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My soul,Your Beats 1

2010年12月31日、金曜日の夜。



私たちはついに星祭り当日を迎えた。


町で唯一の神社の前に屋台が並び、娯楽を求めて町の人がやってくる。


今年は町の外からも人が来ているのか、例年より人数が多い印象であった。



「たこ焼きうまーっ!」



黒咲くんや麻理子、奏たちが星祭り本番の準備に勤しんでいる中、私と里穂は屋台をめぐり、たこ焼きを頬張っていた。


ほっぺがこぼれ落ちそうなアツアツさと蕩ける食感に唸る。



(はぁ~、屋台のやつ好きなんだよねぇ。田舎の屋台で食べると三割増しで美味しく感じる不思議)



子どもの頃によく屋台で食べたからかもしれない。


過去の美化になっていた思い出が蘇り、童心に返って屋台を渡り歩いていた。



「あ、あれも食べたい。ふたごやき」


「えぇー、また粉物?」


「お祭りの大半は粉物だよ」



お好み焼きの上に黄身が二つの目玉焼き。


高カロリーかつ腹のふくれる炭水化物だ。


私はじっとお腹を見下ろし、親指と人差し指で摘んでみる。


アラサー時の自分と肉のつまめる量が違う。


さらに言えば弾力、摘める範囲の広さ、指に対しての痛覚。


なんと生々しい差であろうか。



(こんなに食べてたらお腹が……プニるよなぁ。はあぁー、この頃はまだ痩せてる方だけどさぁ)



一食抜けば落ちる、なんて必殺魔法は使えなくなる。


運動しても落ちない。


疲労が増える。


体重計にのって努力と結果が比例しないことに絶望し、挫折する。


色気のない女のダイエット録はこんなものだ。


好きな人によく見られたいのための好きな人が近くにいなかった結婚である。


黒咲くんは物理の距離としても遠い人だった。



(ま、いっか! いまは高校生なんだから!)



結局、一食抜いてマジックに頼ってしまう妥協と脱力であった。



「「ふたごやきくださーい」」


「あいよ! って、時森さんと芝田さんちの娘さんか」


(……誰だっけ?)



頭にタオルを巻き、メガネをかけた人の良さそうな顔立ちの中年男性がいた。


どこかで見たことあるようなと考えても、あまりに前のことなのでそう簡単に思い出すことが出来なかった。



「蒲田のおじちゃん、こんばんは~」



(蒲田……蒲田ってなんかいたなぁ……)



「ほら、復興会副会長の息子さん。小学校の同級生に蒲田っていたでしょ? あいつのお父さんだよ」


「あぁ、蒲田のお父さん! お久しぶりです!」



朧気な記憶を辿り、思い出したのはちびっ子坊主の小学生男子であった。


足が速そうだと思ったら意外と遅く、頭が悪いかと思っていたら常にテストは100点満点。


ついには「隣町の私立中学行くんだ。スゲーだろ」と鼻を高くして卒業していった。


男子と仲の良かった私の後ろを着いてきて回ったくせに、卒業間近になった途端に生きる世界が違うんだと言いたそうに去っていった。



(あんのクソチビな蒲田の父親か、くそぅ)



父親は悪くないが、なんだか腹が立つのであった。



「芽々ちゃんキレイになったねー。里穂ちゃんも」


「アタシはオマケですか」


「いやいや、そんなことないって! 里穂ちゃんアイドルにいそうだよ!」


「そー? バンギャルにはよく見られるけどねー」



言い訳がましい蒲田父に対し、里穂は全く気にしていないようだ。


里穂は私服で歩くと周りから注目を浴びやすい。


チョーカーをつけたり、シャンプーで落ちる髪染めで一部にメッシュを入れたりするからだ。


いわゆるパンク系ファッションであったが、この田んぼだらけの田舎には肩身の狭いものだった。


ミーハーなのに自分のことは何を言われようと笑って聞き流す強靭メンタルの持ち主だった。



(未来では三人の子持ちママだもんなぁ)



その根強さに憧れた。


だから大人になっても続いたのかもしれない。


付かず離れずな距離であっても尊敬する気持ちが揺らがなければ長続きする友情なのだろうと納得した。



「小学校の時と比べたら雰囲気変わったよね。 芽々ちゃんは女の子らしくなったし、里穂ちゃんは強くなった感じがするよ」



デレデレと後頭部を撫でながら笑う蒲田父をなんとなく冷ややかな目で見てしまう。


自分もまたこんな感じで小さい子に言っていたと、妙な親近感と加齢を痛感したからだ。


元の年齢を考えれば高校生と蒲田父の中間地点であった。



「芽々ちゃんの後ろをついてまわってた頃の息子が懐かしいよ」



(複雑。……男の子は中学入って私から逃げていったし)



里穂の言うように、私を大切にしてくれなかっただけのこと。


私よりも周りから笑われる羞恥から逃れることを優先されただけのことだ。


思春期にはよくある話だが、当時受けた傷は簡単に癒えなかった。



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