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流星2

さて、またまた脳内暴走は置いておきポケットから出てきたのは巨大真珠のような丸い球。


角度によって色が変わり、透明にもみえてクリスタルにも見えてくる。


例えるならば七色の石だ。



「……なにこれ」


「めっちゃキレーだな! なにこれ、すげー!」


(興奮していらっしゃる)



星好きの彼からすると未知の石に見えるのかもしれない。


隕石だったりして、と冗談程度に笑った。




「なぁ、時森! これ、いらないならオレにちょうだい?」


「え、えーっと……」


(なんでそんなもの持ってるんだろ? 元々持ってたのかな?)



それでも欲しがる人のもとにいた方が石も幸せだろう。


私が見たいだけの夢の世界。


ここにはいない幻想の黒咲くんにこうして何かしてあげたかった未練なのだろう。


果たしてこれで未練解決になるかは疑問ではあるが。




「い、いいよ? あげる」


「よっしゃー! サンキュー!」



(本当に明るいなぁ。いつも友達と楽しそうに笑ってて、優しくて、みんなの人気者だった)



だからこそ、里穂からの連絡が嘘と思いたかった。


あまりに実感のないニュース。


私は彼が笑って生きていたのをたしかに見ていたのだから。



(そんな彼がどうして自殺なんか……)



夢でもいい。


私は黒咲くんの本音を知りたかった。


それが私にとって都合のいい答えを出してくれると分かってて、私は黒咲くんに向き合った。



「黒咲くん、あのさもし悩みがあるなら──」


「おいゴラァァァ!! お前らなに勝手に入っとんじゃあ!!」



突如、屋上の扉が勢いよく開かれ黒髪オールバックのエス顔な教師・橋場 幹介が走ってきた。


見た目のエセ紳士さにあわない田舎の頑固オヤジな口調である。




「は、橋ミッキー!?」


「やべ、逃げるぞ!!」


「わっ!?」



パッと黒咲くんが私の手首を掴む。


その手は冬なのに汗ばんでいて、あたたかかった。



「ぉおい!! 明日覚悟しておけよ!?」




意外と足の遅い橋場の横を通過して私と黒咲くんは屋上から逃げていった。



全力疾走で学校を飛び出し、敷地の脇の道。


用水路の流れる音と、冬の寒さでピリつく感覚があった。


足を止めると黒咲くんはいたずらっ子のように歯をみせて校門の方へと振り返る。



「ここまで来れば大丈夫かな?」


(久しぶりに全力疾走は、ちょっと、アラサーには、しんどっ……)


「ははっ、息上がりすぎだろー」


「そんなこと言われたって!」


(アラサーになればわかることじゃ!)



この身体は十代のはずだが、走ることを忘れたアラサーにはちょっとした運動がハードであった。


唇を尖らして黒咲くんを睨みつける。



(アラサーに……)



そこで私は現実と夢の狭間に立つ黒咲くんを見て胸が締め付けられ、息が出来なくなるくらい苦しくなった。


この人はあの世界でもう生きていない人なんだ。


こんなに表情があって、息をしてて、喋ってて、あたたかくて、風に髪がなびいてるのに。


もう彼はいない。


自分で命を絶ってしまった生きていけない側の人間だったのだ。



ここにいる黒咲くんはなに?


どうして笑っているの?


これも夢だから私の好きを詰め込んだ美化した黒咲くんなのかな?


私は一体どうなってるの?


ここにいる私は誰だ。



「そうだ、スマホで……」


「スマホ? なんか流行りだしてるやつ?」



制服の胸ポケットに入れていたスマートフォン……ではなく折りたたみ式のケータイ電話を取り出す。



(ガラケー……え、ガラケー!?)


「2010年12月14日……」


「今日だけど?」


(そんなことって……)




私は足から力が抜けて地面に座りこんだ。



「えっ!? 時森!?」


(こんなことが起こるの? 夢だよね? そうじゃなきゃこんな……)



青ざめ地面にへたりこんだ私に、目を合わせるようにしゃがみこむ黒咲くん。


私を見つめる瞳はまるで黒真珠。


高校生なのに少し大人っぽく見えていた原因だと気づいた。



「本当に大丈夫か?」


「あ……」



黒咲くんの手が頬に触れる。


わずかに汗ばむあたたかさと、頬がしっとりとしていく感覚は生々しい。


私は込み上げてくる熱い感情に、思わず泣きそうになった。




(あたたかい。これは生きている人の手だ)



黒咲くんは生きている。


私の好きだった黒咲くんがここにいる。


喉が焼けて、何度も何度も私に多幸感をくれた初恋の人がいた。



「黒咲くんっ! 私!!」


(ずっと好きだった! 伝えずに卒業したこと後悔してて!)



いざ口を開いても言葉が出てこない。


焼ける喉と火照る頬。


こみあげる涙と爆発しそうな感情の反応が揃っているにもかかわらず、恐怖が勝る。



結局、高校生だろうがアラサーだろうが恋愛には臆病でブレーキばかりかけるところは何も変わっていなかった。


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