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My soul,Your Beats 5

***


天幕の外に出ると、光る石を配っていた黒咲くんの前に一人の老人が立っていた。


周りは突然起こった騒ぎに戸惑い、何も言えずに視線だけを向けている。


腰の曲がった厳つい顔の老人、蒲田 雅箔はふたご町の復興会副会長だ。


黒咲くんの祖父の知己であり、とても大きな壁だった。




「復興会では反対の意見で決まったのに何を勝手にやっとるか! 誰が責任とるんじゃ!」



威圧されそうな怒鳴りで下から黒咲くんを睨みつける。


周りの視線を浴びながら黒咲くんは冷や汗を流し、わずかに声を震わせて石を握りしめた。



「これはオレが勝手にしたことです。責任はオレが……」


「高校生に責任がとれるか! 決まりごとは守ってくれないと秩序が乱れる!」



長いため息を吐き、静かな眼差しで黒咲くんを射る。



「伝統とは忠実に守ってこそ伝統。遊び半分にやられてたまったもんじゃない」


「遊びじゃありません! オレは本当にこの町を盛り上げたいんだ! 実際、こんなに人だって集まって……」


「今回だけだ。お前は何が一番大変かをわかっとらん」



これは萎縮させての諭す言葉。


諦めさせるための説得術。


間違っていると自覚させるための誘導。


歳を重ねた人が若者へみせる教えであり、守りであり、責めである。


レールは沿って歩くも外れて歩くも、そこに保証はない。


私たちは見えない足元をずっと歩くしかないんだ。



「石は持ち帰るようアナウンスして。星の女王とかも、なしだ」


「……いやだ」



こんなに熱くかすみそうな声を出せたのか。


黒曜石の瞳に月が映り込み、星を握りしめて黒咲くんは腹の底から想いを吐き出す。



「絶対にいやだ!! オレはこの星祭りをもっといいものにしたいんだ!!!」



空に吠える。


まるで空に訴えるように、高く、高く、高くーー。



「ふたご町はいい所なんだって、知ってもらいたいんだよっ!!」


「由利くん、君はもう少し世の中を……」


「ストーップ!!!!」



黒咲くんが欲しいと望むのなら叶えよう。


私はそのために時をかけた。


この照らされた身は、星を宿らせて輝きを見失わないように風を切る。



「と、時森!?」


「こういうのはきっかけが大事なんです! 何もしなきゃ何も変わらない!」



突如割り込んできた私に黒咲くんは高い声を出して驚く。


見上げてくる雅箔の目は怖かった。


それでも目の前にいる人は、黒咲くんの祖父の知己だったのだから向き合いたいと思った。



「現状維持ってのは周りが進むと下がるものなの! 先がわからなくてもやってみなくちゃ!!」


「甘いこと言うな! 金も人も、時間もタダじゃないんだ!」


「だったら潰してんじゃねーよ!!」




何度も潰された。


情けないほどに泣いても誰も助けてくれない。


痛い目で見られるのが常だ。


それでも私はその苦しさも、痛さも、虚しさも全部知っているから。


潰されそうになる光を守りたかった。


この穴ぼこの心は、星のためにある。



「無価値だとか決めつけて、失敗して勝手に失望しやがって……そういうのが若者の成長を止めるってわかんないの!? カッコわりぃって、それが一番カッコ悪いって!!」



あぁ、止まらない。


煮えくり返った思いが噴火する。


このしんどさはなんだ。


声を出してもそれが虚しさに変わったとき、絶望は訪れる。


未来で黒咲くんは壊れてしまった。


その分岐点はどこかわからないし、いつそうなってしまったかも、そこにどれだけ自分の要素があったかも不明のままだ。


だから「頑張りたい」の意思には応えるも応えないも、心を壊すことにだけは繋げてはいけない。


「あなたのためを思って」の言葉は本当に相手のためなのかを考え、無責任に行動を束縛しないで。


呪いを呪いのまま終わらせるようなことにしないでーー!!



「頑張りたいって言ってんだから頑張らせてよ!! 成功も失敗も、責められてたまるか!

!」



息が苦しい。


喉、こんなに痛かった?


でも止めてはいけない。



「リスクはある……だけど、一人で背負うものじゃないでしょ? 同じ目標を抱いたならそれはみんなの夢なんだから……」



黒咲くんがいたから私は光を見た。


その光がなければ私は頑張る勇気もない。


奪われたくないのなら、カッコ良く生きるしかないんだ。



「叶わなかったら人のせい、失敗したらダメ! そんなこと考えてる暇あったら助けろっての!! アンタらが見てるだけになったら叶うものも叶わなくなる時だってある!! 勝手に落胆して、無価値にすんなっ!!」



涙が溢れるのは何故?


どうしてこんなに虚しい?


本気になればなるほど虚しさがつきまとい、最後に押しつぶされるのはどうしてなのだろう。


吐きたいとはこういうことだ。


叫びたくなることもある。


奇異なものを見てくる目は、私にだけで十分だ。


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