My soul,Your Beats 2
「……虎箔くんは、今なにを」
「今は隣町の高校に通ってるよ……っと、はい。ふたごやきお待ち」
「わーい、ありがとおじさん。あ、おじさんにもこれ渡しておくね」
「……なんだこれ?」
里穂が渡したのは年越しの時に投げるための光石だ。
それが何かを知らない蒲田父は照明に石をかざしながら首を傾げる。
恍惚に、里穂が膝を折って微笑んだ。
「年越しの星投げ、ぜひこの石で参加してください」
「あ、君たちか。親父がブツブツ言ってたやつ」
蒲田家の祖父・蒲田 雅箔は復興会の副会長をしている。
黒咲くんの父が会長をしているわけだが、年齢のこともあり雅箔は一歩下がった立ち位置にいるというわけだ。
だがその頑固さはまったく関わりのない芽々や里穂の家でも話題になるレベルであった。
つまり今回の意見反対で黒咲くんを落ち込ませた一人である。
あの時の切羽詰まった黒咲くんを思うと段々と怒りが込み上げてくる。
繋がらない携帯電話、返事のないメールにどれだけ焦り、悲しい気持ちになったことか。
「若いもんが勝手なことしてるだなんだって。ふーん、こういうことやってたんだ」
募らせる怒りに、蒲田父の発言がトドメを差した。
私は肩かけのトートバッグから一枚の紙を取りだし、蒲田父に押し付ける。
目を赤くさせながら、声を裏返らせて意地を見せた。
「絶対、絶対に最高の年越しにしますから! これ、チラシもあるんでよかったら屋台に貼ってください!」
「あっ……芽々!?」
「……このチラシの子、キレイだなぁ」
私は里穂の呼び声を耳にしながらもその場を走り去っていく。
あわせて能天気な蒲田父の感嘆も聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
お祭りの賑わうざわめきをかき消すほどに、歯を食いしばり、神社の鳥居まで走ると足を止め、膝に手をついた。
「芽々〜、待ってよー!」
里穂が追いついたとき、私は汗をダラダラと流しながらはにかんでピースした。
呆気にとられるも、すぐに里穂はクスリと笑い、ピースをして指先を重ねた。
「やるじゃん、芽々」
「へへ、ギリギリまで宣伝しないとね」
ただの憂さ晴らし。
だが自分の強がりと嘆きたい気持ちを混ぜ合わせたことで妙なスッキリ感があった。
石段に座り込み、もぐもぐとふたごやきを頬張る。
たこ焼きからのふたごやき、粉にソースは変わらないので美味しいけれど少し飽きていた。
「準備は黒咲くんと麻理子様と奏ちゃんが頑張ってくれてるから」
「倉田がカメラ回してくれたのは意外だったよね。モグモグ……ん〜。ふたごやき、まじソースだな」
「ねー。倉田くんって黒咲くんのこと信頼してるよね」
「……それもありだな。めっちゃ楽しい展開じゃん」
「それはダメー! リアルでの想像はやめてくれー!」
「あっはっはっ」
リアルと仮想を混ぜてはいけない。
面白いのならばなんでもネタにするとは、里穂はいつか誰かの地雷を踏みそうで怖い。
(ミーハーめ。楽しければなんでもいいってか?)
「……ん? あれ、時森?」
声をかけられ、顔を上げる。
そこに立っていた緑の着物をきた女性に、ゾッとし背中に冷たい汗を流した。
「……っ金川、先輩」
「やっだ、シケたツラしちゃってぇ! そんなんじゃ良い年越し出来ないよォ?」
金川 珠紀、中学の部活の先輩だった人だ。
男子と仲が良かったこと。
思ったことはハッキリ言ってしまう。
空気も読めず、部活に必要なものは早々にハイスペックなものを揃えてしまったこと。
目つきが悪く、睨んでると誤解されたこと。
かわいいに憧れてスカートを折ってしまったこと。
全ての行動が先輩たちの怒りをかってしまった。
「ね、着物いい感じでしょ? みんなで着物着てきたんだぁ!」
「……素敵ですね。ぜひお祭り楽しんでください」
もう昔のことだ。
里穂の言う通り、もう気にする必要はないのだ。
口角を上げ、丁寧に笑いかける。
「これ、年越しの時に投げる願い星です。よかったら皆さんでどーぞ」
「は?」
光る石を珠紀の手のひらにのせ、立ち上がる。
「行こ、里穂」
里穂とともにお祭りの人混みの中に入っていく。
それを珠紀は気に食わなかったのか、一歩踏み出し吠えだした。
「ちょっと待てよ、また調子乗ってんの!? お前そういうの許されるタイプじゃーー」
「うちのめめりんが何か?」
そこに現れたのは目を細め、ニタッと笑う奏だった。




