BALLAD 4
新幹線に乗っていると、今まで目に止まらなかったものが目に入ってくる。
田んぼが広がる世界で一台の車が走る。
山と山に太陽の光が差し込み、空の青さに対してグラデーションが発生した。
『本日はご乗車いただき誠にありがとうございます。ただいま進行方向右側に見えます山の隙間から太陽の光が差し込む絶景がございます。新幹線の旅の思い出にぜひ、窓の外をご覧ください』
(あぁ、キレイだな……)
こんな世界を穏やかな気持ちでゆっくり眺めるのは久しぶりだった。
毎日を急かして生きていたような気がして、景色を見る余裕がなかった。
癒されようと人工的な世界を観に行ったりしたが、意識して観るものとハッと飛び込んで見えたものの違いを認識した。
新幹線を降りてそこからローカルな電車で移動をし、最後にバスに乗る。
移動だけで時間は過ぎていき、それでも日々の疲れがゆっくりと剥がれていくような感覚がした。
『次はふたご町、ふたご町です。お降りのかたはブザーでお知らせください』
バスのアナウンスを聞き、ブザーを押す。
早くも日が傾き始めていて、空色と黄昏色が混じりはじめている。
『次、止まります。バスが停車してから席をお立ちください』
変わらない景色、変わらない空気のはずなのに、不思議とはじめて見るような感覚。
幻想のなかで高校生になっていたとしても、身体はもう何年もここから離れている。
この年齢で感じる風は思っていたより肌をしっとりさせてきた。
「ふたご町~、ふたご町です」
バスが停り、車掌が知らせてくれると立ち上がり、乗車券と小銭をあわせて払おうとする。
「……時森?」
車掌に急に声をかけられ、顔を上げるとどことなく見覚えのある顔があった。
お祭りで髭を触り、ふたごやきを作っていたおじさんの顔によく似ている……少し若い顔だ。
「……虎箔くん?」
「なんだ、久しぶりだなぁ。帰省か?」
同級生の蒲田 虎箔だ。
星祭りの日にふたごやきの屋台を出していた箔史の息子であり、元チビガキの泣きべそだ。
チビガキどころか、厳つい顔となり面影がない。
子どもと大人はこうも顔が変わるものだなとおかしくなり、クスリと笑ってしまった。
「ん、そんなとこ」
「そっか、ならこっちにいる間に飲みにでも行こうや。百々さんに連絡いれとく」
百々と繋がりがあるのか、と驚きつつもそんなものかと割り切る気持ちがある。
「わかった。それじゃ、仕事頑張ってね」
ヒラヒラと手を振り、降車する。
走り去るバスを見送り、しばらくして私は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。
「意外と話せた……のか? でも緊張はするよぉ」
頬を叩き、拳を握り締める。
(気を取り直して行こう。まずは黒咲くんの家を目指そう)
鼻息を荒くして、傾きのスピードを早めていく太陽に向かって歩き出した。




