My soul,Your Beats 3
「は? あんた誰よ」
「大学生って意外にアタシらと変わらないんですね。遊び足りないって感じです」
奏の挑発にイラッとし、珠紀は反吐する気持ちを露わにする。
「なによあんた。あんな媚び売りのダセー奴の友達なわけ? スカート折ったり調子乗って……」
「友達ですけど何か?」
「えっ!? 北島 麻理子!?」
奏の後ろから現れたのは大きめのコートを羽織り、星のドレスを隠した麻理子。
艶やかに目を細めて微笑んでいる。
ドレスの膨らんだ部分を摘み、膝を曲げて気品に満ち溢れた星の女王の仮面を被る。
「年越しの瞬間、あたしは星の女王になる。どうぞ見に来てくださいね、めめりんの先輩?」
あまりの妖艶さに周りの男たちは真っ赤になり、呆然と立ち尽くす。
クスリと笑い、麻理子は奏の手を取り歩き去っていく。
横を通過したとき、ようやく珠紀は我を取り戻し振り返った。
「ちょっとぉ、あんた!!」
「へぇ、あの子かわいいじゃん。レベルたけぇ」
「ええぇー……」
「うちの芽々に何か?」
ゆらりと珠紀の背後にとりつくように現れた女がいた。
珠紀は裏返った悲鳴をあげ、男の後ろに逃げていく。
顔だけ出し、驚かせてきた女に目を向けた。
「も、百々先輩!?」
ニコニコと威圧ある笑顔で珠紀に詰め寄っていく百々。
ジリジリと近づく笑顔がやたら怖く、珠紀は冷や汗を流した。
「な、なんでもないで~す……行くよ!」
「えー」
「行くっつってんじゃん!!」
背伸びをして男の耳を引っ張り、がに股で離れていく。
腕を組み、ため息をつく百々を見て残った珠紀の女友達が頭を下げてきた。
「なんか、あのおバカがすみません」
「いいよ~。バカがバカに噛み付くだけだから」
百々の言葉に彼女もクスッと笑う。
世話焼き係という共通点でなんとなくおかしくなり、親近感を抱いていた。
それから百々は屋台でふたごやきを買い、神社の階段でもぐもぐと頬張り出す。
その隣で百々の大学の友人もふたごやきをニマッとして食べていた。
「百々の地元のお祭り、屋台の料理おいしーねぇ!」
「でしょ? ふたごやき、おすすめ」
お祭りは順調に人が集まっていた。
***
気を取り直し、私たちは屋台の道中でチラシと光る星を配っていた。
「星祭り、年越しに星投げやりまーす! 高校生発案なのでぜひ参加してくださーい!」
興味本位に受け取る人もいれば無視する人様々であった。
受け取ってもらう率をあげるため、里穂が調子にのり星投げのハードルをあげていく。
「我が校の姫が星の女王様になりまーす! 超絶美人で、会いに行ける女王様でーす!」
「会いに行ける女王様って」
「なんか格式高くて良くない? レア度高そう」
(なんという楽しみ方や)
割とむちゃくちゃに楽しむ自由な里穂に笑いがこぼれた。
会いに行けるというのはこの頃はまだ希少で、優位性のあったコンセプト。
やがてどこも真似をしていき、価値は飽和する。
価値とはある時に武器にしろ。
必ず劣化していくのだから強化は忘れずに。
コンテンツの消費はあっという間だ。
満たされた消費活動に付加価値をつけなければ勝負にならない。
そして記憶に残るクオリティがなくては長生きはせず、下降していくものだった。
「それ、もらってもいいかい?」
突如、後ろから声をかけられ驚き、肩を跳ねさせながら振り返る。
「あ、はい!」
モタモタとした動きでチラシと光る石をセットにして渡す準備をする。
「どうぞ。チラシと、星……」
「……ありがとう」
白髪混じりの黒髪に穏やかな目元。
小じわと眉間のシワが刻まれた顔はどこか懐かしい気持ちにさせてきた。
少し寄れた上着に、重い背中。
独特の匂いをまとった影の濃さ。
その後ろ姿を見送り考え込む。
「どこかで見たような……」
「あれ、黒咲くんのお父さんだよね?」
「黒咲くんのお父さん!?」
「あ、ちょっと芽々!」
深くは考えなかった。
黒咲くんの父親だと認識した瞬間、足は勝手に動き、その背を捕まえようと走り出していた。




