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My soul,Your Beats 7

***



カウントダウン待ちの人々がざわめく河川敷。



「おねーちゃん。この石、うっすらとだけど光ってるねぇ」


「高校入ったらぼっちから卒業出来ますように」


「まーた言ってる。だからぼっちなんだよ。世の中もっとじゅーなんせーをもって……」



そんな何気ない会話と新しい年へのドキドキした高揚感に満ちている。



「わざわざ調べてきてよかったねぇ! おばーちゃんちの近くで面白そうなイベントやってるなんてさぁ!」


「こんなのはじめてだね。新しい取り組みかな?」


「あ、はじまった!」



キーボードがキラキラ弾くような音をたててメロディを奏でる。


川のせせらぎに馴染むような優しいメロディに、しっとりとした上品なアナウンスがのる。




『星降る夜にようこそ。ここは男女の双子が夫婦となり、のちに神として祀られる地となった場所。やがて双子の男女を神として祀るこの町では、星降る夜、ふたご座流星群にかけて星を投げて年を越す伝統がうまれました』



リラクゼーション施設に流れるようなゆったりとした癒しの空間。




『ーーというのは表のお話。実はこの双子の夫婦が喧嘩したときに石を投げたのが伝統の起源と言われています』



かと思えばメロディが変化し、アナウンスも拳が回り、熱く物語の中へ没入していった。




『ふざけんな! コノヤロー!』


『なによ、ムカつくー!』



騒ぐは双子の夫婦喧嘩。



『さぁ、大変なことになりました。石がびゅんびゅん投げられます。しかしそれを見た人間は流れ星ととらえました』



なんという自分勝手な神様の物語。


だが神様というのは割と勝手な場合が多い。


ノリに乗ったアナウンスが空高く手を伸ばし、星をつかもうとしていた。



『ああ、どうかこの夫婦が平穏になりますように。この人々の願いにこたえた者がおりました』




メロディがとまる。


かと思えば、優しいトーンチャイムの音がポーンと響き、大気に混じって広がりをみせた。




『私は星の女王。空をあまねく星々の女王』



星の女王がトーンチャイムの音に合わせて歩き出す。


光る石を握る人たちの前を通り、流れる涼やかな目で口角をあげた。



『人々の願い。それは星に届くほど強きものでした』



左手と右手、それぞれに形の違う光る石を持つ。



『さぁ、人々の声に耳を傾けなさい。あなた方の争いで大地は揺れています。人々の願いは本来、純粋なもの。惑わすことなかれ。荒ぶるは人を壊すというもの』



一つ、また一つ光る石が投げられる。


一瞬の淡い光が暗闇に溶け込むように水の跳ねる音をたてて川にかえっていく。


あまりに小さな光で、人の目にはとまらない。



『誰かを想う願いとは美しい。あなた方の想いもまた美しいものなのです』



艶やかに微笑み、星の女王は人々に手を差し伸べた。



『さぁ、星に願いを。私たちは今、新たな時へと進むのです』



再び、キーボードがメロディを奏で出す。


人々が音へと目を向けたとき、星の女王は消えていた。


ライトアップされた奏が物語を繋ぐ。



『星の女王の言葉を聞き、双子の夫婦は争いをやめました。そして人々の暮らしを願いを通して知ることに決めました』



草を踏みわけ、手のひらにのせた光る石を人々に魅せた。



『さぁ、星を手に取って。あなたの想いを双子の神に伝えましょう。通じあう想いならばきっと、きっと……』



ーー声に出せぬ想いは、光る石にのせて。


顔を上げ、奏は眩しい笑顔を浮かべた。



「さぁ、まもなく時が変わる年越しです! 皆さん、願いを星に込め準備をお願いします! 慌てず、横一列になって天の川に向き合いましょう!」




***



私や黒咲くんが人々を誘導し、川の前へと横一列に並ぶ。


大きな声を出して汗を流しながら辺りを見渡すと、黒咲くんの父親が現れる。


マイクを握り、誘導をしていた奏のもとへ歩いていき、にっこりと微笑みかけていた。


奏は動きを止め、不安に視線をさ迷わせる。



「このまま君がカウントダウンしなさい」


「え……」


「大丈夫だから」



カチリと定まったかのように、奏が光る石を握りしめ、誇らしげに笑う。




「はい」


「奏! お願いね!」


「うん!」



そこに星の女王役を終え、すっかりあどけない少女に戻った麻理子が駆け寄り、奏の腕を掴む。


頬を染めて奏はマイクにハツラツとした声をのせた。



「それではカウントダウンでーす! 10、9、8、7、6、5、4……」



「3!」


「2!!」


「1っ!!」







「「ゼローッ!!!!」」






(あぁ、黒咲くんが笑ってる)



(私はもうそれだけで幸せだよ)




ーードサッ。




「時森、あけましておめでとう」



返事はなかった。




「……時森?」



年が明けた瞬間、私の身体は力が抜けて倒れていた。


明るく笑っていた黒咲くんの笑顔が凍りついていく。


私は目を開けていることも出来ず、遠くなる声だけが現状を伝えてきた。



「おい、時森っ!!」


「大変だ、救急車を!」


「どいて」



(この声は……金川先輩?)




「脈拍、心拍数ともに異常なし。出血もない。でも急に倒れたってことは体内で何かが……」


「なぁ、時森はどうして!?」


「落ち着きなさい。揺さぶらないで。安静にさせるのが一番よ」


「今、救急車よんだ。ご家族の方、いる?」


「アタシ、時森 芽々の姉です!」


「そうか、なら救急車に同乗してくれるかい?」


「はい」



「黒咲くんはこちらへ」


「で、でも……」


「周りの大人と身内に頼るしかないわ。あなたは他にやるべきこと、あるでしょ?」


「……はい」




目を閉じていても声だけは届いていて、私は黒咲くんを想い涙を流していた。



(大丈夫だよ、黒咲くん)



(大切な時にごめんね。私、あなたの未来に繋げられたかな?)



「黒咲、くん……生きて」





***




それから次に目が覚めたのは、陽の光を感じてのことであった。



「んっ……朝?」

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