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GLORIA2

***


【side:芽々】


夕方の教室で、麻理子の星の女王様ドレスの最終調整に入る。


実際に麻理子がドレスを着て、それを私と奏が確認し、細かな直しをしていた。


その姿を里穂がカメラを回して撮影している。



「ちょっとぉ、針刺さったんですけどぉ!」


「ひぇ、ごめんなさいぃ」



仮止めの針を抜こうとしたらうっかり力が入り、ドレスを突き刺してしまう。


それがチクリと麻理子に刺さり、眉間に皺を寄せ腹を立てていた。


ひんひん泣く私に火を吹く麻理子、それをゲラゲラ笑って見ている里穂。



「麻理子かわいいよー。もう最高だよぉ」



そして女王でも姫でもアイドルでもない可愛らしさのない麻理子を見ても奏は頬を染めてべた褒めしていた。


それに機嫌を良くして麻理子は奏に微笑みかける。



「ありがと。奏のおかげでめっちゃいい感じになった」


「麻理子ぉ」



この二人の友情は距離が近い。


特に奏が麻理子に向ける友情はかなり目を輝かせた女の子特有の盲目さがあった。



「麻理子様って私には結構辛辣だよね。奏ちゃんと扱い全然違う」


「なに言ってんの? 奏が特別なのは当たり前じゃん」



鼻息を荒くして、私をじろりと見下ろす。


その目は奏に向ける温かみとはまるで反対の氷河であった。



「奏は最高の親友だからね。奏がいないとあたし、何も出来ないし」


「衣装も奏ちゃんが作ったようなものだしね。いや、麻理子様も作ってたけどクオリティが……」


「お前はもう少しデリカシー持てっての!」


「ぴゃあー! ごめんなさいぃ!」



あまりに麻理子が私を蹴落としてくるものだから、反抗心で嫌味を言ってしまう。


すると麻理子への悪意レーダーを察知した奏が牙を向き、私の頭に縦チョップを食らわせてきた。



「いいよ、奏が怒る必要はない。めめりんは仮止めの針でさえぶっ刺してくるレベルだから気にすることないのよ」


(ひどい言われようだぁ……)



毒舌では麻理子には敵わない。


よよよと私は泣き崩れる真似をして、あからさまに敗北を見せていた。


その間にも集中して奏は最終調整をサクサクと進めており、手芸バサミで細かな糸を切っていた。



「……よし、出来た。これで本番バッチリだね」


「やばーい! こんなの着れるなんて最高すぎるー!」



あまりの出来栄えに喜び、麻理子は腕を広げてクルクルと回り出す。


装飾が光を弾いてキラキラと眩しかった。


そんな楽しむ姿を里穂はしっかりとカメラにおさめ、満足そうにしている。


私もまた、成し遂げた高揚感に口角があがり誇らしい気持ちになっていた。



(いやー、本当に麻理子様は美人よね。 未来ではどんな人と結婚したのやら)



気になるものの、この時点の麻理子に聞いても無駄なのでそっと奥にしまう。



「そ、そういえば黒咲くんは?」



頬を染めてたずねてくる麻理子は恋する女の子で、初々しくて可愛かった。


本当に、いつ見てもヒロイン顔で主役級だ。


今の麻理子に好感を持つ私は、ライバル役にもなれず助力してしまうのだった。



「光る石の確認してるはずだよー。 光を遮りたいって言ってたから……視聴覚室かな? 聞いてみよっか」


「あたしが連絡するっ!」



ルンルンとスマホを手に取り、黒咲くんに電話をする麻理子。


その姿を見ながら私は高校の懐かしさを思い出していた。


(視聴覚室って、たしか減ってるんだったかな? 教室のハイスペック化なんだろうなぁ)



学校でも変わっていくものがある。


きっと冬の寒さを凌ぐためのストーブや、黒板消しと消えていくものがたくさんあるのだろうと感慨深くなった。




目を閉じ、物思いにフケっていると教室の引き戸が開く。



「調子はどうー?」


「遠藤先生!」



現れたのは音楽教師の遠藤 詩であった。


冬休みだというのに学校を開放し、協力してくれたのが遠藤先生であった。



「おかげさまで順調です。休みの日に開けてくださりありがとうございます」


「いいのよー。 生徒が頑張るのを応援したいからね」



チラリと麻理子と奏の方へ目を向ける。


慈愛に満ちた優しい目をしていた。



「北島さんの星の女王様、楽しみね。 願い事、考えておかなくっちゃ」


「はい!」



どんどんと協力者が増えていく。


一人で出来なかったことがみんなでやるとトントン拍子である。


無条件に頑張れる体験に心が踊った。



【私たちは、少しずつ忘れていく生き物だから】


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