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BALLAD2

***



卒業式の日、みんながそれぞれの反応を示しながら卒業証書の入った黒筒を握りしめていた。


友達と別れ、校門の前で私は黒咲くんと対峙する。


風に髪をさらわれそうになるので、手で抑えながら私ははにかんでいた。




「卒業、おめでとう」


「……なぁ、時森。お前、本当に星祭りのこと覚えてないのか?」



黒咲くんの言葉に私は眉を下げ、ヘラッと笑う。



「ごめん。あの辺りの時期のこと、覚えてなくて」


「……そっか」



何故、そんなに切なそうに微笑むのか。


黒真珠の揺らめきが私を捉えて離さない。


これまで黒咲くんの笑顔を好きだと思っていたのに、この微笑みは手を伸ばさないといけないとさえ思ってしまう。


だがこの手は、黒咲くんの何者でもないから。


星に触れてはいけないとブレーキがかかっていた。



「でもありがとう。オレ、前向いてがんばるから」


「え?」


「いつか、約束果たせるよう頑張るから」


「約束?」


「……今は、いいよ。時森は時森の道を進んでくれ」


「……うん」



きっと私は大切なことを忘れてしまった。


それを聞き返すことは、何かが狂ってしまいそうで出来なかった。


キラキラした一番星に影が見える。


これまでこんな影を見たことがあっただろうか。


いや、既視感はあるのにそれを私は知らない。



「……なぁ、時森はノストラダムスの大予言って覚えてる?」


「あ、うん! 覚えてる! なんか小学生のときに話題になったやつだよね? 懐かしー!」



子どもの時に世界が終わると言ってそれぞれ笑っていたり、絶望していたりと踊らされていた。


その単語を聞いてもただ、ある日フッと終わって疑問にも思わないのだろうと考えていた。


だから今、誤魔化すように黒咲くんの前で笑う自分が気味悪かった。



「みんな世界が終わるって騒いでた」


「終わらなかったな。……あの時終わったのはじいちゃんだけ」


「おじいさん?」


「じいちゃんが亡くなったの、ノストラダムスの大予言の7の月なんだ」



ゾクッと全身に鳥肌が立つ。


これは何だろう。


一番星とはこんなに鈍い光だっただろうか?


どうして気づかなかったのだろう?


とても輝いているようで、よく見れば傷だらけだ。



「終わるはずだった世界でじいちゃんは死んだ。 オレは……まだ生きてる。じいちゃんが残した世界で生きてるんだ」


「……おじいさんのこと、大好きだったんだね。それが黒咲くんのやりたいこと?」


「うん。だから頑張るよ。親父のことも支えてやりたいし」



(その話は、私の知らない私が聞いた話?)



「それじゃ、オレ行くわ。寄るところもあるから反対方向」



右と左に分かれていく。


背を向けたとき、私は嫌な予感がした。


慌てて振り返ると、黒咲くんも振り返っていて口角をあげ歯を見せて笑っていた。



「本当にありがとう。また、会おうな。それまで元気で」


「黒咲くん! 私っ!」


「……時森?」



手を伸ばしたい。


どうして離れていく背中を思い出すのか。


はじめて見たときよりもずっと大きく、大人の体付きになっている。


だけどその背中を抱きしめたいと思うのに、この手は伸ばしてはダメだと警告を受ける。


頭が割れるように痛くなった。




「……なんでもない。三年間、ありがとう」



大好きな私の一番星。



(手を伸ばすのが怖いのは……私が弱いからだね)



ーー向き合うだけの自信を持てなかった。



「バイバイ、黒咲くん」


「……ん、バイバイ」




反対方向へ、歩いていく。


今の私は、振り返ることが出来なかった。




「また会えたらいいな、私の初恋」



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