に頼み、静夜を預ける。


突然の訪問にも関わらず、なんとなく覚悟をしていたようでどーんと受け入れてくれた。


小さな子ども三人がグイグイと静夜を引っ張り、不安にさせる暇もなさそうなことに安堵する。


大人しそうな静夜に対して、ハチャメチャ元気っ子たちに麻理子は目を丸くしていた。



それから町中を歩いて探すも手がかりは見つからない。


すっかり日が暮れ、太陽が沈んだ頃に一台の車がライトをチカチカさせ、路駐した。


中から黒髪のショートヘアの女性が現れる。



「……奏ちゃん?」


「全く、めめりんは相変わらず急に巻き込んでくるね」


「その、ありがとう。仕事とか大丈夫?」



その問いに奏はニッと口角をあげ、腰に手をあてる。



「アタシ、フリーで働いてるから。にしてもここに来るのは久しぶりだなー」



麻理子に聞くところ、奏は隣町で一人暮らしをしているそうだ。


ハンドメイド作家としてネット通販メインに活動しているらしい。


急なことにも関わらず駆けつけてくれたことに、じわりと涙が滲んだ。


ぐすぐすと鼻を鳴らしながら私は気合いを入れ直す。



「ありがとう。私、他の場所も探してみる! 見つけたら連絡お願いね!」



がむしゃらに走り、私は黒咲くんを探す。


車のある奏と麻理子は他の場所を探すことにした。




「あの子、変わってない気がするのはなんでだろう?」


「アタシらとは違う関係を繋いでたんだよ。……距離感、ちょうど良かったんじゃない?」


「そっか。……さ、黒咲くん探さないとね。あたしが先に見つけたらカッコ悪いの、わかってるのかなぁ?」


「そこまで考えてないよ。めめりんはがむしゃらおバカが取り柄なんだから」



奏の毒に麻理子はクスッと笑い、マフラーに指をかけ、長いまつ毛を伏せた。



「そうだね」


「おーい、メッセージ見たぞぉ!」



そこにスーツを着た拓司が慌てた様子で駆け寄ってくる。


ヨタヨタした拓司に麻理子は掴みかかり、思いきり力を込めて肩を叩いた。




「遅い! あんた黒咲くんの自称・親友でしょ!?」




拓司は気まずそうに目をそらし、唇を噛む。


ジメジメと暗いばかりの拓司に麻理子は腹を立て、肩を突き飛ばす。



「まったく……無言にならないでよ! まずは探さないと! 心当たりは片っ端から行くからね!」



情けなく拓司は泣き出し、スーツの袖で鼻を擦る。



「由利、ごめんなぁ」


「いいから動く!」


「あだァ!? ……いた……ぃいい!!?」




容赦ない麻理子の平手打ちが拓司の背に襲っていた。


続けて奏は拓司のスネを蹴り飛ばしていた。

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