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BALLAD 3

***


「ノストラダムスの大予言……」


「は? なに、ずいぶん懐かしいワードだね」



黒咲くんの祖父・輝利さんが亡くなったのは1999年の7月。


そして父・貴利さんが亡くなったのも7月。



世界が終わると言われていた時に生を終えてしまった祖父。


作り上げた礎を守り、未来まで盛り上げたいと願って跡を継いだ黒咲くん。


その間を繋いでいた父は何を思い生きて、生を終えたのだろうか。


祖父から父へと継がれたなかで、その二人の背中を見つめ続けた。


その果ての自殺は、二人が7月にいなくなってしまったこと。


恐怖の大王にのみ込まれた黒咲くんを思うと涙が溢れ出た。




(そうか、わかった。 黒咲くんが見ていたのは夢の終わりだ)



輝利さんが亡くなったことを境に衰退していく世界を見た。


それでも跡を継いだ父親の背中を見ていた。


だが過疎化は止まらなくて、どんどん衰退していく町を見つめ続けた。


流れる時代と老いてく背中、険しくなる表情。


ここまで絶望した理由は判明しても、見えてこない黒咲くんの呪縛もあった。


黒咲くんの家は輝利さんから始まって、それ以外が全てにおいて不透明だった。




(おじいさんが生きた一番の栄光の時期。その時代の背中を見て育った黒咲くんのお父さん)



祖父の死とともに夢は終わる。


その終わった夢に生き、覚めた世界で独り歩いた父。


栄光を言葉でしか知らない黒咲くんは、栄光で塗り固められた父の生き方を見る。


それは優しい黒咲くんにとってどう映ったのか。


終わった世界を終わらせたくなかった。


だが父親が亡くなったことでーー黒咲くんを支えていた茎が折れた。



(あぁ、なんて苦しいの? 私は何故、抱きしめる資格がなかったの?)



「……芽々? 泣いてるの?」


「私、なーんにもわかってあげられなかった。なんで寄り添ってあげられなかったんだろ」



止まらない涙を拭い、ズキズキと痛む胸をおさえる。



「一時的なものでどうにかなるほど、そんな甘いものじゃなかった」



星祭りを一度変化させ、成功させただけでは何も変わらなかった。


過去の栄光はあまりに甘すぎて魅惑的で、全てが霞んでしまう。



「……それで、あんたはどうしたいの?」


「私はっ──」





「たとえ一時的でもあんたは動いたじゃん。アタシは黒咲くんじゃないからわかんないけど、嬉しかったんじゃないの?」



その言葉に私は目を見開く。


息をのみ、喉が焼けていく感覚を味わった。




「なんでわからなかったからって芽々が気負わなきゃいけないの? そんなのわかんなくない?」


「わかんないのに私は好きだって言ってた……」


「好きならなんでもわかるの? そんなの出来たら誰も苦労しない」



何も答えられない。



「好きでもわかんないことの方が多いよ。だから分かろうと努力するもんじゃないの?」



きっと私はガチガチに考えすぎていた。



「”好きだから”努力出来るんじゃないの? そこに理解度って重要?」



あまりに完璧に好きであろうとして、私は枷を外しきれていなかった。


里穂に言われて私はようやく枷を見る。


壊せないと思っていたそれは、意外と錆びて自力で壊すことが出来るようになっていた。


涙を拭い、鼻水をすする。




「わかんなかったらわかんないって突っ込んでいく。それが芽々じゃないの?」


「うん、そうだね。長い間忘れてたけど、私って思い立ったらすぐ行動出来るタイプだった」


「周りになんと言われようと、好きにすればいいんだよ。……黒咲くんが好きなら突っ込んじゃえ」


「もうっ! 里穂のバカ!」



なんだか気持ちが楽になり、笑ってしまう。


もう認めるしかないし、行動することも怖くない。


気持ちを現状維持させるより、私は前進させたかった。



二人で笑いあっていると、電話口で違う声が入り込む。



「ママー、莉子がオネショしたー」


「それくらい自分でオムツ替えてよ! 友達が電話してきてんだから空気読んでよ!」


「でも俺も仕事行かなきゃ。遅刻しちゃう~」



「……はあぁ。ごめんねぇ、芽々。またあとでかけるわ」



里穂の深いため息に私は首を横に振る。


口角があがり、心は軽かった。



「ううん、大丈夫。ありがとね。……またあとで会おう!」


「えっ!? あとでって……芽々!?」



電話を切り、私は深呼吸をしながら背伸びをする。


窓から見える景色に目を向けて、気合いを入れた。


思い切ってそのまま電話帳に登録された番号へかける。



『──おい、もう始まってるのにまだ出社しないでなにを』


「おはようございます、部長。突然で申し訳ございませんが、今日休みます」


『当日休むなんてお前、周りへの迷惑を』


「有休、私用で休みます。あと近々退職しようと思うのでよろしくお願いします」


『なっ!? 私用で休むのは認められない! 退職も電話で済まそうなんて非常──』


「では、急ぐので。失礼します」



電話口で何か聞こえたが、もう私を堕とす声や言葉は耳に入れたくない。


私にとって不要なものは断捨離、シャットダウンしてしまおう。



「あはは、言っちゃった!」



長年の拗らせは思い切ってぶつけにいこう。


怖いものはない。


一番星を捕まえに行くだけなのだから。


ダメでもその一歩はきっと大きな一歩になる。



ーー私の初恋は、いつだって私の光だった。



(黒咲くん、今行くから!)



拗らせた初恋は、光り方を変えてみせる。

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